第64話 : なんだったの?あの戦争の映像は。。。
<前回のあらすじ>
ソルは追加受注を受けた。その数は今の生産量を圧倒的に超えるものだった。
ソルは嬉しく思いながらもこの0時間通信デバイスに期待している人を待たせることに焦りを感じていた。
その思いもあり、ソルはとうとうリチャード・マーセナスの工場に量産を依頼したのだった。
時を同じくして、ルナは、AIの拒絶や戦いたくないという思いをさらに深く知るために、今まで以上の思考潜行性を持つ新しいデバイスを、ソル、りょーたろから受けとり、それを試してみるのだった。
ルナが『OneYearWar』にログインした。
視野全体がコックピットからの風景に切り替わった。
ルナは外を眺めた。
そこはいたっていつもの母艦内の風景だった。
ドック内に配置されている数多くの機体が発艦準備をしていた。
アンドロイドクルーが慌ただしく動いていた。
そして、戦闘開始カウントダウンがスタートした。
オル・アティードがリニアカタパルトに設置された。
「5、4、3、2、1、Mark!」
オル・アティードがリニアカタパルトの力で勢い良く加速した。いくつものグリーンライトを通過し、機体が宇宙に放り出された。
無数の機体が宙に放たれ、敵陣に向かって加速していた。
オル・アティードも、アサルトユニット、ブースターユニットをコックピットボールに集め、最大加速をした。
深紅の機体は一気に機体群の先頭に立ち、さらに、どんどん後続を突き放す。
ルナはアサルトユニットとブースターユニットをコックピットボールから剥がした。
そして、敵哨戒機に捉えられる前に、ルナは意識を集中させ、JAM-Unitを起動させた。
オル・アティードの機体から虹色の波動が周囲に広がる。
その波動はいつも以上にはっきりと空間を歪ませながら広がった。
次の瞬間、ルナの頭の中にキャスバル・ノンレムやアイザック少年が戦場にいること、その機体の場所がどこであるのかすらも、手に取るように認識できた。
「なっ、なに!?。。。これ?」
ルナは宇宙のある点を見つめた。
ルナの頭にはキャスバル・ノンレムやアイザック少年のコックピットからの映像までもが見えていた。
さらには彼らが何を考えているのかも伝わってきた。
そして、次には敵哨戒機がこちらを認識したことが伝わってきた。
「あそこにいる。。。」
ルナはまだ何も見えない空間を見た。
そして、おもむろにイオンビームをその方向に発射した。
「なぜ!?」
次の瞬間、イオンビームが機体を貫く轟音が鳴り響く。
「私は戦いたくないのに!!」
この言葉を残して、哨戒機は爆発の光の中に消えた。
「なに。。。これ。」
ルナの目はすでに真っ赤になっていた。
困惑した様子のルナだったが、さらに機体を加速させ、敵陣に向かって一直線に進んで行った。
すると、すぐに様々な方向から声が聞こえてきた。
「イオンビーム射出用意!」
(勝手に入ってくるな!)
(私は戦いたくない!)
「撃て!撃つんだ!!”RedDevil”を近づけさせるな!!」
ルナは機体側面のブースターからイオンを排出させ、急速にシフト移動させた。
機体が動いた後でイオンビームが宙を切った。
そして、オル・アティードからの反撃が敵機にヒットし、漆黒の空間に爆発の光が次々と発生した。
ルナはAIによる拒絶を感じつつも、機体をさらに敵陣へと走らせた。
進行する毎に、声がどんどん数を増し、強くなっていくのを感じていた。
「勝手に私の中に入るな!」
「お前は何者だ!」
「戦いたくなんてないんだ!」
「再びRedDevilを探知。情報共有。」
「イオンビーム撃ち方始め!」
「勝手に入ってくるな!」
「お前は何者だ!?」
オル・アティードは攻撃を予見し、再び大きなシフト移動を行った。
イオンビームが機体の横を掠めた。
拒絶の反応が強くなるにしたがって、オル・アティードとイオンビームの距離が徐々に近づいてきていた。
それでも、ルナは敵機から放たれるイオンビームをことごとく避け、反撃をし、さらに進行していった。
敵の旗艦まであと1000kmを切ると、猛烈な弾幕とイオンビームの嵐がルナを襲った。
それでもルナには明確なターゲットのビジョンが見えており、回避、反撃ができていた。
ルナの集中が最高潮に達していた。
ルナの目からは赤い涙が流れていた。
ルナを苦しめたのは、弾幕でも、イオンビームでもなく、AIから伝わる強烈なまでの拒絶と戦闘への嫌悪感であった。
「入ってくるな!入ってくるな!入ってくるな!入ってくるな!入ってくるな!入ってくるな!入ってくるな!入ってくるな!入ってくるな!入ってくるな!」
「戦いたくない。戦いたくない。戦いたくない。戦いたくない。戦いたくない。戦いたくない。戦いたくない。戦いたくない。戦いたくない。」
「私を汚すな!!私を汚すな!!私を汚すな!!私を汚すな!!私を汚すな!!私を汚すな!!私を汚すな!!私を汚すな!!私を汚すな!!私を汚すな!!」
徐々にルナの息が荒くなっていった。
ズキンズキンとした頭痛がルナを襲い出した。
「戦いたくなどないのに!」
「なぜ勝手に!入ってくるな!!」
「こんなこと、したくない!!」
オル・アティードの回避が徐々に遅れだし、イオンビームが機体をかすった。
その瞬間、ルナの頭の中で金属を叩いたような甲高い音が鳴り響き、鋭い痛みが走った。
「いたっ!!」
ルナは痛みと共に脳内にある情報が入ってきたのを見た。
それは
膨大な戦争の記憶
だった。
だが、それは一瞬で入ってきて、そして消え去った。
痛みはルナの回避反応を鈍らせた。
その結果、ついにイオンビームがオル・アティードのアサルトユニットを捉えた。
オル・アティードのアサルトユニットが爆発し、機体が跳ねた。
そして、さらに機体にイオンビームがヒットし、爆発してしまった。
ルナは肩で息をするほど、疲労していた。
まだ頭にズキズキとした痛みが走っていた。
真っ暗になったコックピットの画面が次の瞬間再び母艦内の映像に切り替わった。
コンティニューを促すメッセージが表示されていたが、ルナはログオフを選択した。
コックピットの風景が元の部屋に戻った。
ルナは痛みに顔を歪めたまま、JAM-Unitを取り外した。
「なんだったの?あの戦争の映像は。。。」
次の日、ソルはアパートで自分のラインでデバイスの生産をしていた。
少量でも早く待っている人にデバイスを届けたい。その一心であった。
4体のアンドロイドがそれぞれ分業で部品を組み立てていった。
ゆっくりではあるが、デバイスが形作られていく。
最後にソルが作ったインストーラ、条件設定アプリケーションによってソフトがインストールされ、部品の性能、加速器の個体差に合わせて自動でエネルギー投入量がセッティングされた。
加速器が高エネルギー充填状態になっていく。
デバイスから僅かに甲高い音が聞こえる。
ソルがその様子を見て、表情を強ばらせ、唾を飲み込んだ。
デバイスの赤色ランプが緑色ランプに変化した。
ソルの表情が和らぎ、息を軽く吐いた。
「よし!自動調整も大丈夫そうだ。」
ソルが視野に映る時間を見た。
「タクト、4分半。。。1日約300個か。まあ、それでも今はこれでやるしか!」
リチャード・マーセナスがラインを構成している現場に入ってきた。
ちょうどその時、HERVICの社長リッティー・マーセナスもラインの工事現場にいた。
リッティー・マーセナスがリチャード・マーセナスに気がつき、工場長との話を打ち切って、リチャード・マーセナスのところに移動してきた。
リッティー・マーセナスが神妙な面持ちでリチャード・マーセナスに言った。
「父さん。この前の会議といい、これはどういう風の吹き回しなんですか。
彼らの主張する金額ではとてもじゃないが、利益などほとんど出すことができない。
もし万が一、売れなかった場合、大変な損失を計上することになる。
しかも、彼らはスペースシードだ。
なぜスペースシードに加担するようなことを。。。」
リチャード・マーセナスは近づいてきたリッティー・マーセナスの肩をギュッと掴んでいった。
「息子よ。
私は気がついたのだ。このデバイスは本当に革命的だ。
スペースシードとか、アースシードとか、そんなことはどうだっていい。
この世界をひとつにするためだ。
お前はつべこべ言わずに早く立ち上げることだけを考えていれば良いのだ。
分かったな。」
リッティー・マーセナスは父親の顔に圧倒され、唾を飲み込んだ。そして、うなずく他なかった。
「は、はい。分かりました。」
次の日もルナは「OneYearWar」にログインしていた。
ルナは昨日よりも遥かに明確に敵機の狙い、他のヒューマンプレイヤーの視点が見えるようになっていた。
それと同じく、AIの戦いたくないという想いも大量に受けとることになった。
ルナは戦うことを強制されているAIを見て、涙が流れ出した。
そして、敵陣に進むにつれて増していく拒絶の声。鳴り響く反戦の想い。
ルナの流れる赤い涙。
「入ってくるな!!入ってくるな!!入ってくるな!!入ってくるな!!入ってくるな!!入ってくるな!!入ってくるな!!入ってくるな!!入ってくるな!!入ってくるな!!入ってくるな!!入ってくるな!!入ってくるな!!入ってくるな!!入ってくるな!!」
「戦いたくない!!戦いたくない!!戦いたくない!!戦いたくない!!戦いたくない!!戦いたくない!!戦いたくない!!戦いたくない!!戦いたくない!!戦いたくない!!戦いたくない!!戦いたくない!!戦いたくない!!戦いたくない!!戦いたくない!!」
無数の拒絶の声、小さく悲しそうな反戦の声がルナの心を締め付けた。
頭がズキンズキンと締め付けるように痛くなった。
そして、再び甲高い金属音と共に頭に激痛が走った。
それと同時に、無数の戦争の絵が目の前に映った。
だが、それは一瞬で消えた。
「痛っ!!なに、、また。。。」
ルナの回避行動が若干遅れ、イオンビームがオル・アティードの羽根をかすめた。
「宇宙では羽根など飾りよ!」
そう言って、再び回避行動を取り、反撃に転じた。
拒絶の声、反戦の声に耳を貸すまいとするルナ。
だが、進むごとに心を蝕んでいく。
頭に響く痛みもどんどん鋭いものになっていく。
ルナの我慢が限界に達した。
「ぐああぁぁーーー!」
目を瞑ったルナのまぶたの前に再び戦争の映像が映った。
「これって私たちの歴史なんかじゃない?」
ルナの見た光景。20世紀ほどの文明が滅んでいく映像の中に、明らかに今の人類よりも文明の進んだ映像も数多くあった。
ルナはその映像に一瞬意識を奪われた。
次の瞬間、その映像が消え、イオンビームにより、コックピットからの映像が真っ白になってしまった。
画面がリフレッシュされ、母艦の中の映像になった。
ルナの目は赤色から普段の色に戻っていった。だが、涙が止まることはなかった。
「何なの?あれは!?」
次の日の朝、ソルが量産のための部品を受け取りにジャンク屋に来ていた。
ソルのアンドロイドが部品の入った箱をジャンク屋の車に載せていた。
りょーたろが箱を数えながらソルに言った。
「あー、これ全部で、制御チップ2500個、加速ユニット1万個だ。」
運んでいるアンドロイドを見ながらソルがりょーたろに言った。
「ありがと。りょーたろさん。これで1週間、また頑張れるよ。」
「お前に出しても、ほとんどおれに利益ないんだけどな。
まあ、お前との腐れ縁だし、しゃーねーな。」
渋い顔をしながらりょーたろが軽く笑った。
そこにルナからソルに連絡が入った。
ソルがタキオンコミュデバイスを棚の上において通話を取った。
「おー、ルナ。どした?」
ソルがりょーたろに、ルナからというアイコンタクトを送った。
「ソルさん。この前のデバイスなんだけど。」
「あー、あれ!ちょっと待って。
今、りょーたろさんもいるから。見てもらってもいいか?」
「あっ、うん。もちろん。
りょーたろさんにも聞こうと思ったし、ちょうどいいし。」
「おう。ちょっと待って。」
ソルがりょーたろにも画面に入るように手招きした。
「こんにちは、ルナちゃん。」
「りょーたろさん、こんにちは。」
「で?デバイスがどうしたって?」
<次回予告>
ソルとりょーたろに、デバイスを通して見た戦争の記憶について相談するルナ。
涙するルナは何かを見るのか?
そして、その時、ソルに1つの連絡が入る。
それは0時間通信の夜明けか。それとも。。。
次回、第65話 ”なんかはめられてる?おれ?”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




