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101話 小さき器に大きな苦悩

「久しい、という感覚でもないが。また会えてうれしい。姉者に兄者」



そう言いながらハーフエルフにして、二つの人格を有しているであろう少女は俺たち三人の元へと歩いてくる。



「あ、あねじゃ?・・・・あ。ナナシさんが言ってた、『フユミちゃん』?」



そうだったな。

唯火は、朱音がこの子を保護しようとしてホテルから連れられて以降意識のあるこの子とは接していなかったんだ。



「ああ、そうだ・・・・で、いいんだよな?」



俺としてもまだその詳細を聞かされていないから戸惑うところもあり、今の彼女がどちらの人格なのか断定はできず、本人と朱音に確認を取るように問いかける。



「ええ、そうよ。今の彼女は、ユニオンのギルドマスター」



それを肯定するようにフユミちゃんも頷いて答える。



「ほんとに、ハルミちゃんじゃないんです、ね」



戸惑いを隠せずにいる唯火は立ち上がり、彼女の元へと近づくと屈んで目線を合わせ。



「私のことは、わかるの?」



少し不安そうにフユミちゃんに問う。



「もちろん。ハルが動いている時もフユはその感覚、見たもの聞いたことを共有できる。だから、ハルが姉者に抱いている好意はフユも共有している」


「・・・・そっか。こっちのフユミちゃんはなんだか大人みたいなしゃべり方なんだね」



自然に、唯火の手は小さな頭に伸びサラサラの髪をすくように撫でた。

そうすると、くすぐったそうに目を細め嬉しそうにするフユミちゃん。

その光景はハルミちゃんの面影とまるっきり重なり、胸をあたたかくさせた。



(人格が二つ、といっても根っこは同じなのか?感覚の共有と言っていたが)



ふと、俺の中にある疑問が生まれる。



(ハルミちゃんとフユミちゃん。どっちが本当の人格なんだろう?)



今この光景を前に無粋な勘ぐりだとは自覚しつつも、少女の二つの人格にそんな疑問を抱いてしまった。



(ハルミちゃんという女の子の中に『フユミ』が生まれたのか。フユミちゃんという女の子の中に『ハルミ』が生まれたのか)



そんななぞかけのようなことを考えている間。

しばらくされるがまま心地よさそうに頭を撫でられ、それが終えるとフユミちゃんは薄く頬を染めつつ。



「コ、コホン。二人は、フユとハルの事をどこまで聞いている?」



照れ隠しなのか、大人のように咳払いをして話を始める少女に、思わず俺と唯火は軽く笑ってしまった。

だが、その内容は先の思考の核心を突く重要なものだったのですぐに切り替える。



「まだ、何も聞いていない、といっていいな・・・・君たちの体に二つの人格が存在している、としか」


「そうか・・・」



それをユニオンの次席、響さんに聞いても本人から聞いた方が良いというような旨だった。



「目が覚めてすぐ、響には今の状況は聞いておる。『竜種』と戦っているとか」


(朱音だけでなく響さん相手も呼び捨てなのか)



その光景をイメージするとかなりシュールであった。



「ああ。今俺たちは街に湧いてきてる竜種たちの討伐にあたっている」


「それが、どうしたの?フユミちゃん」



フユミちゃんはうつむき、身を包んだワンピースの裾を両手でギュッと握りしめて言う。



「猶予・・・というか、心の準備をする期間が欲しい」


「マスター?」



彼女のその様子に、朱音も戸惑い。



「フユのこと、姉者たちに教えなきゃ、だけど・・・・まだ、フユは、怖い・・・・から」



詰まらせながら言葉を紡ぐ姿に思わずといったところだろう。

唯火は再びフユミちゃんの頭を撫でる。


そのおかげか、幾分落ち着きを取り戻すと。



「・・・・竜種の名持(ネームド)を討つまで待ってほしい」


「・・・・うん。わかった」



先の疑問に加え、なぜこんな小さな子がギルドマスターに就いているのか?

朱音を蘇生させたあのスキルは何なのか?

今さっきこの子は何に怯えていたのか。


そのすべての疑問は、ハルミとフユミ。

この二人の人格の秘密に隠されているのだろう。

であれば、問題ない。



「別に急ぐことでもないさ。話したくなったら話してくれ」


「・・・すまぬ」



子供らしい仕草にそぐわぬ口調に改めておかしくなり、苦笑した。

このしゃべり方もそれなりに理由があるんだろうか。



「そういえば、ハルミちゃんの方はいまどうなっているんだ?」


「ハルはまだ、『反魂再生リザレクション』の反動で眠っておる・・・・フユと違って、あれを使うとハルは一週間は起きてこない」



反魂再生リザレクション』。

あの時ビルの屋上で俺に斬られた朱音を蘇生させたスキルか。


なんとなしに朱音を見るとどこか申し訳なさげにしていた。



「一週間、か。あと三日、四日は起きてこないんだね」


「姉者にはハルの方がなじみ深いであろう・・・・すまぬ」


「ううん。フユミちゃん、そう言う事じゃないよ。うまくいえないけど、そう言う事じゃない・・・フユミちゃんもずっと一緒だった」



ヴェムナスと戦った時も。

一緒にご飯を食べた時も。

お風呂に入った時も。


ずっと一緒だった、と。



「ただ、それだけでいいんだよ」


「・・・・うん」



二つの人格を一つの肉体に宿すというのはどういうものなのか想像するのも難しいが。

表に出ていなかったフユミちゃんも、ハルミちゃんを通して同じ体験をしていたといえる。

魂というものがあるなら、二つあったって別にいいだろう。



(『魂』、が二つ・・・?)



さっき『職業ジョブ』について話している時、朱音が言ってた。



職業ジョブは、特段『ユニークスキル』は。その人間の『魂』が具象化したもの、だって』


『それに、なにより。その説を体現している存在を知ってるから』



(もしかして、この子の事を言っていたのか?だとしたら、この子も俺と同じように二つ以上、複数種の――――)



ひとつの可能性が頭によぎると、その思考を遮るように。




「なに、地震?」


「わっ!結構おっきいですね」



地の底から地鳴りが聞こえ、次第に揺れへと変わり建物全体を揺さぶる。

その突然の大きな揺れに、唯火はフユミちゃんを抱きよせていた。




「・・・・収まったみたいだな」


「姉者。おっきいお胸が、苦しい」


「あっ、ごめんね?」



震度5近くはあったんじゃないだろうか。

今だ身体が揺れてるような余韻を感じていると。




「ブォォオオオォオオ!!」




異形が放ったであろうくぐもった咆哮が大気を揺らし、ビリビリと窓が震えだす。



「どうやら、さっきの揺れはこの声の主のせいらしいな」


「そうみたいね」


「次の竜種、ですか」



三人が視線を交差させると短く頷き合い。



「朱音。姉者に兄者。気を付けて」


「はい」


「フユミちゃんは外に出ちゃだめだよ?」


「俺たちが出動でたと、響さんに伝えておいてくれ」




それぞれ答えると、久々の再会もそこそこに、新たな竜種との戦いに駆け出したのだった。


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