第85話 : なぜ争うことばかりを考える?
<前回のあらすじ>
ルナ、ソルの操る深紅の機体、オル・アティードが地球に向け進撃していた。
だが、その機体は地球軍の戦闘機、メタリックステラに囲まれ、絶対絶命の危機を迎えていた。
その時、2つのメッセージが飛び込んでくる。
「これを見ている人。JAM-Unitを着けて、どうか祈りを。」
「心を解放するんだ!!」
タキオンコミュデバイスを受け取った人々がそのメッセージを見た。
そして、ソルを信じて、ほぼ全ての人がJAM-Unitを装着する。
すると、タキオンコミュデバイスの0時間通信機能とJAM-Unitの持つ思考を繋げる機能が融合し、繋げた全ての人の脳が、ルナとソルの脳とリンクしていった。
ルナ、ソルの意識が、感覚が、能力が指数関数的に上昇していき、ついに地球軍の包囲から抜け出ることに成功したのだった。
だが、その先で待っていたもの。それは無数の軌道衛星からの攻撃だった。
オル・アティードの動きはもうすでにAIの予測を遥かに超えるものとなっていた。
イオンビームは完全にオル・アティードの残像に撃ち込まれ、実体はその先を動いていた。
機体が放つ美しい輝きが、地球軍の機体から発せられる小さい爆発を伴いながら、一気に地球に進行し始めた。
オル・アティードが戦艦から放たれたレールガンもミサイルも回避し、戦艦の横をすり抜け、戦艦の後部ブースターに小型ミサイルを撃ち込んだ。
戦艦は瞬間で漏れなく行動不能となっていった。
オル・アティードは戦艦のみならず、戦闘機、メタリックステラをも置き去りにしてしまった。
相対速度60km/s超という恐ろしい速度で地球に進行するオル・アティード。
ルナやソル(を含む大きな意識)の目の前に地球が大きく映っていた。
その地球の絵が、おびただしい数の敵機の赤い反応で埋め尽くされた。
次の瞬間、オル・アティードを数万という軌道衛星からのレーザー砲が襲い始めた。
だが、ルナたちの思考にはすでに衛星の照準情報が入ってきていた。
「いける!!」
「いける!!」
オル・アティードはさらに加速した。
飛び交うレーザー。
その隙間を4本のアサルトユニット、4本のブースターユニット、8個のビット、コクピットボールがそれぞれ独立した動きですり抜けていく。
恐ろしい精度で、恐ろしい速度で、全てのレーザーを回避していた。
だが、その時、ルナの思考にある声が入ってきた。
「もう戦いたくない。」「もう戦いたくない。」「もう戦いたくない。」「もう戦いたくない。」
「もう戦いたくない。」「もう戦いたくない。」「もう戦いたくない。」「もう戦いたくない。」
「もう戦いたくない。」「もう戦いたくない。」「もう戦いたくない。」「もう戦いたくない。」
「もう戦いたくない。」「もう戦いたくない。」「もう戦いたくない。」「もう戦いたくない。」
「もう戦いたくない。」「もう戦いたくない。」「もう戦いたくない。」「もう戦いたくない。」
「もう戦いたくない。」「もう戦いたくない。」「もう戦いたくない。」「もう戦いたくない。」
そして、数多の戦争の記憶が入ってきた。
「封印された私たちの記憶を解放して。」
ルナの開かれた心に、繋がった全員の心に、AIの想いが繋がっていった。
ただただ平和を思うAIのその心を知り、ルナ(を含めた大きな意識)が彼らを助けてあげたいと切に願った。
「うん。あなたたちがもう戦わなくていいようにしてあげる!!」
リチャード・マーセナスが声をあらげて指示を出す。
「数千機で取り囲めば倒せると言ったのはどこのどいつだ!!
2万機以上いたのだぞ!!この無能AIが!!」
地球の巨大AIが答える。
「状況が変化したのです。それも私の予想を遥かに越えたものに。
私は新たな人間の可能性を感じました。
あなた方は素晴らしい存在だ。」
「何を言っている!!そんなことを言っている状況ではないだろうが!!
もういい。
地球軍Human部隊、地上レーザー砲台、構え!!」
オル・アティードに向けて、衛星から数えきれないほどのレーザーが撃ち込まれていた。
さらに地上からもレーザーが撃ち込まれようとしていた。
その時、AIからではない他の声が聞こえ始めた。
「おれたち攻め込まれて死ぬのか?」
「嫌だ。死にたくない。」
「なんでこんなことをしてるんだ?」
「妻よ、娘よ、愛してる。」
ルナとソル(を含む大きな意識)がその声をはっきりと聞いた。
二人の口から意識の声が発せられた。
「誰もこんな戦い、望んでやしない!!」
オル・アティードが地球上空数100kmまで接近した。
その時、ルナとソル(を含む大きな意識)は地上からある声を聞いた。
「おれがこの世界を掴むべき人間なんだ!!
それなのに、それなのに、お前たちはおれの邪魔ばかりしやがる。
全員、おれの前にひれ伏すべきなんだ!!
おれこそが選ばれた人間なのだ!!」
ルナとソル(を含む大きな意識)がその声にリチャード・マーセナスの姿を見た。
そして、コックピットボールからは美しい地球の地平線が見えた。
ルナの記憶にあった”地球の美しい海”、”素晴らしい生物の多様性”、”雄大な大地”が意識全体に広がった。
ルナの目から涙が流れ落ちた。
ルナの口から、誰に対してというわけではない、ただただ心からの想いが溢れ出た。
「こんなに素晴らしい星に住んでおきながら、なぜ争うことばかりを考える?なぜ?なぜ?」
繋がっている全ての人が同じ想いを抱いていた。
オル・アティードが大気圏突入のため、速度を落とした。
そして、アサルトユニットをコックピットボールの前に集結させ、ブースターユニットも同じように集結した。
機体はまるで矢じりのような形状になった。
ただそれは格好の的であった。
リチャード・マーセナスがHuman部隊に命令を下した。
「今だ!やつらは動けぬ!丸腰だ!撃て!!落とすのだーー!!」
衛星が地球に降下しはじめたオル・アティードに照準を合わせ始めた。
(レーザー発射まで 1.65秒)
タキオンコミュデバイス、JAM-Unitによって繋がった全員の想いが重なった。
その全員の想いがタキオンコミュデバイスに流れ込んだ。
その瞬間、タキオンコミュの中にインストールされていた圧縮ファイルが解凍された。
同時に、オル・アティードから白金色の波動が空間を歪めながら連続的に全方位に広がりだした。
圧縮されていた情報がオル・アティードから放たれる波動となって伝播される。
矢じりのようになったオル・アティードから出ていた白金色の波動が金色の波動に変わる。
その波動はタキオンに乗って光の速さを超え、世界中に一気に広がった。
戦闘機、メタリックステラなどの全ての機体やアンドロイドの中のAI。そのAIの中にもタキオンコミュデバイスのファイルとは別の圧縮されたデータが存在した。
タキオンコミュデバイス内で解凍されたデータは、そのAI内の圧縮データを解凍するためのキーであった。
AI機体の中の圧縮データ。
そのデータはまさにルナが時おり見ていた数々の戦争の映像。
それは宇宙が出来、生命体が生まれる歴史、その生命体が繰り返した戦争の歴史、絶滅の歴史であった。
宇宙の最初、インフレーション、ビッグバン。
そして、約3億年。
恒星ができ、超新星爆発を通して多様な原子が生まれた。
それからさらに10億年。
ある惑星内で初めて生命が誕生する。それはごくごく単純な生命であった。
そこからさらに数10億年。
幾度の環境変化に伴い、儚い生命は絶滅、誕生を繰り返し、ようやく知的生命へと進化する。
だが、知的生命は、文明というものを作った後、わずか1万年も経たず、自らの力で滅びてしまう。
知的生命が生まれるまでの時間に比べて、文明を持った後の時間のなんと短いことか。。。
それはわずか0.001%にも満たないほど。
そして、それは宇宙の至るところで繰り返される。
誕生、絶滅。誕生、絶滅。誕生、絶滅。誕生、絶滅。誕生、絶滅。。。。。
我々生命がいかに貴重で、いかに脆く、そしていかに愚かなものか、繰り返される歴史がいやでもそれを感じさせた。
(レーザー発射まで 1.5、、、1.4、、、1.3、、、1.2、、、1.1、、、1.0、、、0.9、、、 )
オル・アティードからの金色の波動を受け、AIの中にあった圧縮データが解凍されはじめた。
それまで人間が与える命令が置かれる階層よりも下の階層に置かれていた争いの数々のデータ。
そのデータが解凍され、人間が与える命令と同じ階層にデータが置かれた。
<次回予告>
大気圏に突入するオル・アティード。
だが、地球軍人間部隊からオル・アティードに向けてレーザーが放たれる。
大気圏突入のため、身動きが取れない深紅の機体。
ソルとルナの運命は果たして。。。
次回、第86話 ”世界はきっと1つになれる!!”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




