第49話 : これが恐怖というやつなのか。。。
<前回のあらすじ>
ルナは”OneYearWar”世界大会決勝の舞台に立った。
戦闘開始と同時にルナは敵陣に向け最大加速で近づいていく。
ルナの愛機、”オル・アティード”(ヘブライ語で”光の未来”)は戦闘宙域に虹の軌跡を描きながら敵機を撃破していった。
時を同じくして、ソル、りょーたろがRoswell邸の前に立っていた。
自分の周囲の人たちを傷つけたマフィア”Union-Roswell”に殴り込みをかけていた。
次々と護衛用アンドロイドをなぎ倒す二人。
ルナ、そしてソル、りょーたろの戦いは始まったばかりだった。
敵戦艦の主砲ビームをことごとく避けながら、オル・アティードはフルパワーで加速していた。
ルナはわざと敵に注目させるために、戦艦の上部側に移動していた。
敵戦艦のAIが各機に連絡する。
「RedDevilは02、02(まるふた、まるふた)に高速移動中。
速度約40km/sec。
まもなく最前線機体と会頭。」
オル・アティードはついに直線的な動きから稲妻のような動きに変化した。
その機体からは虹色の光が溢れ出ていた。
ルナの目がわずかに赤く染まりはじめた。
それと同時に、オル・アティードのアサルトユニット4本それぞれに付いているビット2機が本体から離れ、近くを飛び始めた。
オル・アティードの進行方向正面から戦闘機12機、そしてメタリックステラ24体が接近してきていた。
さらに進行方向斜め45度からも戦闘機が12機接近してきていた。
「敵の攻撃を”RedDevil”にだけ集中させるな!!我々にも注意を引かせるのだ!!」
敵艦隊の真正面から進行中の戦闘機が、敵戦艦に向けてイオンビームやミサイルを撃ち込んだ。
艦隊の前方にいるメタリックステラ部隊の一部が撃ち込まれたイオンビームによって爆発した。
前線メタリックステラが前方に向けて反撃のイオンビームを撃ち込んだ。
戦艦のAI船員が言った。
「00、00(まるまる、まるまる)前線、イオンビームにて戦闘開始!!」
わずかに遅れてAI船員が続けた。
「02、02(まるふた、まるふた)RedDevilと3個小隊会頭!!」
AI船員の声がする中、虹色に光る稲妻の軌跡とその軌跡上での爆発が連続して発生した。
ルナは敵AIの思考を読み取り、敵機から放たれるイオンビームを超反応で回避した。
ルナはオル・アティード本体、そしてビットを同時に操っていた。それはまるで各々が別々のパイロットにコントロールされているかのような動きであった。
回避動作を取りつつ、反撃のイオンビーム、ガトリングレールガン、ミサイルを敵機に射出する。
ルナの機体から放たれる虹色の信号が、AIにノイズを与え、AIの決定にわずかゼロコンマ数秒の遅延をもたらしていた。
ルナはその遅延の間に機体を動かし、襲いかかってくる攻撃全てを避けていた。
逆に、ルナがAIの機体にもたらす遅延は、ルナからの攻撃に対するAIの回避を許さないものにしていた。
光速70%の速度を誇るイオンビームや40km/secを超える機体速度から放たれるレールガン、ミサイルは、遅延を与えられたAIの回避前、もしくは開始とほぼ同時に機体に到達していた。
オル・アティードの通過後、AIの操作する戦闘機、メタリックステラが次々と爆発していった。
周囲のメタリックステラに混ざって1機のメタリックステラが虹色に光った機体を照準に捉えていた。
「外すものかよ!!」
そう言いながらイオンビームを射出しようとした。
その時、AIパイロットのイオンビーム射出決定処理に大量のノイズが入り混んだ。
射出位置の判断にわずかな遅延が発生する。
さらに、メタリックステラのイオンビームライフルを支える手のモータ制御にもノイズが入る。
本来モータに伝達すべき指示パルス数(モータをどのくらい動かすかを制御器アンプからモータに伝える信号)よりも多くのパルスがモータに伝わる。
AIにはそれがノイズ信号であるかどうか認識できない。
それにより、動かすべき位置よりも大きくモータが動く。
AIは行きすぎたモータ動作を元の照準位置に戻すように、再び指示パルスを吐す。
こういった処理が繰り返されていた。
結果として、まるでメタリックステラの手や身体が震えているように見えた。
メタリックステラからイオンビームが発射される頃には、深紅の機体は虹色の軌跡を残して、目の前から姿を消していた。
かと思うと、突然目の前にビットが現れ、レールガン砲が飛んできていた。
その瞬間、AIが思わず言葉を漏らした。
「これがRed、Devilなのか。。。ぐわぁーーー!!」
次の瞬間、虹色の軌跡にそって、周囲の戦闘機5体、メタリックステラ6体が爆発した。
ルナの目がますます赤く染まってきた。
オル・アティードの周囲を飛ぶビットが戦闘機やメタリックステラにレールガンを浴びせた。
オル・アティードが放つ稲妻のような虹色の軌跡とそこに生まれる爆発が戦場を美しく飾った。
オル・アティードの正面方向から会頭した戦闘機12機、メタリックステラ24機は、ものの30秒とかからず、全機が爆発した。
斜め45度から接近していた戦闘機12機も加勢しようと少し離れた位置からイオンビームを撃ち込んでいた。
だが、もちろんそれを当たり前のようにルナは避けていた。
「なぜ!?なぜ避けれるのだ!!?」
オル・アティードが正面からの36機を撃墜した後、アサルトユニット、ブースターユニットが側面に付いている小型ブースターを使い、8本全てが斜め45度に近い角度に回転した。
そして、同時にボール型のコックピットの内部ではコックピット座席も回転していた。
ルナの機体は通常の機体ではあり得ないような角度変化を行いながら、斜め45度から攻め込んで来る戦闘機部隊12機に正対する形となった。
その角度変更を行う時ですらルナは機体に撃ち込んでくるイオンビーム、レールガンを避けていた。
深紅の機体を正面に見据えたAIパイロット。
次の瞬間、AIはなぜか自分に向けてレールガンが飛んでくることが認識できた。
まだレールガンは撃たれていなかったにも関わらず、回路にルナの取る選択が情報として流入してきていた。
だが、それと同時に、イオンビームが斜めから飛んでくる情報、ミサイルが側面から飛んでくる情報など、別の様々な情報が一気に入り込んできていた。
その情報全てに対応しようとAIが緻密に計算を開始する。
開始直後、それを全て避ける選択肢を導き出せないことを悟る。
さらにはAIは、取得したメインカメラからの画像結果と飛び込んで来た情報の食い違いを発見。
それをもとに再度回避処理を行う。
その時、さらに新しい情報が飛び込んでくる。
何度も繰り返す処理エラー。
そうしてAIが混乱に陥っている時、AI内の対人間感情解析プログラムが、自身の信号の働きにある状態を見いだした。
「これが恐怖というやつなのか。。。」
言葉が先か、すでにレールガン砲弾の切っ先がAIの操る機体にめり込んでいた。
同様にして、残りの戦闘機12機も稲妻の軌跡の犠牲になっていった。
りょーたろがアームで掴んだアンドロイドを盾にレーザーを防御していた。
そして、レーザーを撃ち込むアンドロイドに向かって突進した。
レーザーを撃ち込んでいたアンドロイドが、りょーたろのアームに掴まれたアンドロイドと壁でサンドイッチされ、頭が潰されてしまった。
だが、それでも挟まれたアンドロイドは動こうとしていた。
りょーたろは両手のアームで2体を上下で鷲掴みにした。
りょーたろは2体を掴んだまま、右手アームを右に、左手アームを左に力強く動かした。
2体のアンドロイドが腰から上が左に、腰から下が右に引き離された。
配線や循環配管が次々と引き裂かれていった。
20体以上いたアンドロイドが残り2体となっていた。
2体ともソルの胴体を狙い、レーザーガンを構えていた。
ソルが直線的に移動をし始めた時、アンドロイドの構えた照射口がソルに照準を合わせていた。
アンドロイドが引き金にかけた指を動かそうとした時、ソルの座標に誤差が生じた。
その結果に基づき、再計算をし始めた。
だが、また誤差が生じる。
何度も繰り返されるエラー。
アンドロイドの対人間感情分析プログラムが自身の信号にある状態を算出した。
「これが恐怖というやつなのか。。。」
ようやくアンドロイドの計算結果が出力された。
だが、次の瞬間、胸の奥に格納されていた演算回路がソルのプラズマ刀によって焼き切られた。
ソルは2体のアンドロイドの間をすり抜けるように移動しつつ、プラズマ刀を燕返しのように右から左に、左から右に振り抜いた。
アンドロイドが2体ともキレイに横切りされ、ソルが過ぎ去った後、同時に崩れ落ちた。
その様子を見て、りょーたろが大きく息をついた。
ソルの手にあるプラズマ刀の放射が弱まり、遂にはプラズマを放射しなくなった。
りょーたろが肩で息をしながら言った。
「もう少しエネルギー容量大きいやつにしとけば良かったのに!」
その意見にソルが反対した。
「いいの!このサイズ感がタマらないんだよ!!ほら!あれに似てるだろ?」
りょーたろが含み笑いをしながら答えた。
「まあな。なんか分かるわ。」
だが、その時、レーザーガンを持つ上半身だけのアンドロイド1体が、ソルに照射口を向けていた。
りょーたろがそれに気づいた。
「あぶない!!」
ソルにはりょーたろの認識が伝わっていた。
りょーたろの声が先か、ソルの移動が先かほどのタイミングで、ソルが高速移動を開始していた。
ソルがアンドロイドの前に移動を完了させ、手に持っている銀色の筒をそのままレーザーガンを構えるアンドロイドの頭に突き刺した。
そして、潰れかけた銀色の筒を引き抜き、アンドロイドの胸にも突き刺した。
アンドロイドは主演算回路と補助演算回路を潰され、レーザーガンを構えていた腕が脱力した。
ルナが接近してきていた戦闘機を稲妻の軌跡で潰していった。
そして、ルナが最後の戦闘機をイオンビームで撃ち抜いた時、ルナの機体から約50kmの距離を保ってメタリックステラが取り囲んでいた。
ルナは戦闘機を犠牲に使われ、うまく誘導されていたのだった。
「全員、一斉射撃せよ!!」
深紅の機体を囲んだメタリックステラ全機が、オル・アティードに向けて、イオンビームライフルを構えた。
ソルは最後にアンドロイドに突き刺したプラズマ刀から手を離した。
りょーたろの腕に取り付けられているパワーアームのコンソールパネルには赤いランプが点滅していた。
りょーたろがコンソールのボタンを押すとパワーアームがりょーたろの腕から外れ、大きな音を立て、地面に落ちた。
ソルとりょーたろが庭にバラバラになって転がるアンドロイドを飛び越えて、豪邸の大きな扉に向かって歩きだした。
ソルが扉のノブに手をかけて、りょーたろにアイコンタクトを送った。
りょーたろもソルの目を見て、頷いた。
次の瞬間、ソルは目一杯の力で扉のノブを掴み、扉を開き、さらに外側に扉を引っ張った。
あまりの力に扉のヒンジが外れ、扉が取れる。
ソルとりょーたろはヒンジから外れた扉を庭の方に放り投げた。
りょーたろが高速移動で中に入った。続いてソルも中に高速移動した。
中は大きなホールだった。
ホールの左右に二階に続く階段があった。
その階段やホール正面、2階の通路にアンドロイドが並んでいた。
そして、それらのアンドロイドはソルとりょーたろが入ってくるのを予期して、レーザーガンをすでに構えていた。
外で戦っていたアンドロイドからの情報が共有されていたのだ。
アンドロイドたちは一斉にレーザーガンをソルとりょーたろに向け、照準を合わせた。
オル・アティードを中心とした球状に配置されたメタリックステラは裕に50体を超えていた。
後方の戦艦を指揮する艦長AIが言い放った。
「RedDevilよ、チェックメイトだ!!」
ルナはビットをアサルトユニット、ブースターユニットに1つずつ付けた。
そして、静かに目を瞑り、再び大きく見開いた。
その瞳はそれまで以上に赤く染まっていた。
ルナは目を見開いた瞬間、オル・アティードから虹色の波紋が一際強く全方位に向けて放たれた。
ほぼ同時に艦長AIからメタリックステラに指示が下された。
「撃てー!」
<次回予告>
おびただしい数のアンドロイドがソル、りょーたろを待ち構えている。
おびただしい数のメタリックステラがルナの操るオル・アティードを取り囲む。
レーザーがソル、りょーたろに襲いかかる。
イオンビームが深紅の機体に襲いかかる。
彼らはそこを切り抜けられるのか?
次回、第50話 ”Go to the next stage!”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




