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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第62話 : 違う方法で世界を。

<前回のあらすじ>

ソルとりょーたろは地球に降り立った。

二人はリチャード・マーセナスの工場を見学した。

スペースシップにイオンクラフト車。広大なラインで徐々に出来上がっていく製品たち。

次々と作られる製品を見て、二人は驚きを隠せなかった。

そして、最後のフロアではすでにタキオンコミュデバイスのためにエリアが確保されていた。

だが、ソルはうまく行きすぎる現状に、僅かながら不安を抱いていたのだった。


 

 リチャード・マーセナスが、希望に満ちた眼差しでソル、りょーたろを見ながら言った。


「このデバイスを目にすれば、利益などというものはそれほど大した問題ではない。」


 ソルもりょーたろもJAM-Unitから脳に送り込まれるリチャード・マーセナスの真相を感じ取った。


(利益などどちらでもよい。その先にあるものを。)


 リチャード・マーセナスがソルに聞いた。


「いかがですか。我々にお任せいただけますでしょうか。」


 ソルは何か拭えぬ一抹の不安がよぎり、回答をひとまず保留とした。


「回答を少し待ってもらえますか。一度考えさせてください。」





 ソルとりょーたろは宿泊するホテルに移動した。


 実体験としてコロニーの風景しか見たことがなかったソル、りょーたろにとって、ホテルから見える芦ノ湖の絶景は感動すら与えるものであった。


 二人が窓際に並んで、外の風景を見ていた。


 山の手前には湖があり、景観の右側には学校っぽい建物が見えていた。


「これが山ってやつなんだな。地球ってスゲーな。あと、あれは海?か?」


「違うよ。湖だよ、湖。ソルは意外とそういうとこ、抜けてるよな。」


「冗談だよ。りょーたろさんを試したの!」


「なんだよ、それ!って、そういやさ、あれって大学じゃねーか?」


 りょーたろが指差した先をソルも見た。


 りょーたろが続けた。


「この辺りの大学って、第2新東京工科大じゃねーかな?一時、世界一になってたよな。

 あの大学、うちのサクラばあちゃんの兄貴が通ってたらしい。」


「えっ?そうなの?おれのじいちゃんもその大学だったはずだけど。」


「そっか!じゃあ、もしかしたら大学とかですれ違ってたのかもな。」


「そうかもだね。それだとしたら俺たちが出会ったのも単なる偶然じゃないのかもね。」


「なんかお前とはそんな気がするわ。」


 麓に見える大学の先、二子山全体を覆い尽くす巨大な白い建物、地球の地の利を活かした超巨大データセンターが煌めいていた。


「っていうか、あれ、山全体が建物かよ。地球、スゲーな。」





 二人がコロニー3のスペースポートから楽しそうに話ながら出てきた。


 その先にはサングラスをかけ、帽子を被り、腕を組んで仁王立ちしている一人の女子の姿があった。


 その横では、座って自分の手を嘗めている猫もいた。


 その姿を二人が発見した。


「あっ、ルナ。。。シュレディンガーも。」


「ルナ、、ちゃん?」


 仁王立ちの女子がグイッとサングラスを取った。


 女子は身体を斜めにして二人を睨みながら言った。


「私だけ置いてけぼりにしたくせに、ずいぶん楽しかったみたいで何よりですね。」


 厄介なものを見たような顔でソルが返す。


「いや、前も言ったろ?お前も一緒に行くとだな。。。」


 三人が話しているところに黒いスーツを着た、ほぼ人に見えるアンドロイド数体に囲まれて、赤いスーツを纏った一人の女性が歩いてきた。


 ルナがその女性を見つけて、声をかけた。


「あっ、レミおばさん!」


 青色のスーツに身を纏ったレミ柊が三人を見て、アンドロイドに何かを話したかと思うと、三人の方に近づいてきた。


「こんにちは!ルナちゃん。」


「おばさん、お久しぶりです。」


「久しぶりね。元気にしてる?っていうか、お母様からいろいろ聞いてるわよ。

 あんまり心配かけないようにね。」


 レミ柊が少し意地悪そうにルナに言った。


 ルナは口を尖らせながら返事をした。


「ママはレミおばさんにまでいろんな話をしてるのね。」


 そして、ルナがすかさず話を切り替えた。


「ところで、おばさんはどこに?」


 レミ柊がチラッとソルの方を見た後、すぐにルナの方に向いて言った。


「地球での通商交渉会議に参加してたのよ。

 地球中心の経済圏が今やコロニー中心になりつつある。

 それを受け入れられない地球の堅物たちと交渉してるところなの。

 知ってる?リチャード・マーセナス最高議長。」


「あー、うん。知ってるよ。」


 地球でのことを話しそうなルナをソルは制止した。


「っていうか、行かなくていいのかよ。どうせまたすぐ会議でもあんだろ?」


 その言葉にレミ柊はソルをじっと見つめた。


 一気に場が凍りついた。


「ところで、あなたはこんなところで何をしてるの?」


 ソルは思った。


(今、知られたら絶対止められる。

 地球とかコロニーとか関係ない。

 おれは人の役に立つ技術を作るんだ。

 母さんとは違う方法で世界を。)


「いや、別に。」


 ソルの様子をしばらく見た後、レミ柊は踵を返した。


「まあ、いいわ。こんなところで油を売ってないで、早く家に戻ってきなさい。

 分かったわね?」


 ソルは返事をしなかった。


「じゃあ、ルナちゃん。ごめんけど、またね。」


 レミ柊がその場を去った後、りょーたろが止めてた息を吐き出した。


「はぁーーー! すげーオーラだな。やっぱり。」


「そーか?」


「お前は慣れてるから分かんないだけだよ。」


 そんな話をしていると、りょーたろの自動車が自動運転で乗り場に到着した。


「あっ、車、到着したみたいだ。行こう。」


「おっ、りょーたろさん、気が利くー!」





 りょーたろ、ソル、ルナ、そしてシュレディンガーが自動車乗り場に移行した。


 そして、すぐにソルが自動車に乗り込んだ。


「なんでお前がおれより先に乗るんだよ。」


 そう言いながら、りょーたろが乗り込んだ時、ルナも自動車に乗り込もうとした。


「え?お前も乗るの?」


 そう言ったソルの膝の上にシュレディンガーが座った。


「いいじゃない!ソルさんのケチ。」


 りょーたろが運転席に座って笑いながら言った。


「まあ、いいじゃん。地球でのことも伝えないとだろ?」


「さっすが!りょーたろさん。誰かとは違うよね。」


 ソルはシュレディンガーの頭を撫でながら言った。


「うるせーよ。」


 そんな話をしながら、りょーたろが(思考で)ジャンク屋に行き先を設定し、自動車が自動運転を開始した。





 りょーたろの自動車がジャンク屋に到着した。


 ルナが降りながら話をした。


「そんなに整えてくれてるなんて、もうすごいやる気なんだね。マーセナスさん。」


「ああ、騙そうとか、そういう意図も全然感じなかったしな。」


「ただ。。。」


 ソルが言葉を詰まらせた。


「ただ?なんだよ?」


「いや。なんか上手く行き過ぎっていうか。なんだろ?良く分かんないけど。」


「まあ、この前は死にかけたしな。たまに上手く行くと不安になるんだろうよ。」


「うん。まあそうかもね。」


 ルナが心配そうな顔になった。


「二人ともあんまり無理しないでよー。」


「あー、はいはい。分かってるよ。」


 二人が苦笑いしている時、リタお婆ちゃんからソルに連絡が入った。


「ソル!大変じゃよ!!」


 ソルはその声に驚いた。


「えっ?なに!?もしかしてまた?」


「すっごいのが入ってきたんじゃよ!!」


 リタお婆ちゃんの震える声に反応して、ソルが腰のスイッチを入れながら話した。


「またRoswellのアンドロイド?」


「えっ?Roswellかい?いやいや、そうじゃなくて注文じゃよ!!」


「は?チュウモン?」


 ソルはまだ思考が切り替えられてなかった。


 そこにリタお婆ちゃんが嬉しい知らせを伝えた。


「そう!注文じゃよ。これ、5万個欲しいって。」


 リタお婆ちゃんはどうやらタキオンコミュデバイスを指差しているようだった。


「火星の第2都市ネオ・キョートーに住む開拓移民たちから大量に受注が来たんじゃよ。その注文の対でこっち側はコロニー4、5、6、7にそれぞれ1万3000個ずつくらいだね。」


「え?5万個!!本当に!?」


 ソルの目が点になった。


「っていうか、5万個って相当時間がかかりそうなんだけど。」


 ソルが嬉しそうな笑みを浮かべてリタお婆ちゃんに返事した。


「うん。待ってくれるって言ってたんだけどもね。

 どのくらいかかるのかはアタシには分からないから、すまないんだけど、ソルからまた連絡してくれるかい?

 連絡先は送るからね。」


「あっ、うん。分かったよ。必ず連絡する。」


 ソルの返事を聞いて、リタお婆ちゃんは映像通話を切った。


 切った瞬間、再び連絡が入った。


 連絡はエンケラドスの開拓移民、ブライト・ハサウェイであった。


 ソルがすぐに通話に入った。


「はい。ソルです。」


「あー、ソルさん?私、ブライトです。覚えていらっしゃいますか?」


「もちろんですよ。あの時はお世話になりました。」


「いえ、何をおっしゃいますか。お世話になったのは私の方ですよ。はははは。」


 ブライトが少しの間、笑った後、話を切り出した。


「あっ、それでですね。エンケラドスの噂が他の惑星や衛星にも行きまして、火星から5万個とタイタンの移民たちからもデバイスを売ってくれと言われまして、さらに追加で3万個ほど注文がありそうなんです。

 ソルさん、作れそうですか?」


「5万に追加で、さっ、3万ですか?」


「まあ、さすがに8万個は難しいですよね?ちょっと断りの連絡を、、、」


「ちょっと待ってください!!

 分かりました。少し検討させてください。

 また追って連絡を差し上げます。

 それまでお待ちいただけますでしょうか。」


「もちろんですよ。分かりました。

 あいつらには検討中と伝えておきます。

 ソルさん、無理を言ってすみませんが、あいつら、おれたちのを見て、もう飛んで喜んでたんで、できるだけ、前向きに何卒よろしくお願いします。」


「はい。前向きに!」


 そうして、エンケラドスからの連絡が切れた。


 りょーたろが小躍りしながらソルに飛びついた。


「やったじゃん!ソル!!すげーよ、本当に。」


 ルナもソルに飛びついた。


「ソルさん、おめでと!!やっぱり、これ、絶対イケるよ!!」


 ソルが嬉しさ7割、困惑3割な顔をして言った。


「5万個に3万個、それに前に3千個もあったな。こりゃ、相当頑張らないと時間がかかりすぎるな。」


 その時、ソルのBCDに着信が入った。


 その着信の発信者を見て、ソルがなにかを思い付いたようだった。


 ソルがその着信を取った。


「はい。ソルです。」


<次回予告>

今まで以上に多くのタキオンコミュデバイス受注を受けて焦るソル。

そこに一本の連絡が。

その相手は誰なのか?

ソルは何を思うのか?

そして、ルナが聞くAIの声は本物なのか?

世界はゆっくりだが、確実に動きだしていく。

次回、第63話 ”最速、最善を尽くします。”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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