第76話 : 迎撃不可能
<前回のあらすじ>
地球に向け進撃する深紅の機体、オル・アティード。
地球軍より先行する30機がその機体を迎え撃った。
その中には3機の特殊AIも混ざっていた。
ルナはAIの拒絶の声を聞くも、ソルとの連携、心の繋がりにより地球軍先行機30機を退けることに成功した。
その動きを見た地球の巨大AIが判断を下した。
”500機での対応が必要。”
それによって、地球軍は、コロニー5を制圧した機体、その宙域の機体を呼び合わせ、”RedDevil”を待ち構えるのだった。
リチャード・マーセナスは戦闘の映像を見ながら、苛立ちを露に、各機に指示を出していた。
「コロニー5手前に全機集結。一気にRedDevilを向かい撃て!!
何としてもあの小娘の機体を破壊するのだ!!」
ルナが30機を退けた後、その宙域から全く敵機の姿がなくなっていた。
「なんだ?地球軍のやつら、急にいなくなったな。」
「先を急がないとだね。」
「ああ。そうだな。行こう!」
そう言うと、深紅の機体が地球に向け一気に加速した。
コロニー5のコロニー群が見えはじめた時、ルナとソルは前方におびただしい数の気配を感じた。
「なっ、何!?この数!!?」
「こりゃ、すげー数だな。」
二人が僅かに目を合わせ、軽く頷き、気配の方に向き直り、目に力を入れた。
すると、急激に二人の目が赤くなった。
それと同時にオル・アティードの光彩部から虹色の波動が全方位に広がった。
波動が広がると同時にルナとソルの頭におびただしい数の拒絶の言葉が木霊しはじめた。
「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」
「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」
「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」
「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」
「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」
「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」
「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」
「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」
あまりの拒絶の意思に心が締め付けられる。
二人はまるで心臓や肺を掴まれているような息苦しさ、圧迫感を感じた。
ルナとソルの表情が急に強ばった。
そして、それと同時にオル・アティードに照準を合わせるイメージが伝わってきた。
ルナとソルがそれを察知し、オル・アティードを大きくシフト移動させる。
機体を移動させるやいなや前方からイオンビームが飛んできた。
イオンビームは深紅の機体の数m横を通過した。
コックピット内に轟音が鳴り響いた。
ソルは先ほどの戦いよりも圧倒的に近くを通るイオンビームに驚き、ルナを見た。
ルナは放心したような表情をしていた。
「ルナ、お前。。。」
それでも幾度も飛んでくるイオンビームをギリギリで避けながら進行していた。
拒絶と反戦の言葉はオル・アティードが進行するにつれて大きく、多くなっていった。
その声は先ほどの30機との戦闘とは比べ物にならないほど強烈なものであった。
「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」
「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」
「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」
「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」
「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」
「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」
「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」「入ってくるな!!」
「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」
「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」
「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」
「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」
「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」
「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」
「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」「戦いたくない!!」
声が多くなるにしたがって、ルナの目の赤色が失われていった。
通過するイオンビームがもう機体のすぐ横をかすめる。
かすめた部分の塗装が黒く焦げる。
偵察機が映像を発信していた。
最大望遠でオル・アティードを追いかけるが、なかなか捉えることができない。
一瞬機体が写ったところを静止画にして、拡大すると機体に少し焼けた痕が付いていた。
「ひいっ!」
見ている人たちが身をすくめた。
「RedDevilのお姉ちゃん、頑張れー!!」
世界中が応援しはじめていた。
吐き気がするほどの拒絶。そして、悲しみ。
ルナの心が折れそうになる。
ルナの想いがソルに流れ込む。
(あの子たちは嫌がってるのに、なぜ戦わないといけないの?)
ソルが暗闇の中のルナを見た。
ルナは膝を抱えて座り、こうべを垂らして涙を流していた。
ソルがルナの両肩を掴んだ。頑張れ、負けるなと声を掛けようとした。
だが、それまでルナが浴びた膨大な負の感情や脳への負荷を考えるとソルは励ます言葉が出なかった。
「ルナ、もういい。お前は無理するな。
おれがやる。おれがあいつらを解放してやるから。」
ルナが顔を上げる。
ソルが目の前にいた。
ソルがそっと微笑んだ。
その一瞬の笑みの中にソルの想いが伝わってきた。
責任の重さに潰されそうな心。
コロニー3にS2爆弾が使われたらという恐怖。
逃げ出したいという気持ち。
これまで叩き潰したアンドロイドへの贖罪の心。
ソルの心の中に渦巻くたくさんの負の想い。
だが、ルナはその奥に小さく、しかし強く光る1つの想いを見た。
(心を繋げるんだ!そして、いつか争いの鎖を断ち切るんだ!!)
ルナの目がその光を見た。
その光は強く、温かく、何より優しかった。
ソルが世界を1つにという言葉を本気で思っていることが伝わってきた。
そして、さらに何か温かいものがルナの心に流れ込んできた。
小さいが、それでも数多くの想い。温かい光。
(RedDevilのお姉ちゃん、頑張れー!!)
(RedDevil、負けるな!!)
(もう少しだ!頑張れ!!)
ソルの中の温かい光とどこからか流れ込んできた光が1つになり、光を増した。
コロニー5軍事マニアの偵察機が映す映像。
地球軍の戦闘機、メタリックステラの攻撃をなんとかギリギリで躱す深紅の機体。
だが、望遠で見る画像ではもう当たっているのではないかという距離だった。
見ている人たちが思わず息を止めた。
ルナは目の前に輝く光に触れた。
その瞬間、ルナを包んでいた暗闇が一気に真っ白に晴れ上がった。
コックピットのルナの目が再び赤く染まった。
ルナとソルの心が再び1つに繋がっていた。
二人は、さらに何かが背中を推している、そんな気がした。
オル・アティードの光彩部が再び力強く光りだした。
虹色の波動が全方位に広がる。
より強くAIの言葉がルナとソルを襲う。
ルナとソルが僅かながらに顔を歪めた。
それでも2人はまっすぐ進行方向を見据えていた。
「もう私は目を背けたりはしない!!」
それと同時にAIからの視点、照準情報、そして機体情報が入ってくる。
オル・アティードがそれまで以上に急激な方向転換をしはじめた。
ギリギリをかすめていたすべてのイオンビーム、ミサイル、レールガン砲弾が機体から一気に距離を離した。
攻撃の全てが虹色の軌跡を撫でるようになった。
そして虹色の軌跡の先端から放たれる反撃のイオンビーム。
遠くはなれたメタリックステラのイオンビームライフルに次々とヒットする。
メインカメラである頭部を次々に破壊していく。
恐ろしいほどの速度、そして正確さ。
回避行動を取りながらもグングンと戦艦に接近していく。
「この動きはどこにもデータが存在しない。
ライトニングドライブとは似て非なる動きだ。
新たにシミュレーションを開始します。」
8つのブースターを使ったオル・アティードの奇妙な動きに、地球の巨大AIですらも撃墜の絵を描けずにいた。
後方のメタリックステラが半数ほど撃墜された頃、戦闘機部隊とオルアティードが会頭した。
数100機の戦闘機がオル・アティードを取り囲んだ。
ルナとソルの頭により強い拒絶の声が木霊する。
ルナとソルがその声に耐えながら戦う。
その拒絶に圧され、オル・アティードの動き、波動の強度が若干弱くなった。
だが、それでも攻撃が深紅の機体を捉えられる状況には全くならなかった。
地球の巨大AIがシミュレーション結果を算出した。
「現残機では迎撃不可能と判断。約2600機以上の戦闘機、もしくはメタリックステラの編成を以て迎撃可能。」
リチャード・マーセナスが言った。
「さっきは500機だと言っただろう!!お前、適当なことをぬかすと。。。」
AIが答える。
「先ほど以上の動きが見られます。
この短時間で恐ろしいほどの進化を遂げています。
ですので、地球の部隊、月を制圧した部隊、コロニー1を制圧した部隊を集めることをおすすめします。」
「ちっ!そんなことは言われなくとも分かっている。」
オル・アティードは次から次へと戦闘機、メタリックステラを戦闘不能状態にしていった。
出撃時、フル充填ではないにしろ、それまでのルナの動きであれば充分に地球まで持つイオン推進剤を積んでいた。
だが、ルナの動きが覚醒した後の動きはイオン推進剤の消費量も増加していた。
ルナはイオン推進剤の残量をチラッと見た。
(あと、5%もない。)
ソルにもその心配が伝わる。
リチャード・マーセナスが苛立ちの姿で指示を出した。
「くそっ!全機退却だ!!退却しろ!!」
オル・アティードを狙った無数の攻撃が急激に減少し、各機が退却していく。
だが、ルナの推進剤残量を気にする感情が僅かながら退却しようとする戦闘機に伝わった。
JAM-Unitは本来、意思を疎通させる機器であるため、逆方向にもわずかに信号が流れていたのであった。
それは瞬間的に地球の巨大AIにも伝わった。
地球の巨大AIがリチャード・マーセナスに意見を述べた。
「退却命令を破棄し、直ちに攻撃を再開させてください!」
<次回予告>
能力が覚醒したRedDevil。
どんどん無力化されていく地球軍。
だが、推進剤がほぼ枯渇する深紅の機体。
推進剤がなくなる時、地球軍の残機は。。。果たして。
次回、第77話 ”これで終わりだ!”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




