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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第66話 : 漆黒の宇宙空間(ソラ)の中で

<前回のあらすじ>

ソルはリチャード・マーセナスの工場で20ものラインが作り上げられているのを見た。

感嘆の声を上げるソルとりょーたろ。

ついにソルの開発した0時間通信デバイス”タキオンコミュデバイス”が陽の目を見る日が来る。

ソルはそう感じていた。

ソルが最後のソフトウェアのセッティングをしようとした。

その時、ソルは何か心に不安を感じたのだった。


 

 工場長が目の前の装置について説明した。


「この装置に設定アプリとインストールするソフトを入れてください。」


「分かりました。」


 ソルはりょーたろを見た。


 二人とも髪の毛に隠してJAM-Unitを着け、怪しいところがないか、確認していた。


 彼らには工場長、ライン技師などの声が聞こえていた。


(本当にこれが世界を変える?)


(5時以降に働かされるとは思ってなかったぜ。)


(こいつらのせいかよ。全く勘弁してくれよ。)


 HERVIC社長からも聞こえてきた。


(これで赤字が出たらどうするつもりだよ、全く。

 あのクソオヤジには困ったもんだぜ。

 早く引退しておれに継がせろよ。)


 だが、リチャード・マーセナスからはずっと同じ声しか聞こえてこなかった。


(これで世界をひとつにできるのだ。やっとだ。)


 ソルはあまりの順風満帆具合になぜか分からないが、心の奥底で不安を感じていた。


 だが、その時、ソルの頭にブライト・ハサウェイやワトニーの嬉しそうな笑顔が浮かんだ。


(このデバイスは本当に素晴らしい!本当にありがとう!!)


 その笑顔を胸に、ソルは心の不安に蓋をした。


 ソルはりょーたろと思考を通い合わせた。


 りょーたろもブライトやワトニーの笑顔を見た。


 それを見たりょーたろはソフトインストールに合意してうなずいた。


 ソルが装置の前に移動した。


 ソルは自分のBCDと装置を配線で繋ぎ、設定アプリとインストールソフトを入れた。


「これで良し。じゃあ、まずはこの繋がっているデバイスに対して、アプリの指示にある通りに、ソフトをインストールしてもらえますか?」


「はい。分かりました。」


 工場長が技師に指示を出した。すると技師が作業用アンドロイドにそのまま指示を出(スルーパス)した。


 ソルが少し心配になり、そのアンドロイドに直接設定アプリの設置方法、ソフトインストール方法を話した。


「カシコマリマシタ.」


 アンドロイドが操作を行い、繋がっているデバイスに設定が施された。


 しばらくすると、デバイスのランプ数個がそれぞれ時間差を持って赤に灯った。


 ソルの顔が少し強ばった。


 デバイスからわずかにエネルギーが充填されていくような音がどんどん高くなる。


 ソルのデバイスを見る目に力が入っていた。


 ソルは宙に浮いている非常停止ボタンを構えていた。


 ソルの様子から全体に緊張が走っていた。


 すると、突然デバイスから音が上げ止まった。


 一瞬の間。人々も息を飲んだ。


 ソルの頬に汗が伝う。


 カチッという音と共にランプが赤色から緑色に変化した。


 それを見て、ソルがはっと息を吐いて、、肩の力を抜いた。


 そして、ソルは緊張がほどけた表情になった。


「うん。きっと大丈夫だ。試してみましょう。」


 周囲もソルの様子を見て、緊張がほどけた。


 ソルは設定する実施する装置からタキオンコミュデバイスを取りだした。


「マーセナスさん、BCDとこれを繋いでみてください。」


「ええ。分かりました。」


 リチャード・マーセナスがタキオンコミュデバイスから延びるケーブルをBCDに繋いだ。


 ソルが自分のBCDから『リタお婆ちゃん』の連絡先を検索して、リチャード・マーセナスが見えるように表示した。


「ここに連絡してみてください。」


 リチャード・マーセナスが思考で連絡を入れた。


 ソルがマーセナスに依頼する。


「すみません。みんなが見られるようにしてもらえますか?」


「はい。」


 リチャード・マーセナスはすぐにウインドウを全員が見られる状態にした。


 しばらく呼び出し音が工場内に鳴り響いたかと思うと、リタお婆ちゃんの顔が映し出された。


「はいはい。どちら様?おや、そこに見えるのはソルかい。どうしたんだい?」


 ソルが話しかけようとしたが、リチャード・マーセナスがソルより前に出て、慌てた様子で、リタお婆ちゃんに質問した。


「あー、失礼ですが、そちらはどこでしょうか?」


 画面に映るリタお婆ちゃんが斜め上を見たかと思うと、再びカメラに向かって答えた。


「どなたか知らんが、ソルのお知り合いの方かの?ここは、えっと、E地区の。。。」


「あっ、いえ。。えー、その、、どこかの星でしょうか。それともコロニー?」


「あー、そういう”どこ”だね。えーと、ここはコロニー3の105だったかな?」


 ソルが笑いながら答えた。


「違うよ。3の104だよ。」


 リチャード・マーセナスが目を見開き、笑みを浮かべた。


 ルナがリチャード・マーセナスの笑みを見た。


 その瞬間、ルナの頭に宇宙空間で無数の戦闘機が戦いを繰り広げている映像が映った。


「えっ?」


 だが、次の瞬間にはその映像が消えた。


 ソルの声を聞いて、リタお婆ちゃんが思い出したかのように言った。


「あー、そういや、ソルや。

 お隣さんの医療ポッド。

 ちょっと動きがおかしいから見てほしいって。

 すぐ来てくれるかい?」


 ソルが答える。


「あー、実はちょっと今、地球なんだよね。

 今日中には戻るから、夜まで待っておいてって連絡しておいて。」


「ああ。分かったよ。伝えておくよ。」


 そういうと、ソルはリタお婆ちゃんとの通話を切った。


 そして、ソルが技師に伝えた。


「これで大丈夫そうです。データは先ほどのパッケージをそのまま使ってください。」


 その言葉に工場長よりも技師よりも速く、リチャード・マーセナスが反応した。


「本当にありがとうございます。まるで夢のようです。」


 リチャード・マーセナスはソルの手を取り、力強く握手して手を上下に降った。


 そして、ソルの手を離した後、横に向き、誰かと小声で通話した。


「ああ。私だ。言った金額を振り込んでくれ。頼む。」


 通話を切ったリチャード・マーセナスがソルたちの方に向いた。


 その時、ソル、りょーたろ、ルナのBCDに振り込みの表示が現れた。


 ソルとりょーたろがその金額を見て、驚いた。


(500,000,000C)


 りょーたろがあまりの驚きに声を出した。


「500万、いや、違う。。5億サークル!?」


「はい。まずは試作品完成のインセンティブと思っていただければ。」


 ソルが少し困惑して言った。


「えっ?でも、こんなには。。。それに契約には、これは入って。。。」


「いえ。これは私の気持ちです。本当にこのデバイスは素晴らしい。

 これで世界を1つにできる。そう感じます。」


 リチャード・マーセナスの目に力が入っていた。





 3人は製造ラインから会議室に戻った。


 ルナが待機していたシュレディンガーをやさしく抱き上げた。


 ソルがリチャード・マーセナスとHERVIC社長、そして、工場長に向かってお願いをした。


「私が今受注している残件が8万3千個ほどあるのですが、まずはそれを作っていただけないでしょうか。」


 すると、HERVIC社長が答えた。


「かしこまりました。8万3千個ですね。

 もちろん対応させていただきます。出来次第、またご連絡いたします。」


「お願いします。」





 その会話を最後に、3人はすぐに軌道エレベータのところまで移動した。


 3人は軌道エレベータで絶景を見ながら上に上がり、イミグレーションを通過し、スペースシップへの搭乗ゲートに移動した。


 その時、ちょうど目の前の掲示板にスペースシップの遅延情報が表示され、ゲート前では繰り返し状況がアナウンスされていた。


「コロニー3エアポート行きですが、使用する機体の到着が遅れております。

 誠に申し訳ございませんが、現在のところ、3時間の遅延となる予定です。

 繰り返しご案内申し上げます。コロニー3エアポート行きですが、、、」


 ソルがその案内を見て、慌て出した。


「えっ?3時間も遅れるのかよ!!

 ルナ、家に着くのが夜になっちまう。。。やベーな。」


 ルナは待機場所から見える漆黒の宇宙の姿を見た時、宇宙の絵が、先ほど工場で見た風景とオーバーラップし、映像を思い出した。


「あっ、そう言えば、ソルさん。さっきね。」


 ソルがルナの方を向いた。ルナが続けた。


「リチャード・マーセナスさんを見た瞬間、こんな漆黒の宇宙空間(ソラ)の中で、たくさんの戦闘機が戦っている光景()が見えたの。」


 ルナが話を終わるか、終わらないかの時にルナの後ろから声が聞こえてきた。


「あら!?またルナちゃんじゃないの。」


 3人は声のする方向に振り向いた。


 少し離れたところに、黒服を着た護衛用アンドロイドに囲まれたレミ柊が立っていた。


 ソルとレミ柊の目が合った。


 ソルは目を逸らし、レミ柊は少し険しい顔になった。


 そして、レミ柊が近づいてきた。


 りょーたろは若干オドオドした態度になったが、ルナは明るい表情で笑いながらレミ柊に話しかけた。


「レミおばさん!また奇遇ですね。」


 ルナの言葉に柊レミの表情が和らいだ。


「そうね、奇遇ね。ところで、ルナちゃんがなんで地球にいるの?」


 レミ柊が一瞬ソルに目をやったが、またルナの方を見た。


 ルナが話し始めようとしたが、ソルが割って入った。


「『OneYearWar』関係でルナが地球に行きたいって言うから連れてきたんだよ。」


 レミ柊が疑いの眼差しでソルを見ていたが、再びルナを見た。


「あら。ルナちゃん、この便なの?3時間遅延って出てるけど。

 なんなら私の船に乗ってく?すぐ出発するけど。」


「えっ?いんですか!?」


 ルナが屈託のない表情で返事した。


「もちろん。」


 ルナがすぐさまソルとりょーたろの方に向いた。


「ねえ?乗せてもらおうよ。」


 りょーたろがボソッと返した。


「おれは全然いいけど。ソルは?」


 みんながソルを見ていた。


「おれはやめとくわ。ルナだけ乗せてもらえばいい。」


 レミ柊の表情が少しだけ暗くなったのをルナは見逃さなかった。


 咄嗟にルナが返した。


「あっ!でも、ソルさんはお婆ちゃんのお隣さんの医療用ポッド修理するんじゃなかったの?」


「まあ、それは別に明日でも。」


「ダメだよ!お婆ちゃんと今日の夜行くって約束したじゃない!!」


 ルナがソルをじっと見た。


 レミ柊も横目でソルを気にしていた。


 りょーたろは緊張から別のところを見ていた。


「あー、もう、、、分かったよ。」


 ソルがレミ柊の方に向いて言った。


「母さん、、、乗せてくれよ。」


 ルナが笑顔になって、レミ柊の腕に飛びついた。


「レミおばさん、ありがとうございます。行きましょ!!」


 レミ柊がルナを見て笑顔を見せ、ソルとりょーたろの方を見て言った。


「こっちよ。」





 RM財団のスペースシップに乗って、3人はコロニー3に向かっていた。


 出発して、3時間が過ぎた。


 それまで3人でカードゲームなどをしつつ楽しんでいた。


 だが、笑顔だったルナの表情が、なぜか急に険しくなり、血の気が引いていった。


 誰から見ても体調が急変している様子だった。


 ルナが手に持っているカードを落としてしまった。


「おい!ルナ、大丈夫か?」


「ルナちゃん、めちゃくちゃ顔色悪いよ。大丈夫?」


<次回予告>

レミ柊のスペースシップの中で何かを見たルナ。

コロニー3に到着した3人はスペースポートで、あるニュースを見る。

そして、再び日常に戻る3人。

そんな折り、ルナはお世話になった人を呼び、あるイベントを開催するのだった。

次回、67話 ”これっておれたちが乗るはずだった便じゃないか!?”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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― 新着の感想 ―
 そういえばあの通信デバイス。爆発モードが無かったっけ……。  新幹線みたいに宇宙と地球を行き来しているのが未来的。運賃いくらなんだろう。  そして、次号予告が不穏すぎて次回が楽しみです。
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