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幕間:この世界の一般的な冒険者の一幕1幕2

 絶叫姫ヘルガ。

 もっとも、当人が絶叫するのではなく、「彼女が戦った相手が絶叫する」、という意味合いで付けられたあだ名だ。要は叩きのめされた相手が悲鳴を上げて逃げ惑うとも言う。

 無論、陰で囁かれる名前で、当人や関係者がいる前で呼ぶ奴はまずいないが、それでもそういう話はどこかから伝わるものだ。

 ……ただ、当人からすると首狩り兎(ヴォーパルバニー)一族としては恥ずかしい呼び名でもある。だって、悲鳴を上げるという事は「一撃で首を狩って仕留める」という首狩り兎(ヴォーパルバニー)らしい事が出来ていない、という事でもあるからだ。首を狩る事が出来ているなら、敵が絶叫、悲鳴を上げる事など出来るはずもない。首狩り兎(ヴォーパルバニー)の一族に生まれながら、一撃必殺が出来ないというのは当人にとっては辛い話なのだが、それはさておき、ヘルガは見た目は美女と呼ぶに相応しい女性で、見た目に誤魔化される人族などからの評判もいいと聞く。

 もっとも、ラットマン達獣人などからすれば「あれは獣人ではなく、別の存在」としか見えないので恋愛対象にはなりえない。早い話、幾ら見た目を取り繕っても魔物達からすれば「こいつは交配の相手ではない」と認識してしまう。

 首狩り兎(ヴォーパルバニー)であれば、獣人ではなく動物系の魔物、例えばキマイラなどであれば結婚相手として見れるという。

 ちなみに、ラットマン達の場合、ミノタウロスもオークもラットマン自身も含めすべて同じ獣人系になるので、普通に女性の趣味についても共通の感覚で話せる訳だが、これらは意外と重要だったりする。

 

 獣型魔物『俺の彼女の毛並みは最高だぜ』

 スライム型魔物『毛並みい?あんなモサモサした不格好なものが?うちの奥さんの、あのつるっとした輝きの前ではゴミだね、ゴミ』

 獣型魔物『は?あんなのっぺりした泥水みたいなのがか?』

 『『………』』

 『『やんのか、この野郎!?』


 なんて事が現実に起きたりする。

 いや、普段は互いの美的感覚を尊重する、というのは魔物にとっては常識だから、そんな発言はまずしないのだが、酒が入った時などにはどうしても、そうした事が喧嘩の種になったりするのだ。

 最悪、それが原因でパーティが解散になったりもする。


 「何でも他所から純血の首狩り兎(ヴォーパルバニー)を婿に引っ張ってきたらしいぜ?どうも他所で冒険者やってたらしい」

 「ほう」


 どこから、なんて話はしない。

 どうせ誰も知らないし、知っても大抵ろくな事がない。

 例えば、どこかに首狩り兎(ヴォーパルバニー)の里があって、そこから引っ張ってきたのだとして、一般に知られていない隠れ里みたいな場所だったらどうだろうか?最悪、ある日突然、どこかで首を狩られる危険性すらある。

 そこまではないにせよ、領主の一族の婚姻相手の事を細かく探るというのは一介の冒険者の手には余る。やった所で金ばかりかかって、どこかに売るにしても元手を回収出来るかも分からない。はっきり言うが、そんな暇はない。

 ではなぜ、そんな話をするのかというと。


 「って事は新人が来たら注意しといた方がいいな」

 「ああ、下手に絡むと痛い目を見る事になるぜ」


 という訳だ。

 何しろ、冒険者をやっていたとなると、その仲間も一緒に来ている可能性が高い。下手に見た事ない連中だな、とちょっかい出すと領主に直結で苦情が行く危険性がある、という訳で、そうなると「当面は新人見かけても下手にちょっかい出さないようにしとくか!」となる。 

 無論、その際にこっちが聞いた噂話などもやり取りする。


 「……おっと、そろそろ時間みてえだわ、またな!」

 「おう、またな!」


 冒険者達はこうして情報をやり取りする。

 大抵は些細な事だが、時には「どこそこの国、飢饉っぽいぜ?戦争吹っ掛けてくるかもしれねえ」とか「あっこの商会、ちょっとヤバいらしい。雇われる際はきいつけた方がいいかもしれねえ」なんて情報が入ってくるから案外バカにならない。

 どこぞの商会がヤバいとなれば、そこの商会が好条件での依頼を出していても警戒出来るというものだからだ。

 幸い、今回はそんな危険な話は特になく、絶叫姫ヘルガの婚約が決まった、という事が話題としては一番の大物という程度だった。 

 

 「では、こちらが報酬です。ご確認下さい」

 「あいよ。えーと、ひーふーみー……」


 報酬受け取りカウンターでラットマン自身が確認を行い、確認出来た所で受取確認証にサインをする。

 これで、報酬を正式に受け取ったという事になる。


 「うっし、じゃあ、この内三分の二は預かりでたのまあ」

 「かしこまりました」


 財産の全てを持ち歩く冒険者もまたいない。

 盗まれる可能性だってあるし、不運にも盗賊団に捕まったりしたら身ぐるみ剥がされてしまう。

 そこで、冒険者ギルドがお金の預かりもやっている訳だ。何せ、冒険者達にとっては一番信頼出来て、便利な預け先でもある。

 手続きを終えると、ラットマンはようやく手元に受け取った分の金を持って、仲間がとっているはずの宿へと向かうのだった。  

第8回ネット小説大賞、ウサギと竜、双方が一次通過してました

まあ、最後に入選するかが問題なんですけどね

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