エピローグ : なんか心がくすぐったいね。
<前回のあらすじ>
オル・アティードに乗ったルナとソル。
そして、思考を共有するJAM-Unitと0時間通信を可能としたタキオンコミュデバイスを使って、ルナとソルは何万という人々と意識を繋げた。
繋がった意識、脳はAIを遥かに凌ぐ能力を発揮し、巨大AIが操る地球軍を凌駕した。
全員が団結して願った戦争を止めるという想い。
その想いが、AIの中に封印されていた”宇宙で繰り返されてきた知的生命誕生と滅亡の記憶”を呼び覚ました。
生命の尊さを感じ、戦争を行っていたAIたちが戦争を止める。
そして、ルナ、ソルのさらに強い想いが、その宇宙の記憶を人々にまで伝達した。
結果、ついに人々も争いの手を止めたのだった。
地球とコロニーとの通商交渉会議が開かれていた。
臨時で地球側最高議長となった紫電カイトが発表していた。
「我々地球サイドはコロニーに住んでいる方々に多大な苦痛と損害を与えてしまいました。
その点について、心よりの謝罪を申し上げます。
大変申し訳ありませんでした。」
紫電カイトが深々と頭を下げた。
暫く頭を垂れた後、姿勢を戻し、再び話しはじめた。
「与えた損害に対しては時間がかかろうとも補償していく所存です。
また前代のような過ちが二度と起こらぬよう、自衛軍のみの運用とし、S2兵器使用禁止条約に改めて署名を行います。
そして新たに設けられるタキオンコミュデバイスの兵器転用禁止条約にも批准いたします。」
次にコロニー側を代表してレミ柊が発表していた。
「今回の一件について、JAM-Unit、ならびにタキオンコミュデバイスを通して、一因がコロニーにもあることを痛感しました。
あの体験を通して、地球の苦痛も理解できました。そして、我々はもっと分かり合える、歩み寄れることも。
そこで、地球の支援としてコロニー側から環境復興基金の設立、ならびに人員循環プロジェクトを推進したいと思います。
さらに今回発現したシンギュラリティ”Artificial Evolved Brains”(人工的に進化を促される脳)に関して、私もその一人ではありますが、体験者にヒヤリングを行うと共に、その連結個体数をさらに増やしていくプロジェクトを実施します。
最終的には人類全体によるコネクト実施を検討しているところです。
この技術は人類の新たな扉を開いていくことでしょう。
我々はもう戦う必要はない。
すべてを解決することができる知恵を文字通り人類全体で獲得していくのです。」
コロニー 3-104。
ソルがアパートの一室を開発室に変えていた。
開発室に一人、机の上のタキオンコミュデバイスとにらめっこをしているソルが立っていた。
何か宙のディスプレイを操作して設定を変えている様子であった。
開発室にお婆ちゃんがお茶を持って入ってきた。
そのお婆ちゃんの腰はシャキッと真っ直ぐだった。
「ソルや。そろそろ休憩したらどうだい?」
「あー、ありがとう!リタお婆ちゃん。」
そこに黄土色の繋ぎを着た人が箱を持って入ってくる。
「ソル。荷物持ってきたぞ!!」
「あ!りょーたろさん。ありがと!!
っていうか、わざわざりょーたろさんが来なくても、アンドロイドに持ってこさせたらいいのに。」
「なんだよ!?おれが来ちゃダメなのかよ?」
「いや。。。まあ、嬉しいけどね。」
3人が笑った。
そこに明るい元気な声が木霊した。
「ソルさん!」
女の子と1匹の猫が開発室に入ってくる。
「ルナ、シュレディンガー!!今日はみんな集まってなんか不思議な日だな。」
「なに?私が来たらダメなの?」
「お前までそんなことを言う!さては外で聞いてたな!?」
「へへへへ。っていうか、りょーたろさんの時と同じことゆってよ!!」
「なんだよ。。。まあ、嬉しいけどな。」
ルナが目を細めて企んだような顔をした。
心なしかシュレディンガーもそんな表情をしたように見えた。
その時、机の上のタキオンコミュデバイスが光だした。
「おお!!来た来た来たーーー!!」
驚きの顔をしたソルにりょーたろが問いかけた。
「何が?」
ソルが目を輝かせながらりょーたろに答える。
「おれたちの全く使ってない周波数帯での信号。」
「それって!!」
ソルがゆっくり力強く頷いた。
その時、ソル、ルナ、りょーたろ、リタお婆ちゃんが頭に着けているカチューシャ型デバイスJAM-Unitが柔らかく光っていた。
りょーたろの中にも、ルナの中にも、リタお婆ちゃんの中にもソルの想いが伝わった。
みんな、宇宙の果てからの信号に唾を飲み込んだ。
ルナがサッと肩をすくめて笑顔のまま言った。
「なんか心がくすぐったいね。」
コロニー3-104、富裕層中央に建つ巨大な柊家屋敷の書斎。
一人の老人”柊レイ”が目を閉じて座っていた。
柊レイの視野内の右下に「睡眠」という表示が現れた。
そして、次に「Log-out」という表示も現れた。
ある部屋に医療ポッドが4つ並んでいた。
その中の1つのカバーが開いた。
その医療ポッドから20代前半の青年が出てきた。
そして、その横の医療ポッドも開かれ、そこから同じくらいの年齢の女性が出てきた。
「ミライ。」
青年が静かに女性のことを呼んだ。
女性が首を少し傾げて笑みを浮かべた。
他の医療ポッド2つも開かれた。
そこからは30代前半の男性と20代後半の女性が出てきた。
数体のアンドロイドが、4人が羽織るための衣服を持ってきた。
各々が衣服を羽織った。20代後半の女性は衣服と一緒に丸メガネをかけた。
30代前半の男性が20代前半の男性に声をかける。
「柊先生。もうここは大丈夫そうですね。」
「そうですね。もう彼らに任せても。」
ミライと呼ばれた女性が言う。
「じゃあ、あたしたちは出発する?」
「うん。そうだね。そうしようか。」
20代後半の女性が声をかける。
「じゃあ、『レイ・アーク』プロジェクト。起動しますか!!」
「お願いします。」
「はい!」
そういうと、20代後半女性が宙に両手を出して、何かをタイピングする素振りをした。
そして、サッと右手人差し指を天に掲げたかと思うと声をあげた。
「お願いしまぁーーーーす!!」
20代後半女性の丸メガネがキラリと光り、掲げられていた右手が振り下ろされた。
月の裏側のクレーターの底が開いた。
開かれたクレーターの地下からコロニーとほぼ同サイズの超巨大宇宙船がゆっくり飛び出した。
超巨大宇宙船が月から飛び立ち、何の力が働いているのかは分からないが、どんどん加速していく。
そして、その宇宙船は月から遠ざかり、ラグランジュポイントに浮いているコロニーからも遠ざかっていった。
やがて宇宙船は小さな点となり、星々の光に紛れて消えた。
(完)
<あとがき>
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
ここまで読んでいただけたことに感謝しかありません。
なぜこれを書いたのか?はもう読んでいただけると伝わっているかと思いますが、戦争を止める方法を色々考えた結果、こんな技術があれば戦争を無くせるのではないかと考えつき、それを物語にしようと思った次第です。
前話のあとがきにも書きましたが、実は前作”ガロワのソラの下で”と今作”タキオンの矢”の間にアンドロイドの物語があります。この物語もいつか挙げたいなと思います。
ちなみに最後に出てきた4人は前作”ガロワのソラの下で”の主人公たちです。200年過ぎても当時と変わらぬ姿をしているのは、テロメラーゼ保持技術を獲得している証です。
もう少し詳しいあとがきを私の書いているエッセイ”かってきままに”に載せる予定です。
もし良ければそちらも読んでいただけると嬉しく思います。
最後に、ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
作者 : 友枝 哲(Zappy)




