予想外の話
「あの子、一体何なんだい?」
そう問われたのは家を借りて十日ほど経った、討伐依頼を引き受けて帰ってきた日だった。
聞いてきたのはセレンさん。
アイカさんは「自分は結局Cランクどまりで、だからこそ引退もすっぱり決められた」と笑っていたが、セレンさんはSランクまで行った人、じゃない魔物らしい。そんな相手から真剣な目で睨まれたら、そりゃあ気圧されるとは思わないか?
おまけに見た目、直立した蛇だぞ。
「え、ええと、どういう事だ?」
「知らないのかい?」
いや、というか、ご飯一緒に食べたりはするが、別に身元とか調べてる訳でもないし。
馬車調べりゃ何か分かるのかもしれんけど、すぐにやったらばれそうな気がして、まだリュックに入ったままなんだよなあ……。
しかし、こういう言い方するって事はあの子に何かしらあったって事か?
多分、あの子に何かあったとしたらアイカさんのお話聞いて、昼に冒険者としての教官役を引き受けてくれてるセレンさんが一番良く知ってると思うんだよなあ。
「……なら言うけどね。あの子、魔法をかなり取得してるよ、それも攻撃系なんかの魔法を」
「ん?」
え、でもあの子、特にあの襲われた時反撃なんかしてなかったような。
「そりゃそうさ。だから妙だと思ったんじゃないか」
「どういう事だ?」
「そうだね、例えて言うなら……剣の振り方は習ったけど、それをどういう事に使うのか、どんな事になるのかは習ってないって感じかね」
えーと。
魔法をちゃんと学んでいて、攻撃魔法も使える。
けど、それが攻撃魔法と理解していなくて、実際に攻撃に使った事もない、単なる派手な魔法と思っている。これでいいのかな?
「そうだね。だから、それで反撃出来ると思わなくて、襲撃された時も使わなかったんだろうよ」
「うわあ……」
すっげえ歪。
思わず、そう呟くとセレンさんは頷いた。
「そう、歪なんだよ。あそこまで攻撃魔法を使えるとなると、本当の幼少期からずっと教えられてきたはずなんだ。けど、何の為にだい?攻撃魔法を取得させたなら、それをきちんと扱えるようにしておかなきゃ意味ないだろ?幾ら立派な道具を揃えても、使わにゃ意味ないんだよ」
「まあ、そうだな」
実際、その結果、魔法で反撃するって事にすら思い至らず、殺されかけた訳だしなあ。
しっかし。
「だとすると、後は実地で実際に使ってみるだけ?」
「その前に、練習はさせた方がいいだろうねえ。魔物が出てきたら、あの子絶対頭真っ白になって何も出来なくなるよ」
ありゃりゃ。
「うーん、そんな状況って何がどうしたらそうなるんだ?」
「……推論ならあるよ、あくまであたしが勝手にもしかしたら、って思ってるだけだけど」
それでもいいや。
何かしらの参考にはなると思うし。
「それもそうだね。まあ、あたしとしては多分あの子は本来『そんなものを覚えさせちゃいけなかった』んだと思うよ」
「はあ?」
「つまりだね……あの子が危険な目に遭う事を身近な者は知ってたんだと思う。けど、実際に戦う術を教える事は何かしらの監視の目があって無理だった。だから」
「せめて、技術だけでも身に着けさせた?」
そう言うと、セレンさんは頷いた。
うーむ、剣とかだとどうしても筋力が必須になる。明らかに鍛えてると分かってしまう。
魔法だと外から見ただけでは分からんから勉強に混ぜて教えた?けど、実際に使って狩りとかさせたらばれる可能性が高くなるから、遊びの一環に見えるように使うしかなかった……?
そもそも、そんな風に教えてたって事は以前からああいう襲撃が何時かはあると理解してた、って事か……。
「どちらにせよ、自分が覚えてるものがどんだけ危険か理解させないと危ないからね。下手に使って、暴走でもさせたら命に関わるよ」
「うっ、た、確かに……」
うーむ、一度外で使わせてみるかなあ。
攻撃魔法なんて下手に街中で使わせる訳にもいかんだろうし。
次回、魔法の初使用体験!
……腰が痛い




