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みにくい顔だと思い込んでいるお姫様のおはなし  作者: 星野 満


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5/5

5. 少しおませなお姫様

※城を追い出されたデイジー姫。だけど王都の広場では楽しそうです。

今回はデイジー姫の本心が少しわかります。

 ✧ ✧ ✧ ✧



「ねえねえ(はと)さんたち、聞いてちょうだいな。わたしはようやく、お姉さまたちを見なくてすむのよ。──もう、お城の従者たちからも、お姉さまたちと、わたしを比較する輩はいないし、これまでおバカさんの演技もしなくていいのよ!」


「クク……クククッ……」


 デイジー姫の側にいる鳩たちは彼女の言葉に反応して鳴きます。


「うふふ、あなたたちも、わたしみたいに嬉しいのね」


 とデイジー姫は満面の笑みを浮かべて、パン屑の代わりに、今度は木の実をちぎってあげました。


「クク……クク、ククッ……」


 鳩たちは群れになって、デイジー姫のベンチにやってきて、木の実の(くず)を鳩同士で奪い合いをします。


 中にはデイジー姫の頭にちょこんと乗る鳩まで出てきました。


「あらあら……」


 デイジー姫は頭の上の鳩を払いもせず、おかまいなしに上機嫌でした。


 その姿はまるで、どこにも遊びに行かれず、部屋に閉じ込められた子供が、ようやく外出して解放されたような表情でした。



 ✧ ✧



 実はデイジー姫がお城で噂になった奇行の数々は彼女の演技(うそ)でした。


 とはいえ全部が演技だったわけではありません。

 

 あの日初めて参列した大人の舞踏会から、デイジー姫が部屋へ戻った途端、乳母たちに泣き叫んだのは本当でした。


 ただ翌日から誰とも合わず、部屋に引きこもり、身なりをまったく気にしなくなり、少食でやせ細ったこともワザとでした。

 

 おまけに庭の花壇に出て、メイドに聞こえるように


『わたしはみにくい、わたしはみにくい、わたしはみにくい!』と魔女のような呪文を唱えたのもワザとです。


 デイジー姫は風呂に入るのも拒み、髪の毛は切らずにボサボサで長く()れ流し。


 案山子(かかし)のような姿で、廊下では下を向いて歩き、人にぶつかり転倒する。


 それらすべてデイジー姫の奇行の噂を、侍従たちに敢えて広めさせて、城中に知らせたかったのです。


 

 そうです。

 デイジー姫は計画を立てて実行しました。


 これら全て自分の奇行が父である王様の耳に入れば


『必ず正義感の強いお父様なら、自分を城から追い出してくれるだろう』と考えたのです。


 

 而してなぜデイジー姫は、それほどまでに城から出たかったのでしょう?



✧ ✧



 それはあの夜の舞踏会で姉君と自分への貴公子たちの態度があからさますぎて、大きな衝撃を受けたからです。


 この時、デイジー姫は心底、美しく大人びた姉上たちに一生自分は勝てないと悟ったのです。



✧ 



 そもそもお城で行われる夜の舞踏会は、貴族令嬢は成人、十六歳のデビュタントでないと出席できません。貴族の子息も、成人は十八才以上と決まっていました。


 それは王族の姫君や王子たちも同じ仕来(しき)たりなのです。



 デイジー姫の姉君、長女のローズ様が十七歳、リリアン様は十六歳でした。

 

 既に二人はデビュタントを済ませています。



 成人になると正装姿の姫君は、少女時代のお召し物から、淑女(レディ)へと変化していきます。


 それまで背中まで垂らしていた長い金髪も、成人になると高く結い上げます。

 

 アップにした姉君たちの襟首(えりくび)はとても(なま)めかしく、背中もあらわに見える薄いドレスを着ます。

 

 華奢(きゃしゃ)なノースリーブの両腕は、指先から肘まで真っ白いグローブをつけるのです。


 薄い上絹のキラキラと光る、ウエストをキュッと締め付けて、花びらのようにふんわりと広がったドレスを身に着ける二人の姉君たち。


 姉君を見つめるデイジー姫のはじばみ色の瞳はきらきらと輝きました。


『はあ、素敵。お姉さまたち、まるで絵画の妖精さんみたいにとってもお綺麗ですわ!』


 デイジー姫はうっとりした声で言います。


 夜の舞踏会のドレスを着た姉たちは、デイジー姫にはあっけらかんとした普段の姉とは別人に見えました。



 ──いいなあ、お姉さまたち。なんて大人びて見えるのかしら!


 わたしもこうして髪を高く結って、首のうなじを、殿方に見せつけて、背中も丸見えのドレスを着て、ドキドキさせてダンスを申し込まれてみたいわ!



 もうデイジー姫の想像力は高まります。


 姉たちが着ている大人のドレスを着て、舞踏会デビューがしたくてしたくてたまりません。



『ねえねえお母様、私もお姉さまたちのような胸の大きく開いたドレスを着たいわ』

 とデイジー姫は母親の王妃にねだりました。


『まあデイジーったら、なんてあなたは、おませさんだこと!』と王妃はケラケラ笑います。



 それもそのはず、デイジー姫はまだ十三歳になったばかりで、お胸もぺったんこの胴長体型です。


 まだデビュタントも済んでない、こまっしゃくれた末娘にそんなドレスを装着するなど、王妃は許しません。


 それでも、しつこくどうしてもと、ねだるデイジー姫に根負けした王妃様。


『仕方ないわねぇ……まあよろしいか。では一度だけ機会を与えましょう。来週の王室主催の舞踏会があります。半刻だけなら出席してもいいですよ』と、王妃様はとうとう許したのです。


『きゃあ、お母様ありがとう!』


 デイジー姫は飛びあがって、王妃様に抱きついてキスをしました。



 

※ここまでお読みくださりありがとうございました。週1更新です。

※次回は2/16か2/17の予定です。

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― 新着の感想 ―
デイジーちゃんの奇行はほとんどが演技だったんですね!! まぁでも演技ならよかったのかな…? あ、舞踏会に出たときは、まだデイジーちゃんはデビュー前だったんですね〜w
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