第68話 : 違った正義
<前回のあらすじ>
ソルはリチャード・マーセナスの工場でのタキオンコミュデバイス製造を認可し、製造が開始された。
ルナは今までのお礼にとお世話になった人を集め、食事会を開催していた。
その時、不意にあるニュースが飛び込んできた。
それは地球側がコロニー製品に200%の関税をかけるというものだった。
突然レイモンド小林のBCDに着信が入った。
レイモンド小林の表情が急に硬くなった。
「なに!?地球がコロニーでの生産品に関税200%を付加するだと?」
それをレイモンド小林が聞いた時、レミ柊にも着信が入った。
「分かりました。議長権限でコロニー議会の緊急召集をかけます。」
慌てるレイモンド小林とレミ柊を見て、ソルが聞いた。
「どうしたんです?」
レミ柊が答えた。
「リチャード・マーセナスが。。。」
そう言うと、レミ柊があるニュースが映るウインドウを全員に見える形にした。
そこにはリチャード・マーセナスが映っていた。
「これよりコロニーの製品には200%の課税をかけます。
全ては地球から生まれたのです。
現在のコロニーサイドが行っている市場支配はそれを忘れている。
それは絶対に許されないことです。
もう一度偉大なる地球が輝く日を!!」
レミ柊が支度をして席を立った。
「ルナちゃん、折角のお食事会なのにごめんなさいね。
議会に行かないといけなくなったの。
本当に料理美味しかったわ。
ありがとう。」
「ううん。レミおばさん、来てくれてありがとう。」
レミ柊が立ち上がり、ソルの方をちらっと向いた。
ソルがこの異常事態を察して母親に声をかけた。
「母さん、気を付けて。」
「うん。また。」
そう言うと、レミ柊がダイニングルームを後にした。
そして、レイモンド小林も口を開いた。
「すみませんが、私たちも役員会議を開かなければならないので、失礼させていただきます。
ルナ、ごめんね。また必ず機会を設けるから。必ずね。」
「うん。パパも気を付けてね。」
そう言って、レイモンド小林は美月小林と一緒に退席した。
ソルがおじぎをして、レイモンド小林がダイニングルームから退出するのを見ていた。
閉められたドアをじっと見ながら、ソルは地球で話した時のリチャード・マーセナスの想いを思い出していた。
「これで世界をひとつに」
その言葉からは想像もできないコロニー関税200%の発言。
ソルは理解ができなかった。
「何がどうなってるんだ?」
りょーたろがソルに言った。
「一度、マーセナスさんに連絡してみろよ。ありえねーだろ。こんなの。」
「。。。そうだね。」
ソルが机の上にタキオンコミュデバイスを置いた。
そして、地球で立ち上げたデバイスに対して連絡を入れた。
しばらくしてリチャード・マーセナス側が着信を受けた。
ソルが慌てて話し出した。
「リチャード・マーセナスさんですか?私です。ソルです。」
「えっ?なぜ!?」
ソルが声を確認して答えた。
「なぜ?なぜはこちらの台詞です。なぜあんなことを?
コロニー課税が出れば、人口の60%を持つ地球が圧倒的に有利になる。
今のコロニー貧困層はますます立ち行かなくなります。」
リチャード・マーセナスが切り返した。
「それは地球も同じです。
地球はコロニー経済圏の発展により疲弊の一途なのです。
今や経済活動の70%がコロニー生産だ。
あなたは知らないのでしょう、地球貧困層の生活状況を。」
「だからって一方的な課税は良くない。それは無駄な争いを生むだけです。」
「あなたはスペースシード側に立っているからそう考えるんです。
我々は地球の重力に繋がれた者です。
あなたも地球に住んでいるものとして考えてみると良い。
違った正義が見えてくるはずだ。」
「撤回を考えてはいただけないですか?」
「もう矢は放たれたのです。
あー、ですが、あなたの製品は地球製だ。
関税の影響は受けないですよ。」
「そういう問題ではないでしょ!!」
ソルが声を荒げた。
リチャード・マーセナスはソルの怒りを制止するために交渉カードを切った。
「こういうことは本当は言いたくはありませんが、あまりにも我々とベクトルが異なるのであれば、製品の量産は白紙撤回とさせていただきます。
それでもよろしいのですかな?」
ソルが言葉をつまらせた。
だが、目の前で困惑顔のリタお婆ちゃんや他の貧困層住民たちの顔が思い浮かべるととてもではないが、肯定的な返事はできなかった。
ソルは、開拓士の人たちには申し訳ないと思いつつも、量産を諦めざるを得なかった。
「白紙で結構です。こちらからの設計図やインストールソフトをすぐに削除してください。」
「分かりました。残念ですが、それしかないようですな。」
リチャード・マーセナスが最後に捨て台詞を吐いた。
「せいぜいコロニーの正義を振りかざすが良い。最後に勝つのは私だ!」
そういうとリチャード・マーセナスが通話を切った。
通話が終わった後、ルナが言った。
「何か嫌な予感がする。」
「まあ、当たり前だけど、各コロニー議会が反対するだろ?」
「そうだと良いけど。」
すぐ後に、ルナの企画した食事会は解散となった。
りょーたろの車に乗り、ソル、りょーたろ、リタお婆ちゃんはE地区、F地区に向けて移動していた。
その時、あるニュースが飛び込んできた。
そのニュースとはリチャード・マーセナスへの牽制をレミ柊が行うものであった。
「先ほどのコロニー製品への関税の件ですが、我々コロニー3の議会はこれを容認することはできません。
地球内だけで決めたルールなど、到底受け入れることなどできません。
今や人類全体はコロニー製のBCD、そしてS2エネルギー機関、さらにはテロメライザーの恩恵を受けている。
だからこその経済占有率です。
自由公平な市場原理での結果なのです。
それなのに地球側はただコロニー製品に課税をかけるという。
なぜそんな訳の分からない結論に至るのか、理解に苦しみます。」
レミ柊の演説が流れている間にも他のコロニーから否認表明が相次いだ。
地球を含めた議会全体の50%以上が否決側に回っていた。
りょーたろもソルもほっとしていた。
そして、リタお婆ちゃんを家まで送り届けた。
ソルは今日のお婆ちゃんの言葉が嬉しかった。
「お婆ちゃん、今日の言葉、嬉しかった。ありがとう。」
「ほんとのことじゃよ。」
ソルがしばらくリタお婆ちゃんを見ていた。
「おやすみなさい。」
「ああ、二人もね。」
そして、ソル、りょーたろはジャンク屋に到着した。
次の日の未明。
ソルは結局夜が明けるまで自身の工房でタキオンコミュデバイスの製造を行っていた。
製造をしつつも、時おり、リチャード・マーセナスの言葉を思い出していた。
「世界をひとつに」
ソルはあの時の言葉を信じていた。
リチャード・マーセナスのあまり良くない話は、母親や時折聞こえてくるニュースからあるにはあったが、デバイスを見た時のリチャード・マーセナスの心の声は本物だと思っていた。
ソルが自分に言い聞かせるように言った。
「ちがうな。おれが信じたかっただけか。。。」
ソルが少し首を振り、ひとつため息をついた後、再びデバイス製造に手を動かしはじめた。
朝7時、デバイスの完了品が100個積み上がった。
ソルはデバイスを100個単位で出荷していたため、完了品が100個になると、出荷作業を行っていた。
ソルとアンドロイドたちが出荷作業のため、手を止めた時、突然りょーたろから着信が入った。
「大変だ!大変なことが起こっちまってる!!ニュース見てみろ!!」
「え?」
ソルがニュースサイトを開いた。
「大変です!現在、地球軍がコロニー1に侵攻を開始したようです。
コロニー1の防衛軍が地球軍と交戦中です。」
<次回予告>
コロニー1に攻め込む地球軍。
ニュースを見ているソルとりょーたろにルナから連絡が入る。
ルナが発見した驚くべき事実。
それを聞き、激怒するソル。
世界は急激に変化していく。
次回、第69話 ”あのコックピット付近に、、”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




