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第95話 お買い物

我はゴーレムなり。


召喚された子供達を無事に送り返せたので一安心だ。我からの手紙もセーラー服に託せたし、よかったと言えるのではなかろうか。


さて、この魔国イクロマに来た本来の目的を果たそう。ハクに鑑定が使える魔道具を買うために来たのだ。我とハクは魔国イクロマの王都で一番大きいという魔道具屋に訪れることにした。


魔国イクロマにいる魔族は大体、人と似たような姿形の者が多いけど、ちょっと変わった姿の者もそれなりにいるので、我が普通に歩いていても誰も気にしない。そう、我はね。


ただし、ないわーポーチは別だ。


魔国イクロマでもないわーポーチは、ないわーって柄なのだろう。行きかう人々がたまに振り返って見てくるのだ。やはり、どうにかしてないわーポーチの呪いを解かねばならんだろう。





我とハクは魔道具屋ケイスナドに訪れた。


3階建ての大きな建物で、大きな看板が出ているのですぐにわかった。店の中に入り、いろいろと見て回る。消えたら困るので、我は決して魔道具を手に取らない。魔道具は高いから、弁償なんてなったら困るのだ。


あっ、お掃除コーナーだ。


自動で動く箒なんていうのがあるのか。便利じゃないか。あっ、ぴかぴかぞうきんっていうのがある。このぞうきんでふけば何でもぴかぴかになるらしい。へぇ、いいな。やっぱり、アスーアに文字を習っておいてよかった。


我がぴかぴかぞうきんの説明をじっくりと読んでいると、ジスポがないわーポーチから顔を出し、焦ったように声をかけてくる。


「ちゅちゅ!? ちゅちゅちゅ!!」

(親分!? そんなぞうきんいりませんよ!! ボクがいつも磨いているじゃないですか!!)


おお、それもそうだなと思い、我はお掃除コーナーを後にした。


「ちゅちゅ。ちゅちゅー」

(あ、あぶない。ボクの仕事がなくなるところだった)



少し歩くとお料理コーナーがあった。魔力を込めると火を出さずに鍋自体が熱くなって料理ができる熱い鍋とか、魔力を込めると水が沸いてくる水差しとかが置かれていた。


この鍋は良いんじゃないだろうか。今は鉄の鍋でその都度、薪を集めて火を起こしているけど、これがあれば料理の手間が省けるよ。まぁ、ハクが自分で作っているから、我は見ているだけなんだけど。


我はハクにこれを買ったらと勧める。ハクはこくんと頷き、熱い鍋を手に取る。


さらに包丁もあった。なんと切った野菜などが包丁にくっつかない魔法の一品だ。包丁の刃のところに穴が空いているのがポイントだそうだ。へぇ、これもいいんじゃない。


我はハクにこの魔法の包丁も買ったらと勧める。ハクはこくんと頷き、箱に入ったくっつかない包丁も手に取る。


その他にも料理コーナーにはいろいろとあった。魔力を込めると小さな穴が空いたり閉じたりするお玉とか、魔力を込めると伸びる無限菜箸とかいろいろあった。お玉と無限菜箸はいるだろうと思って、我はこの2つもハクに勧める。


ハクはこくんと頷き、お玉と無限菜箸を手に取った。ちなみに、菜箸は無限という名前がついているが、ある程度の距離までしか伸びないそうだ。


ふぅ。なかなか良い商品を取り扱っているな。この魔道具屋は。


次には寝具コーナーだ。気になったのはどこでもハンモックだ。これはどこにでもヒモの先端をくっつけることが出来るハンモックらしい。ハンモックに寝っ転がってぶらぶらとしたら面白そうだな。どこか他のところでハンモックがあったら買おうかな。


あ、いかんいかん。

我らは鑑定をできる魔道具を買いに来たのだ。


我とハクはカウンターまで行き、いったんハクが手に持っている料理道具の会計をすませ、ハクの魔法のウェストバッグへしまう。


店員に鑑定できる魔道具はあるか聞いたところ、個室に案内され、店の奥から持ってきてくれることになった。値段がかなり高いので個室での対応になるそうだ。


さきほどカウンターで応対してくれた店員とは別のメガネをかけた男が、いくつか鑑定をできる魔道具を持って来てくれた。


「鑑定の魔道具を担当しております、ガネメガと申します。よろしくお願いします」と笑顔で話しかけてくる。我とハクはぺこりとメガネに会釈をする。


「では、説明させていただきますね。1つ目は指輪型で、相手の名前と種族、レベルがわかるものです。こちらが一番お安くて大金貨5枚です。2つ目は腕輪型で、相手の名前と種族、レベル、そして体力と魔力がわかります。こちらは星金貨2枚となっております。最後が、ネックレス型で、腕輪型でわかる内容に加えて、物理攻撃力や防御力などの各種の能力値がわかるものになります。こちらは星金貨7枚になります」


持っているスキルがわかる魔道具はないのかな。我のスキルを鑑定でわかった相手もいたから、スキルがわかる魔道具もあると思うんだけどな。


<スキルまで鑑定できる魔道具はないの?>

と我がノートに字を書いて質問すると、店員はうーむとうなって考え込んだ。


「たしかにスキルまで鑑定できる魔道具もあるのですが、非常に貴重でなおかつ高価なので、一般には出回っていないのです。国や大貴族、ギルドなどが専有しているのが現状ですね」


そうなのか。スキルまでわかるのは一般に出回っていないのか。


「ああ、でも、王都から馬車で2週間ほど離れたブルギャンという都市があるのですが、そこなら運が良ければ手に入るかもしれません。ブルギャンはカジノで有名なのですが、そこの目玉商品に鑑定の魔道具があったと思います」


ほほう。なかなか面白そうだな。


でも、運か。それじゃ手に入るかどうかわからないから、念の為にここでどれかを買っておくか。


ギルドの口座にはお金がいっぱいあると思うけど、今、手持ちだと星金貨5枚だからな。腕輪型を買っておくか。相手の体力と魔力ということはHPとMPがわかるって事だろうから、それがわかれば大まかな目安としては十分だろう。


我はないわーポーチをごそごそとあさり、2枚の星金貨を取り出し、机の上に置く。目の前の男は、えっと驚き固まる。


我は真ん中にあった腕輪を指さして、<腕輪型、買う>と書いたノートを見せる。


「あ、ありがとうございます! それではお客様が装備されますか?」


とメガネが聞いてくるので、我はハクの方に手を向ける。ハクは腕輪型の鑑定魔道具を受け取り、右手に装備した。メガネは、星金貨を手に取りしげしげと眺めている。もしかすると鑑定しているのかもね。


我が試しに、我を鑑定してみてと伝える。ハクはこくりと頷き、我を見てくる。


{ログ:ゴーレムは鑑定された}


おお、ちゃんと鑑定できるようだ。我がちゃんと鑑定できているかと聞くと、ハクは「名前、ちゃんと、見えた」と答えてくれた。OKOK。これで大丈夫だな。


最後にメガネは注意事項を教えてくれる。


「むやみやたらと鑑定しないでくださいね。鑑定するときはきちんと相手に断ってからしてください。マナー違反ですし、人によっては敵対行動と見なされますから」


我とハクはしっかりと頷き、個室を後にする。


我はだれかに見られているような気がして辺りを見回すが、魔道具を探している女しかいない。我の気のせいだったのだろうか。まぁ、いいや。




銀色の人形と獣人の少女が店を出て行った後に、カウンターで対応をした店員が個室の中をのぞき込むと、鑑定担当のメガネをかけた男がまだ個室に残っていた。


「やっぱり、ひやかしのお客さんだった? 鑑定できる魔道具は高いから、見るだけ見て帰るお客さんが多いからな。売れなくてもしかたないよ」

「……」

「売れなくても給料は変わらないんだから気にするなよ」

「売れた」

「えっ? 売れた? ってどういうことだ?」

「腕輪型の鑑定の魔道具が売れた!」

「は? あれは星金貨2枚のはずだろ!? そんな金持っているようには見えなかったぞ?」

「いや、これを見てくれよ! 本物の星金貨だよ! うっわー。やったぞ!! 今月の売り上げトップは間違いなく俺だ!! 初めて金一封をもらえるよ!」

「本当かよ……。まぁ、よかったじゃないか」

「ああ、あまりにも売れないから担当を外してもらおうかと思っていたけど、売れるものなんだな!」


鑑定担当のメガネの男はこの後、自信をもって営業をするようになり、売り上げトップを繰り返し取れるようになった。メガネの男は、3年後、魔道具屋ケイスナドのエースと呼ばれるようになった。





さて、これからどうしよう。魔道具屋のメガネがブルギャンに行けば高性能な鑑定の魔道具が手に入るかもしれないと教えてくれたな。カジノがあるということだし、これはブルギャンに行くしかないな。


でも、急ぐ理由もないのでもう少し王都でぶらぶらしていこう。


我とハクは大通りを進んでいく。人通りが多い。ハクが迷子になりそうだ。我はハクと手をつないで歩いて行くことにした。我の方が背が低いから、我がハクに手を引かれているような感じになってしまうんだよな。


まぁ、しかたないね。


「きゃあ、助けて!」と声がした。なんだと思っていると、我らの前に一人の魔族の女が現れて、数人の魔族の男に囲まれ始めたではないか。周りの魔族達はなんだなんだと遠巻きに見ている。


「やめて! 助けて!」と女が叫ぶ。でも、女を取り囲んでいる男達は「おらおら」とか「観念しな」というばかりで何もしない。むしろ、女も男達もちらちらと我らの方を見てくるのだ。



そういえば、さっきの魔道具屋にいたな、この女。



新手のパフォーマーか、当たり屋みたいなものか、どちらかの気がする。非常にあやしい。我は伊達にインターネットが発達し、情報があふれていた日本に住んでいたわけじゃないのだ! 暇な時にごろごろと寝転がりながら、スマホをいじっていたのはこんな時の為なのだ!


こういう時は関わってはいけないのである!


我とハクは、女と男達を大きく避けて先に進む。女と男達が「やめて」とか「待ちな」と言って、再び我の前へと回り込んでくる。


やはり、我の予想は正しかったようだ。こういう時は絶対に関わってはダメなのだ。


我とハクは再び、女と男達を避けて先に進む。駆け足で人混みの中を避けていく。女と男達はなおも「やめてぇええ、はぁ、はぁ」と「待ちなぁああ、ぜぇ、ぜぇ」と叫びながら息を切らして、我らの後を追ってくる。けっこうしつこいやつらだ。


さらに駆け足の速度を上げて人混みの中を進むと、ようやく女と男達は追ってこなくなった。はぁ、どこにでも変なヤツらはいるものなんだね。



気を取り直して、ゆっくりと王都をぶらぶらしようとすると、「きゃあ! 助けて! ふーふー」と我の前に再び女が現れた。「待ちやがれ! ゼハァ、ゼハァ」と息切れをした男もまた現れる。なんともしつこいな。


でも、すごいな。こやつら。膝に手をついて、今にも倒れそうにしながらも、我らの方をちらちらと見てくる。


しかたない。ここまで必死になられると関わってやるしかないか。


我がその女達に近づこうとすると、「ピピー!!」と大きな笛の音が鳴り響いた。


な、なんなのだ!?


我はどうしたと思い、辺りをきょろきょろと見回す。


すると魔王城にいた兵士達が大勢駆け寄ってくるではないか!? 我らの前で息を切らしていた女と男達を捕まえ、颯爽と立ち去った。


「ご迷惑をおかけしました!」と兵士の隊長のような男が、我らに敬礼をして去って行った。


まったく、魔族たちは何がしたいのかよくわからない。




魔王城では、そわそわと執務室の中を歩き回る魔王がいた。扉がノックをされ、入れと声をかけると近衛騎士の一人が執務室へと入ってくる。


「魔王様! 姫様を確保してただいま帰還致しました!」

「ご苦労。それで姫はどこにいた?」

「はっ、ゴーレム様達に接触されようとしておられました!」

「やはりか! いいか、今度は決して目を離すな。ゴーレム殿と関わらせてはならんからな!!」

「はっ、かしこまりました!」


近衛騎士の一人が執務室を出て行くと、魔王はどかっとイスに座り込む。そして、机の引き出しから、小さな瓶を取り出すと、小さな丸薬を6つほど手に乗せ、口の中に放り込んだ。水で丸薬を流し込む。


「常識が通じない者共を会わせてはならん……」


魔王は胃の辺りに手をあてさすりながら、遠くを見て呟いた。

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