ラティスから始まる冒険の話1
「そんな事になってたのかー」
「ごめんなさい」
ラティスは謝るが、別に謝る必要はないだろ?
ラティスが助けようと思ったのは良い事だし、声をかけてきたって冒険者もちゃんとギルドに顔を出して、事情説明してくれた。
そのお陰で、冒険者ギルドは猫夫人を保護してくれてる。
「けど、まあ……」
雑用の奴っていわゆる隠密とか、特捜班とかそういう専門だから表に出るって感覚ないんだろうが。
「直接会って、聞いてみようぜ」
「えっ?」
――――――――――
「おお、これは初めまして、ですかな?御高名は聞いておりますよ!」
「どうも」
ドラウズ氏に面会を申し込んだら、割と即面会の約束取れた。
あ、ジョンもラティスも来てないぞ?
ジョンはこんな所で顔晒す訳にはいかないし、ラティスはこういう場所は苦手だしな。あの子の魔法は基本的にある程度開けた場所で使うもんだ。
とはいえ、単独じゃないぞ?顔出しOKなギルドの職員に同行はしてもらってる。部署自体はジョンと同じ所だけど、表に出て捜査に当たる奴だっているんだ。
「して、何か伺いたい事があるとか?」
「ええ」
ギルドとの連名でお願いしてるしな。
「実はですね。魔物の誘拐組織について何かご存じありませんか?聞いた事とかないですかね?」
「はっ?」
ドラウズ氏は人族だ。
だからこそ、人の世界で貴族達相手に商売する事が出来てる。人族は……平民や一部の国はともかく、ほとんどの国の貴族は魔物達を見下す者が多く、質的に劣っていても人族の製作した装飾品や家具などを用いる事が多いらしい。
芸術一つ取っても、一部例外を除き、人族がどうこうした物を好む、という拘りようだ。
まあ、芸術に関しては「芸術の国」を自他共に認める人族の某国が、魔物の作り上げた芸術を認めた事で大分変ってきてるらしいんだが。その国も長らく魔物の芸術を認めていなかったらしいんだけど、その国の最高の芸術家、として認められ、尊敬を集める老芸術家が久々に顔を見せた世界的に名高い芸術祭で怒鳴りつけたそうだ。
『馬鹿野郎共!!誰が作ったかなんて関係ねえ!!誰が作ろうがいいもんはいいもんだし、悪いもんは悪いんだよ!!てめえら目が腐ってんのか、それとも芸術見る目がねえのかどっちだ!!そんなんで審査員なんかやるんじゃねえ!!とっとと消えねえとぶっ殺すぞ!!!』
その後色々あって、審査員達は軒並み名声を地に落とす事になるわ、大混乱の末に今では芸術の世界でだけは認められてるらしい。
しかし、貴族達は内心はどうあれ、大半は未だ人の物に拘ってるらしく、ドラウズ氏も人族でなければ貴族に食い込めなかっただろう。
だが、同時にドラウズ氏は魔物と人が共存するこの街に拠点を持つように、魔物に対しても分け隔てなく雇用し、付き合っている。だからこそ、下手に隠し立てせず、一度真正面から聞いてみるのも手だと思ったんだよね。これでボロ出すならそれはそれで俺が表に立てばいいし。
「ふむ……なるほど」
話を聞いたドラウズ氏は考えるような仕草になった。
まあ、こんな交渉に長けた大商人が嘘こいてたり、何か誤魔化そうとしてたら俺には魔法でも使わないと無理だし、だからこそそうした事に長けたギルド職員についてきてもらった訳だけどさ。
「聞いた事も、ある貴族の奥方に可愛がられている魔物の子がいるのも見た事があります。……ただ本当に家族のように可愛がられていたので、てっきり……ですが考えてみれば、可能性はありますね」
ドラウズ氏は割と素直に話してくれた。
と、同時に親を失った魔物の子を紹介する組織があるという事も。
魔物だって貴族がほとんど商売相手にしないだけで、普通に人族の国で平民相手なら普通に商売してるし、住んでる魔物もいる。
そうすれば当然、親を失い、孤児となった魔物の子だって出てくる。
そうした子を引き取り、育成し、紹介する組織がある……それだけならいいけど、人の貴族相手に魔物の子を紹介した、ってのが気になるな。それも、下働きとかじゃなく可愛がられるような奥方の傍にいられるような立場に……。
という訳で、今回はラティスではなく主人公が表に出ました




