将来のお話
「という訳で、ここが今日から俺達の家だ!」
と、少女に抱っこされた状態の俺がそれなりにびしっと指差してみる。
なんか俺を抱っこすると落ち着くみたいなんだな。
「でも、いいんでしょうか、そこまでお世話になって……」
うーん、そうは言うけどね。
「どっか住む当てあるの?」
「………」
「生活費はどうする?」
「………」
「誰か頼れそうな人はいる?」
「………」
「なっ?現実は厳しいもんさ。気にすんな」
「……はい……」
泣きそうになってるけどさ、仕方ないじゃん。
現実を見れば、この子、親も親戚どころか友人もなく、家も金もないというないない尽くしなんだからさ。
「あっはっは、あんたみたいな小さな子がそんなもん気にすんじゃないよ!遠慮なくたかっときな!!」
笑い飛ばしてくれたのは見るからに豪快な肝っ玉母さんといった見た目の中年女性だった。
この人が俺が雑務の依頼で雇った人、アイカさんである。
何でもかつてはブイブイ言わせてたけど、結婚を機に落ち着いて、家庭に入ったらしいが、けど、子供も大きくなって時間に余裕が出てくると、今度はかつての冒険者時代を思い出すようになったらしい。
しかし、引退して結構時間も過ぎ、今ではこの年。
どう考えたってかつてのような冒険なんて無謀もいい所だという事は当人が一番よく理解していた。なので、気分だけでもと雑務依頼を受けだしたらしい。今回はうちの掃除とご飯をお願いした。ご飯は朝は大変だろうからと昼と夜。
基本は昼に来て、ご飯作ってから掃除して、晩御飯作って帰る、という予定。
夜になったら、作ってもらった晩御飯を温め直して食べて、朝は事前に買っといたパンか、夕べの残り物で済ませりゃいいかと。
「俺は仕事で出かけたりする事もあると思うんで、そん時は頼むわ」
「ああ、分かってるよ」
知り合いが時折でも顔を出してくれる、ってのは大事だよ?
でないと何かあって倒れた時、誰も気づかないままあの世逝き、なんて事になりかねないからなあ。
「……あの、アイカさん」
「うん?なんだい?」
「私にも冒険者のお仕事出来ますか?」
思わず、アイカさんと顔を見合わせちまった。
「そりゃ仕事内容にもよるだろうけどねえ。あたしがやってるみたいな雑務なら大丈夫だと思うけど?」
「逆に俺がやる予定の討伐とか……採取も難しいな。何をどんな風に採取すりゃいいかわかんねえだろ?」
こくん、と頷いた。素直なのは良いこった。
……けど、冒険者か。
考えてみりゃあ、この子にはいい手かも。
冒険者の何が良いって、信用とか先立つもんとか基本、何もいらない、身一つで始める事が出来る、って事だよな。いやまあ、仕事開始早々に問題起こすようなのもいるが、この子の様子からしてそれはねえだろ。ギルドだってそこは分かってる。最初は真面目にやってりゃ問題ない仕事をあてがうはずだ。
「うーん、アイカさん、よけりゃこの子に冒険者の基本って奴教えてやってくれません?追加料金は払いますんで」
「いいのかい?」
「や、まあ、俺に何かあった時ってのもあるし、将来の為にも金稼げる手段身に着けといて損はないっしょ」
そう言うと納得したようだった。
というか、よければ、と近所の暇してる元冒険者のばあさんとかにも声かけてくれるという……。
冒険者になりたい、って子供に身を守る手段を教えてくれたりしてたそうだが、少々厳しいと子供には感じるらしく、途中でやめたり逃げてしまう子供が多いらしいが……アイカさん曰く「あの婆さんの言う事は事実だからね。あれで逃げ出すような奴は冒険者になったって長生きしないよ」だそうだ。
とりあえず、身を守れる程度、ならそこまで厳しくやる訳でもないらしい。少年とかなら討伐依頼で巨大なモンスターとかやっつける!みたいな事を言って、結果「それならこんぐらいやらないとダメ」と厳しくなるらしい。要は融通が利かない訳か。
どうだ、と聞く前に少女は真剣な顔で口を開いた。
「お願いします」
そこに込められた真剣さが妙に強い気がした。
次回女の子視点




