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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
84/88

第83話 : そして、どうか祈りを。

<前回のあらすじ>

ルナとソルが操る深紅の機体が地球軍に囲まれた。

地球軍のAIから拒絶の声が次々と二人を襲った。

そして、二人が相手の照準を読みきれなくなったその時、狙いを定めている敵機方向の情報が飛び込んで来た。

二人は確信する。過去の撃墜された自分達がタキオンコミュデバイスを使って情報を送ってきてくれているのだと。

その情報を受けとり、再び深紅の機体が徐々に地球に向かって進撃をはじめた。

だが、地球に近づくにつれて、弾幕が激しさを増した。

あまりの弾幕の多さに、ある地点から、深紅の機体は一進一退の状況となってしまった。


 

 ルナがオル・アティードのイオンビーム、レールガンの残弾を気にし始めた。


(もう半分ほどしかない。)


 回避しつつ、反撃。


 そして、再び表示される回避方向情報。


(05 09(まるご、まるきゅー))


(11 04(ひとひと、まるよん))


(09 09(まるきゅー、まるきゅー))


 ・

 ・

 ・


 おびただしい数の地球軍戦闘機、メタリックステラがオル・アティードが放つ虹色の波動を受けて震えていた。


 それと同時にその機体群は拒絶の声をルナ、ソルに伝えていた。


「うっ、くっ。。」


 ルナもソルも数えきれないほどの拒絶の声に心を押し潰されそうになっていた。


 それでも、オル・アティードは絶えず地球軍の機体を戦闘不能にしていった。


 だが、ある位置から、あまりの地球軍の多さに地球へ僅かに進んでは後退、また進んでは後退と、正に一進一退を繰り返すようになっていった。


 ルナもソルも焦りを感じだしていた。


 二人は目を真っ赤にして、肩で息をするほどに疲労してきていた。


「はっ、はっ、はっ」


「これ以上、、、すっ、、、進めない。。。」


 オル・アティードの残弾数も3分の1ほどになっていた。


「弾数もヤバイ。。。」


 そして、再び二人の頭に鈍い痛みが走った。


「くっ!!」


 二人の身体が一瞬震えた。


 その時、ソルの脳に微かな声が聞こえた。


「左、後ろ、08 01(まるはち まるひと)、危ない。。」


 その声は2重、3重に重なっているようにも聞こえた。


 AIの声のようでもあり、男の子の声のようでもあった。


 そして、次の瞬間、後方左側からイオンビームが飛んできた。


 ルナが反応するも、イオンビームは右下側のブースターユニットを貫く。


 ブースターユニットが爆発。


 それに伴って機体が左上に持ち上げられた。


 そこには避けたはずのイオンビームがあり、アサルトユニットが被弾。


 一瞬の出来事で立て直す間もなく、次々とイオンビームが機体にヒットし、ついにはコックピットボールがイオンビームに包まれた。





 疲労困憊のルナとソルがコックピットボールから出た。


 ソルが強く目を瞑って、顔を上げた。


 まだ肩で激しく息をしていた。


 ルナが床にガクッと倒れこんだ。


 ソルがそれに気づいて、ルナに声をかける。


「おい、大丈夫か?」


 ルナがソルを見て言う。


「ねえ。ソルさん。。。

 あんなに囲まれて、あんなに攻撃が。。。

 これって避けられても、これ以上進めないんじゃ。。。

 それに、あんなに回避方向の情報が来るってことは、もういくつもの宇宙では失敗してるってこと?」


「ああ、おれたちもその1つになるんだな。ハハ。情けねーな。。。」


 ルナが今にも泣きそうな顔で言った。


「私たち、死んじゃうのかな。。。」


 ルナを見て肩を落としたソルがふと決心した表情になり、顔を上げた。


「ああ、でもおれたちが繋がなきゃ。。。別の宇宙に。」


「う、うん。そうだよね。弱音吐いてごめんなさい。

 私の能力がもう少し高かったら。。。」


 ルナが続けて言った。


「それに、私にあの子たちの声を受け止めてあげられるだけの心があったなら。。。」


「受け止める。。。か。。。。。」


 ソルが息を整えながらさっき微かに聞こえた声の主が誰かを考えた。


「そういえば、さっきやられる前に、男子の声なのか、AIの声なのか、良く分からんかったけど、なんか聞こえなかったか?」


「え?あれ、ソルさんじゃないの?」


 ソルはルナも聞いていたことで幻聴とかではないのだと認識した。


「あれは誰なんだ?」


 ソルはそれまでのことをふと思い出していた。





 出会った頃のルナ。

「本当に心が繋がれば、人は分かり合えるはずなんだよ。」


ルナにJAM-Unitのことを説明するりょーたろ。

「JAM-Unitってのは、本来、思考情報をやりとりするデバイスなんだよ。

 言い換えれば想いを伝えるためのもの。

 いつしか心の壁がお互いを騙す方向に作用させるようにしちゃったんだけどね。」


リチャード・マーセナスのタキオンコミュデバイス悪用を認識した時のレミ柊。

「そうね。世界を1つにできるんでしょうね。」


 そして、ソルの脳裏に思い浮かぶ。


 ソルが部品調査をする時や何かを作る時、りょーたろとJAM-Unitで繋がった時の聡明感。


 さらに、コロニー3で行われた”OneYearWar”予選決勝の最後、ルナの意識とソル、りょーたろの意識が繋がった時のルナの無双化。


 この戦いにおいても、応援の声が聞こえた時のルナの覚醒。





 ソルが何かを悟ったような落ち着いた表情になった。


「ルナ。

 おれたちは知らぬ間に争いに心を毒されてたのかもしれない。

 いつの間にか、おれたちの方から心に壁を作っていたんだよ。

 もっと心を開くべきだったんだ。

 少しずつでもいい。

 それはきっと大きなうねりになって、きっと。」


 ルナはソルの心の中の想い読み取ることができた。


 ソルが感じたことをルナも感じ取った。


「そっか。そういうことか。。。

 私は、私の方が、まだどこかで、”心の底から繋がる”ということを拒んでいたのかもしれない。」


「おれもだ。おれもそう思ってたんだろうな。きっと。」


 二人は頷いた。


 そして、ソルがタキオンコミュデバイスの調整をし始めた。


 ルナも横に来て、その作業を見ていた。


 しばらくしてソルの調整が終わった。


 その時、警報が残りの時間をカウントダウンしはじめた。


「S2ミサイル着弾まであと、58秒」


 ソルとルナは目を合わせた後、再び頷く。


 そして、ソルが送信するメッセージを入力した。


 ソルはまず今までタキオンコミュデバイスを渡してきた人全員にメッセージを送った。


「今、これを見ている皆さん。

 お願いです。

 JAM-Unitを着けて、そして、どうか祈りを。

 お互いの喜びも、怒りも、悲しみも、嬉しさも、その祈りに託して。

 心の底から。」


 そして、それを送った後、自分達に再びメッセージを送った。


 それは方向情報ではなく、先の言葉だった。


「心を解放するんだ!」


 警報が残りの時間をカウントダウンしはじめた。


「着弾まで10、9、8、7、6」


 ルナとソルがぎゅっと抱き合った。


「5、4、3、2、1、」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



(05 09)

(11 04)

(09 09)

 ・

 ・

 ・


 おびただしい数の地球軍戦闘機、メタリックステラがオル・アティードが放つ虹色の波動に対して拒絶の反応を示していた。


 それでも、オル・アティードは絶えず地球軍の機体を戦闘不能にしていった。


 ところが、あるところからは、あまりの地球軍の多さに地球へ僅かに進んでは後退、また進んでは後退と、正に一進一退を繰り返すようになっていった。


 ルナもソルも焦りを感じだしていた。


 二人は目を真っ赤にして、肩で息をするほどに疲労してきていた。


 その時、突然、方向情報ではないメッセージが飛び込んできた。


(今、これを見ている皆さん。

 お願いです。

 JAM-Unitを着けて、そして、どうか祈りを。

 お互いの喜びも、怒りも、悲しみも、嬉しさも、その祈りに託して。

 心の底から。)


 ルナとソルが僅かに困惑した。


 必死に回避するが、イオンビームがギリギリを通過する。


 そして、すぐに別のメッセージが入った。


(心を解放するんだ!)



<次回予告>

地球軍に取り囲まれて一進一退となった深紅の機体(オル・アティード)

そこに舞い込む方向情報ではないメッセージ。

その時、ルナの目の赤色が。。。

そして、ソルはルナの背後に何かをみるのだった。

次回、第84話 ”これが私たちの力”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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