100話 職業
聖也たちダンジョン攻略班を見送った門の前から、ギルドのアジトのある一室に俺たちは集まっていた。
「あんたどうなってんの?」
その部屋の家主である、釣り目で勝気な少女が開口一番にそんな事を言う。
「どうって・・・・」
「【逃亡者】【鑑定士】【解体師】【斥候】。上級職の【剣闘士】。それに【精神観測者】?これに関してはあたし聞いたこともないわよ?なにこれ?」
「【精神掌握者】って職業がクラスアップしてそうなった」
「いつの間にかクラスアップしてたんですね・・・」
唯火が知るのは【精神掌握者】までだったな。
「ああ。『屍人迷宮』の前で久我とやり合った時にな」
そうだったんですね、とつぶやくように言う。
色々思い出したのか一瞬表情に影が差すが、すぐにいつもの彼女に戻る。
少し配慮に欠けてたな。
「・・・正直、信じられないけど。あんたの走力と跳躍力、相手のステータスを見破る『目利き』。的確にモンスターの弱点部位を狙いすまして、そこを切り裂く剣捌き。それに並外れた五感、索敵能力に洞察力・・・・なに?あんたほんとに人間なの?」
職業と共に所有スキルも教えたので、その情報と俺が朱音の前で見せた戦いを一つ一つ結びつけると少し納得した様子だ。
「随分な言い様だな」
嘘みたいだけど信じるしかないようね、と目頭を押さえ呆れたようなしぐさを見せる。
「・・・やっぱり、職業を複数個持つってのは、珍しいのか?唯火も二つ職業を持っているわけだが」
「珍しいとかそんなもんじゃないわよ。そもそも、唯火のそれは『人間』と『エルフ』の混血種『ハーフエルフ』としての種族特性。それにしたって二つが限度なのに・・・・まぁ、中には『超例外的』な事例もあるにはあるけど」
「でも特殊な力を持つスキルに目覚める『職業』っていったって、結局は経験したことが身についてそう言う技能に昇華されるんだから、増えて行っても不思議じゃないんじゃないか?」
勉強や訓練をして資格や技術を身に着けたりするのとそう変わらないと思うんだが。
「あんたね、資格とか免許みたいなものじゃないのよ?『職業』ってのは」
まるで心でも読んだかのように俺の考えが見透かされた。
「思い出してみて。半年前、地球上の全人類にスキルが発現した時。【システム】は何て言ってた?」
「【システム】・・・・?」
「ほんとに何も知らないのね・・・・例の、レベルアップの時とか頭に響いてくる声の事。多くの人がそう呼んでる」
なるほどな。
今まで天の声と呼んでいたが、【システム】。
しっくりくる、そこに意思があるのかも性別の概念でくくれるものなのかも分からないが、都度都度一方的に声を届けてくる彼女は、このいかれた世界の仕組みの様なものをつかさどっているような存在なのかもしれない。
(まるで『神』、だな)
「で、半年前」
一人仰々しいことを考えていると、思い出せ、と促すようにややジトッとした視線でせかされる、が。
俺は思わず腕を組み唸ってしまった。
何故なら――――
「いや、すまん。その瞬間俺、多分死にかけててよく覚えてないんだ」
「は?死にかけて?どうゆう・・・・」
「《あなたのあるべき姿を強く念じてください。それを手繰り適正を確認いたします》」
助け船という事でもないだろうが、俺が名前を失くしたことを説明するにあたってその当時のことも軽く触り程度教えた唯火が、思い出し噛みしめるように言う。
「・・・そう。その【システム】の言葉に最も自分を形どる、ざっくりいうと『らしさ』ってやつかな?それを皆頭に浮かべたの。聞いた話だと職業は、特段『ユニークスキル』は。その人間の『魂』が具象化したもの、だって」
「「『魂』・・・・」」
俺の死にかけ発言へ対する言及は一度置いて話を進めてくれるようだった。
何やらオカルトめいている話だが・・・・
「ピンとこない?でも自分が身に着けた『職業』、『スキル』。それらを何の説明も無しに自然に行使できてるあたり、なんとなく説得力のある説じゃない?」
「・・・・あの時。【システム】が言ったように自分の中に思い描いた、自分を象徴するモノ。が、職業という力になっている、か」
唯火は思い当たる節があるのだろう。
胸に手を当て何やら思案顔だ。
「ふむ・・・なんとも眉唾な話の気もするが」
一方の俺はどうにもピンと来ていなかった。
(そもそも俺はその時まともな状態じゃなかったからな)
朦朧として意識の中【システム】の声は聞いた気がするが、なにを思い描くとか想像するとかそんなことできるような状態じゃなかったはずだ。
(見たのなんて走馬灯位なもんだ)
「朱音はどうなんだ?」
心の中であの時のことを自虐的に吐き捨てると、トリッキーな『職業』と極端すぎる『ユニークスキル』を持つ彼女に問いかけてみる。
「あたし?あたしもその話には同感って感じかな。自分自身のユニークスキルもその観点から見れば、『ああ、納得』って感じだし」
そういいながら自傷ぎみに笑う。
「それに、なにより。その説を体現している存在を知ってるから」
一転して、何か憂うような表情になる朱音。
その変化に、心配げな唯火と顔を見合わせていると。
「――――ここにおったか」
部屋のドアノブが捻られる音と共に、久しく聞いていないながらも聞きなれない声色が聞こえ。
「マスター!?目が覚めたんですね!?」
「ハルミちゃん!?」
「・・・フユミちゃん、か?」
三様に、そこに立つ一人の少女を呼び、呼ばれた当人は。
「ふふふっ・・・」
見た目の年齢相応の無邪気であどけない笑顔のまま、控えめに笑っていた。




