盗賊事情の話
野営も勉強だった。
ご飯も基本、こちらだけ魔法の道具を使って、いい物食うって訳にもいかない。やっぱあれだよ、一緒に行動してる中で一人だけいいもん食ってたらやっぱり周囲から白い目で見られたりするのさ。食い物の恨みは後を引く事だってある。
とはいえ、たまの話で、まだ余裕がある頃ならこんな大勢で食う食事も楽しいんだがな。
ちなみにリーダーは以前、直前の大雨で橋が流されてたり、土砂崩れで本来の道が通れなかったりした結果、危険を冒して護衛の商隊が間道を通ろうとして見事に遭難。
何とか全員で生還したものの、次第に食い物はなくなるし、水の補給も濁流相手では危険で行えず、危うく死にかけたそうだ。
「さて、ある意味今日が一番危険だ」
「……こんな街の近くで大規模な盗賊やるってリスクあるんじゃないのか?」
そこが疑問だった。
中間地点付近で狙った方がいいんじゃないか?
そう思ったんだが、どうも違うらしい。
「簡単に言っちまうと、ここら辺は国と冒険者ギルドのどっちが責任者か曖昧でな……」
フォートの街は冒険者ギルドの管轄だ。
だが、魔精の森と逆方向には人の国と魔物の国が接している。
そして、両国共にこっち方面はうちの領土だ、いやうちのだ!と揉めているらしい。その結果……。
「こっち方面は冒険者ギルドと、その両国の駆け引きのいわば糊代でな?何か揉め事があってもうちの管轄だ、いやうちのだと互いに譲らないから討伐隊すらまともに来ない」
下手に譲ったら、「あちらが我々の領土だと認めた」なんて言われかねないから互いに一歩も引かない。
結果として、フォートの街へと続くルートの危険性が増しているという……。
「フォートの街の産業は魔精の森からの採取品や討伐品だ。ハズレを引く可能性も低い」
討伐隊も来ないし、フォートの街から出る商隊を襲えば、大きなリターンを狙える可能性も大きいと……。
「で、結果として折角のフォートの街からの産物がお高くなるのか?」
定期的に盗賊なんかを掃討して安全な路となっているなら、護衛も少なくて済むから費用は減る。
しかし、野盗が増えれば、その分安全に進むには護衛が必須になるから、その分が加算されて高くなる。
「まあ、俺らにしてみりゃその分仕事が増えるって事だし、有難いっちゃ有難いんだがなあ」
「複雑な気分って奴だな」
お互い顔見合わせて笑った。
さて、と……。
耳をピクピクさせて、周囲の音に集中する。
「来たみたいだぞ」
「おう」
予定通り、というべきかな。
森の中から音が聞こえる。
自然の出す音に混じって、不自然な、生物の出す音が聞こえる。
この為に、俺はリーダーの背中の荷物の上にいたんだ。
片方の肩にずっといると、これが結構きついんだよな、載せてる方は鍛えてる、って言ってもさ。片方の肩にだけずっと数キロの重量がかかってると考えてみりゃ分かるだろ?かといって、背中のリュックの中に俺が入ってたら、俺自身が咄嗟に動こうとするのに邪魔になる。
妥協策として、リュックの上に俺がしがみつくって形になった。
とはいえ……。
初めて見た時、他の護衛や商人達が思わず噴き出したのを見た時にはさすがに恥ずかしかった。
ラティスもなんとも言いづらい顔をしてたんだよなあ……。
「とりあえず、野盗の連中はぶっ殺していいんだよな?」
「出来れば、連中のアジトを知りたいから適当に逃がしてくれると助かるんだが」
「分かった。逃げる奴は追わないようにしとくさ」
それ以外はミナゴロシだ。
俺の八つ当たりの的になるがいい!
リーダーは厳つい熊獣人です
某犬が熊と戦う漫画に出てくる赤〇〇〇みたいなのです
そんな奴の背中に真っ白で可愛らしいウサギが荷物にしがみついて、念話を切るときゅうきゅう鳴いてるように見えるものですから……




