111話 天地の差
「ちょっと話さないかい?おにいちゃん」
名:?
レベル:192
種族:人間
性別:男
職業:
【暗殺鬼】
武器:?
防具:?
攻撃力:?
防御力:?
素早さ:?
知力:?
精神力:?
器用:?
運:?
状態:ふつう
称号:【到達者】
所有スキル:?
ユニークスキル:?
(圧倒的、だな)
姿を現した男に『目利き』をかけてみたものの、殆どその全容を暴くことはできない。
分かったことは、あまりに物騒な『職業』だという事と、遥か格上だという事。
「・・・・訪問の理由でも説明してくれるのか?」
恐らくこの男の前では意味を成さないであろう構えを解き剣を収めると、提案に乗っかることにした。
仕掛けても迎え撃っても、その先にあるのは『死』だ。
(全力でこいつを観察する)
攻撃の意思は見せず提案に乗り、ヤツのペースに巻き込まれるんだ。
その中で活路を見出す。
(見ろ。とにかく見ろ。すべての情報を逃すな)
ヤツが羽織る漆黒の襦袢。
のぞく腕は白い布をぎっちり巻き、『忍者』連中と同じ動きやすくテーピング代わりにもなりそうなほどぴったりとした履物。
口元をのれんのように覆うこれまた黒い布切れ。
ひょうきんさを醸し出している黒の丸メガネ。
そして身軽さを象徴する足元を包む黒い足袋。
その纏う黒の中に、耳元に光るいくつかのピアスと艶のない白髪が嫌に印象的。
(全体的に軽装)
余程腕に自信があるのか、そう見えないだけでとてつもない防御力を秘めているのか。
「なんだ、堅物だとおもったけど結構話せそうじゃないか」
――――ただ、と。
「その『眼』は、いただけないねぇ」
「――――」
スキルは、反応した。
危機が迫っていると、警鐘が鳴った。
「ほっ。いいねぇ、微動だにしないとはいい感じにイカれてる」
(馬鹿言え。動けなかったんだよ)
だが攻撃されたと理解したのは、視界に影が差した瞬間。
ヤツの投げたと思われる刃の切っ先が、瞬きする隙間もない眼球のコンマ数ミリの所で静止したその瞬間だ。
両手を上げた状態からどう投擲のモーションに移行したのか、この目が捉えることはなかった。
(空中で静止した・・・?)
投げられたのは俺が斬ってきた連中と同じ獲物、苦無。
その持ち手から黒い線がピンと張って伸びている。
「嫌いじゃないよ。おにいちゃんみたいなイカれポンチ」
そう言うと黒い線に引き寄せられるように苦無は男の手元へと戻った。
(伸縮性のヒモ?いや、手にそんなものを仕込んでいる様子はないか)
惜しげもなく見せてきた手札をここぞとばかりに観察する。
(『暗殺』と名がついた職業なら隠し武器とかか?)
いったいどれほどの手札を隠しているのやら。
(もっとも、タネが割れたところであの超速の投擲をどうこうすることはできないだろうが)
「ふんふん。考えてるねぇ、ホントその眼だけは頂けないないなぁ」
少しの間、男は唸ると。
「お約束っちゃお約束だけど。さっきの可愛いお嬢ちゃん。いい引き金になるんじゃないかな?」
(・・・・最悪だ)
何なんだこいつは、行動が全く読めない。
圧倒的なレベル差か、【精神観測者】のスキルが全部通らない。
挙句、話そうと言い出したと思ったら、今度は唯火をやり玉にあげやがった。
(マジで何が目的なんだ)
「何が目的なんだ。って面だねぇ」
考えが顔に出ていたようでまんまと見透かされる。
すると再び言葉を探すように唸りながら腕を組むと。
「まぁ、目的って目的があるわけじゃないんだけどね。とりあえず君に会いに来たんだよねぇ」
「・・・・何?」
俺に、会いに?
まさか、竜種の魔石?いや、『魔核』が狙いか?
「あーいやいや、勘違いしないでほしいんだけどお宝目当てってわけじゃないのさ」
腕を組みながら銃口を向けるように人差し指を向けると。
「生で間近で、見たかっただけなんだよね。ほんと」
「・・・・そんな有名人になった記憶がないが。人違いじゃないのか」
「いやいやいやいや。あの可愛いお嬢ちゃんを全面的にフォローしながら、ウチの若い衆をものともしない戦いぶり。間違いないよぉ」
ずっと見てたのか。
「ただねぇ、どうにももったいないというかねぇ・・・・」
「? 何だか知らないが、会うだけならもう目的は果たしたんじゃないか?帰ってくれると助かるんだが」
駆け引き抜きで率直な願いを口にする。
どうにも何か使命感や、理屈で動く感じの人間ではない。
興味が失せれば帰ってくれるだろうと踏んだ。
「うん・・・・うんうん」
相変わらず腕を組みながら唸りつつも、一人頷く。
そして――――
「気が変わった。少し戦ろう」
「ちっ!」
本当に読めない、なににも縛られていないからこそどうにでも転ぶ。
先の俺のこいつに対する印象は間違っていなかったわけだ。
「あぁ、あぁ。まず条件を整えてからだよ」
「さっきから訳の分からないことを――――」
最早戦闘は避けられないと悟り納めた剣の柄を握り込む。
それと同時に、感じる体の違和感。
「――――体が、動かない?」
いや、剣は握れた。
正確には両足。
両足だけが床に縫い付けられたみたいにびくともしない。
「動けないよ。足、縫っておいたから」
肉体には攻撃を受けた様子もなくステータスの状態も異常なし。
『足を縫った』という言葉に足元を見下ろす。
「おいおい、まさか」
「そそそ。ありがちだけど強いよぉ」
二本の苦無が俺の足下。
床に映る俺の両足の影に突き刺さっていた。
(影が『縫い付けられた』から俺も動けないっていうのか!?)
なんてでたらめなスキルなんだ。
「じゃあこっちは舞台整えるから。そこで待ってなよ」
「・・・・おい。おい!何のことだ!」
「言ったじゃないか。『引き金』が必要だって」
遠回しだが言っている意味とやろうとしていることが理解できた俺は影の拘束を強引にほどこうとする。
だがやはりびくともしない。
「! そうか、抜けば・・・!」
「難しいと思うよ?それめちゃ硬いから」
(ただ床に刺さってる感じじゃないのか!?)
抜こうとするもこちらもびくともせず、奴はゆったりとした足取りでこちらへ歩み寄ってくる。
「『眼』がさぁ。省みてるんだよねぇ。君、守るものの事ばっかりで『死ぬ気の本気』、出したことないでしょ?」
「くっ!この、動け、よ」
俺の横をすり抜けようとして、そこで一度立ち止まる。
「もったいないじゃん。そんな不自由」
体勢を崩し膝をつく。
軽薄そうな声が頭上から降り注いでくる。
「だから、見たくなっちゃったんだよね。本気の君」
「・・・・」
勝負にすらならないこの状況。
俺は少しでも足止めをするために。
「ん?なに?何か言ってる?聞こえないよぉ」
「――――」
声にならぬ声で関心を引き寄せる。
「はぁ・・・その甲斐甲斐しい頑張りがさぁ。枷にさぁ――――」
「――――ここ」
伏せた視界。
影を縫い付けられた床の、ただその『一点』を見定め。
「――――だッ!!」
「!」
『物核探知』
狙いすました拳は、極小に光る物質の核。
脆い部分へと沈み込み。
「ぉお!?」
足場は陥没、崩壊し。
間の抜けた声と、影を拘束していた床、そして俺自身、全てを瓦礫と砂塵に飲み込み。
崩落していった。




