調べてもらうお話
さて、この男性は一体何者なのか?
答えは錬金術師である!
錬金術師、アルケミスト。
こっちの世界では正確には付与術師と呼ぶのが正しいかもしれん。
古代の魔道具を研究し、それを現代に再現する事を目指す連中。それらを総称して、錬金術師と呼ぶ。正規のお抱えの錬金術師の組織がある国も多いらしい。というか、本当に腕のある錬金術師なら大抵どこかの大規模組織のお抱えになってる。潜りの錬金術師ってのもいない訳じゃないが、そういうのはまず大抵『腕が良くない、口先だけの奴』『錬金術師を騙る詐欺師』って奴だ。ごく稀に腕の良い錬金術師ってのがいない訳じゃないが、まず間違いなく犯罪者とか、人格面に問題ある人物だ。
そう、例えば、「世界の発展の為」と称して、人体実験も平然とやるようなマッド連中。
なんかね?そういう連中の作った裏組織もあるらしいよ?
……という訳で。
実はこのオネエ言葉の錬金術師さんもちゃんと冒険者ギルドお抱えの人だったりする。
冒険者ギルドは一番、魔道具の発掘が多いからね。当然、それ関連の人や魔物も腕のいい術師を揃えてる訳です。今回はそんな人の一人を紹介してもらった訳だ。
「それで、鑑定をお願いしたい大物ってどんなのかしら?」
「馬車だな」
あら、確かに大物。
そんな事を呟く錬金術師さん。ちなみにお名前はアレクサンドル・スラヴァコリーナというらしい。
ご本人曰く「マルガリタって呼んで♪」、だそうだ。
……念の為言っておくと、これはこの方の錬金術師としての称号らしい。
何でも錬金術師にはそれぞれに正規の階梯があって、見習いのフェルム、駆け出し(師匠の手伝いとかする奴も大抵これ)のクブルム、一人前のアルゲントゥム、師の資格を持つアウルムとなってるらしいが、その更に上に何かしら大きな功績を上げた者に与えられる宝石にちなんだ完全に個人を示す称号があるらしい。
で、マルガリタってのは真珠を意味する称号なんだそうだ。
そんな称号を持つこの御仁は、このフォートの街にいる冒険者ギルドお抱えの錬金術師の中でも随一の腕を持っているそうな。……お陰で、予約を取るのが大変で、これまで馬車の鑑定が出来ずに来たんだよなあ。お金もだけど、予約が一杯で時間が取れないという奴だな。
「さてと、ここなら十分でしょ。出してもらっていいかしらん」
「ああ、じゃ出すぞ」
大物専用の部屋に、デン!と馬車の残骸を出す。
残骸なのには一切表情を動かさない。
「これかしらん?」
「ああ」
ラティスが追われてた理由。
……多分、ラティス自身にも何かあるとは思う。そうでなけりゃツァルトが忠誠を誓ったりしないだろうし。
けど、まずはこっちからだ。
「改めて確認しておくけど、何もなかった、って可能性もあるからねん?それでもお金はかかるわよ?」
「ああ、もちろん」
腕の良い錬金術師に調査してもらうんだ。当然、そんな相手の時間を買う以上、何も見つからなくても費用がかかるのは当然だな。
この点はギルドでお願いする時も言われたけど、それでも文句言う奴いるんだろうなあ、念押しするって事は。
……結構なお金払って、鑑定してもらって、「何もなかった」って言われたら、「そんなはずはない!」って食い下がりたくなる気持ちは分かるけどな。もっとも、今回の場合、こっちとしては何もなかったならそれはそれで構わないって考えだからなあ。
もし、そうならラティス自身に何かあるか、それとも俺らにはもう関係ない所で動いてる話かのどっちかって事だし。
前者ならラティスにも話をして一緒に考える話だし、後者ならもうほっときゃいい。大きな組織が動いてる案件だとしても、個人の冒険者に出来る事なんて限られてるわな!あっちから関わってこない限り、組織の相手なんてどうにもならん。何せ、あっちは複数の場所で同時に事を起こせるのに、こっちは一箇所しか対応出来ねえんだし。
「じゃ、始めるわねえ」
そう言って、マルガリタさんは馬車を調べ始めた。
まず、最初は怪しい部分を実際に見つける必要があるそうだ。
……下手に魔法で調べようとしたら、それに反応する魔道具とか、魔法による探知を防ぐ魔道具なんてのもあるそうだからなあ。
さて、一体何が出てくるやら。
という訳で、いよいよラティスの乗ってた馬車の調査です




