第47話 : 火蓋が切って落とされます!
<前回のあらすじ>
”OneYearWar”の決勝に向けてルナをコロニー3スペースポートから送り出したソルとりょーたろ。
その二人がジャンク屋に帰ってきて見たもの。それは破壊されたジャンク屋だった。
そして、貧困層のお婆ちゃんからも連絡が入る。
お婆ちゃんは瀕死の重症を負わされていた。
怒りの頂点に達したソル。
お婆ちゃんを祖父の柊レイに預け、何とか一命を取りとめた。
ジャンク屋に戻ったソルはりょーたろと何かを作り始めたのだった。
ルナは軌道エレベーターに乗った。
エレベーターが降りていく間、地平線に広がる絶景を楽しんだ。
そして、ルナは感じた。
徐々に身体がエレベータの床に吸い付く感覚。
美しい景観に感動しつつも、構造物が回転もせずに、身体が床に押し付けられる感覚を初めて体験した。
コロニーのそれとは明らかに違う、その奇妙な感覚に思わず声を上げた。
「これが、、重力。。。不思議な感じ。。」
ルナは思わず笑みを浮かべていた。
『富士宮メガフロート国際スペースポート 到着口』
そう書かれたスペースポートのVIP出口からルナが降りてきた。
少し遠くで”RedDevil”の出待ちをしている人々、100人ほどが歓声を上げた。
ルナはふとその人たちを見て驚いたが、すぐに笑顔になって手を振って応えた。
すると歓声がさらに大きくなった。
そこに、待機していたB-DAI-N.Coのスタッフがルナに近づき、言葉をかけた。
「ルナ小林様、地球へようこそ。お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」
ルナは屈託のない笑みを浮かべて、言葉を返した。
「はい。ありがとうございます。」
着陸の滑走路横にイオンクラフト車が停まっており、スタッフがルナをその車に誘導した。
イオンクラフト車まで移動中、護衛用のアンドロイドが10体ほどルナとスタッフを取り囲んでいた。
歩きながらスタッフがルナに話しかけた。
「長旅、お疲れのことと思います。
第2新東京グランデホテルのスイートルームを用意しております。
最新型の回復ポッドもお部屋にございますので、明日の試合までの間、十分にお身体をお休ませください。」
「何から何まで本当にありがとうございます。」
ルナはスタッフの目を見た。
スタッフがルナと目を合わせた時、なぜかルナの感謝の言葉がすっと心に入ってくるのを感じた。
それがスタッフには心地よく感じた。自然とスタッフも笑みを浮かべていた。
ルナはイオンクラフト車に乗る前に再び出待ちをしていた人たちに手を振って車に乗り込んだ。
ルナが宿泊するホテルの部屋に着いた。
部屋の奥に行くとそこは全面ガラス窓になっていて、景色を一望することができた。
地上150階。
窓から見える夕日に照らされた景色はコロニーでは味わうことのできない絶景だった。
目の前には富士山が見えていた。
噴火により、歴史の教科書で見た綺麗な台形ではなく、一部が削られていたが、その神々しさは変わっていなかった。
「すっごーーい!これが富士山!!」
外を見ながらルナはBCDを通してソルに連絡した。
しばらくするとソルが通話に出た。
「あっ、ソルさん?今、やっとホテルに着いたんだ。
このホテル、すごい豪華だよ。っていうか、地球ってすごくきれいなんだね。
大気汚染が酷いって聞いてたから汚れてんのかなって思ってたけど、全然空気はきれいだし、太陽の光がホントにきれい。
それと重力。もう不思議な感覚だよ。これが地球なんだね。」
ルナが話し終わった後、五秒ほど静寂が流れた。ルナは堪らず、再度声を掛けた。
「ねえ?ソルさん、聞いてる?」
そのルナの声とほぼ同時にソルの声が返ってきた。
「そっか、良かったな。地球か。おれも一度行ってみたいな。
そうだ。そのホテルって練習とかできるのか?」
ソルが作業の手を止めた。
「・・・それと重力。もう不思議な感覚だよ。これが地球なんだね。」
ソルがルナの言葉に返事をした。
「そっか、良かったな。地球か。おれも一度行ってみたいな。
そうだ。そのホテルって練習とかできるのか?」
だが、五秒ほど何も返事がなかった。
「おい?聞いているか?」
そう言ったと同時にルナの声がした。
「ねえ?ソルさん、聞いてる?」
ソルがピンと来て、ルナにいった。
「あー、タキオンコミュ使ってくれ!」
そう言って、ソルも少しぐらつく机の上にタキオンコミュデバイスを置いて、自分のBCDと連結した。
ルナがやっと届いたソルの声に答えを返した。
「うん。部屋にコックピットブースがあるから練習できるみたい。」
そこからまた静寂が流れた。
ルナが少し不思議そうな顔をしていたが、しばらくするとソルの声が聞こえた。
「おい?聞いているか?」
そして、その後すぐに再びソルの声がした。
「あー、タキオンコミュ使ってくれ!」
ルナはその言葉でその現象を理解した。
すぐに立派な机の上にソルから渡されたタキオンコミュデバイスを置いて、起動させた。
すでにルナのBCDとの連結設定がされており、すぐさまBCDを通して、デバイス検出の表示が目の前に現れた。
ルナはその連結許可に対してYesの思考判断をした。
すると、目の前にソルの姿が映し出された。
ソルの目の前にルナが映し出された。
堅かったソルの表情が若干和らいだ。
「無事着いたんだな。良かった。」
ルナもソルの顔を見て、笑顔になった。
「ソルさん!聞こえる?」
その声に対して、すぐにソルが返してきた。
「ああ。もちろん聞こえるぜ。すぐそこにいるみたいにな。」
少し間を空けて、ルナが声を出した。
「ソルさん、これ!すごい!!すごいよ!!」
ルナは安堵を感じた。
ゼロ時間通信の持つ力、素晴らしさを改めて感じていた。
ルナが感動の言葉を発するやいなや、ソルの声がすぐさま返ってきた。
「前、言ったじゃん。これ、めちゃくちゃ便利なデバイスだって。」
ルナの歓喜の声を聞いたりょーたろがソルのところに来た。
「なんだ?ルナちゃんじゃん!」
画面を常に共有にしているりょーたろにはソルのBCDで映し出された映像が見えていた。
ソルが振り返り、りょーたろに話した。
「うん。ルナ、地球に着いたみたい。」
ルナの目の前にりょーたろが映った。
ルナはりょーたろの顔が汚れているのに気がついた。着ているツナギもどこか汚れている。
良く見るとソルの顔もツナギも汚れていた。
そして、ルナは後ろの様子にも異変を感じた。
部品がところ狭しと並んでいたジャンク屋の棚には部品が一つもなく、ところどころ壊れていた。
「あれ?なんか二人とも顔とか服とか汚れてるんだけど。。」
「あー、これ。お前は心配すんな。」
「でも、後ろの棚も。。。なんかあったの?」
りょーたろがソルの顔を見て、ルナに答えた。
「ああ、これね。今、うち、ちょっと棚卸し中なんだわ。ソルに手伝ってもらってるんだ。
そんなことより、ルナちゃん、明日の本戦、頑張んなよ!!」
ルナにはりょーたろが心配させまいと嘘をついていることが分かった。
ソルの表情からもそれは読み取れる。だが、ルナは笑顔で返した。
「うん。。。分かった。二人とも棚卸し頑張ってね。私も頑張るから!!」
ルナは二人の言葉を聞いた後、通話を切った。
ルナは目を瞑り、大きく息を吐いた。
その直後、パッと目を開き、両手を上に挙げながら部屋に備え付けられているコックピットブースに歩いていった。
「よーし!やるぞ!!」
一晩が過ぎ、大会当日。芦ノ湖メガフロート。
『OneYearWar』世界大会本戦が行われる会場は大歓声に包まれていた。
大人の背丈ほどの高さの中央ステージを取り囲むように観客がひしめき合っていた。
中央ステージでは男女二人組の司会者が大会を進行していた。
「さて、ついに今日、『OneYearWar』世界大会決勝の火蓋が切って落とされます!」
「そうですね。とうとう、今年の『OneYearWar』世界一が決定するわけですね!!」
「はい。しかも、今年はついにあの有名プレイヤーが参加ということで、昨年以上に盛り上りを見せています。」
「いやー、本当に胸が高鳴りますね。ここの観戦用プラチナチケット、とんでもない倍率だったようですね。
それを獲得して、ここに来ている人はそれだけで幸運の持ち主ということですね!」
「我々もあやかりたいものです。」
「はい。我々の下らない話はこれくらいにして、それでは早速プレイヤーの紹介を行いたいと思います!」
「一人目はー!!」
ソルとりょーたろがE地区のRoswell邸の前に立っていた。
Roswell邸の前には体躯の良いアンドロイドが20体以上立っており、ソルとりょーたろが少し離れたところからそのアンドロイドに向かって、声をかけた。
「おれはソル柊だ。おれがお婆ちゃんの保証人になった件、おれの借金の件で、お前たちの主人と少し話し合いたい。主人を出してくれないか?」
「5人目は、コロニー7からの出場!!
RedDevilとの対戦が望まれているキャスバル・ノンレム〜!!
白いメタリックステラ『モノセロス』(古代ギリシア語 ”一角獣”)に乗り、AIの操作するビット、本人が操作するメタリックステラで勝ち上がってきた新進気鋭のプレイヤーです。」
サングラスに金髪、細身の身体。すでに女性ファンを獲得しており、声援に黄色い声が鳴り響いていた。
門のところに”ブラック・ロズウェル”が3Dホログラムで映し出されていた。
「これは、これは、ようこそ!
先日はご不在でしたので、今日もそちらにお邪魔しようと思ってたんですが。」
ソルは怒りを抑え、できるだけ淡々と話した。
「金の話の前にちょっと聞かせてくれ。なんでおれに関係のない人まで巻き込んだんだ?」
それを聞いて、ブラック・ロズウェルが笑い出した。
「あ?誰かいたのか?そりゃ運が悪いヤツがいたもんだ。ハッハッハッ。」
ソルが笑っているブラック・ロズウェルを見て、怒りに震えた。ソルの服に描かれている黒い帯が赤く発光してきた。
「お前だけは絶対に許さない!!」
笑っていたブラック・ロズウェルの顔が引きつった。
「あー!?それはこっちの台詞なんだよ!!」
ブラック・ロズウェルがカメラに向かって歩み寄りながら続けた。
「この前の”OneYearWar”の大会、RedDevilだ。覚えているだろ?」
「そして、10人目はとうとう世界大会初参戦。LittleForest!
いやっ、皆さんはこちらの名前の方がよくご存じですね。
またの名をRedDevil~~!!」
会場が大歓声で沸き上がった。
ルナが壇上で観客に向けて精一杯手を振っていた。
「あの時、RedDevilはブチ負けるはずだったんだ。
あのガキが勝って、おれの顧客が大金を受け取るはずだったんだ。
それをお前は!!
お前はな、おれにとんだ恥をかかせた。
顧客からさんざん文句を言われ、一部の顧客はおれから離れていっちまいやがった。
おれの面目が丸潰れだ。」
りょーたろが眉をひそめた。
「それって単に賭博じゃ。」
ブラック・ロズウェルがりょーたろの方に向いて言った。
「あー!賭博のどこが悪いんだよ。あんな大イベントだ。あたりめーだろがよ。おめー、バカか!?」
そして、ブラック・ロズウェルが再びソルの方を見た。
「だからよ。お前はもう金なんぞじゃ足りねー。
お前が出せるものはただ一つ。
それはな、お前の命だよ。
ただじゃ殺さねー。
いたぶっていたぶって、もういっそ死んだ方が楽なのにってくらい、イタめつけてやるっっ!!
覚悟すんだなぁ!!」
ブラック・ロズウェルが引きつった顔で言い放った。
「もうすぐセッティング時間が終了します。」
「さて、開戦宙域は、もっともオーソドックスな宇宙大海原。
障害物もない。重力影響もほぼ皆無。
あるのはプレイヤーの腕のみとなります。」
各プレイヤーが機体をカタパルトに配置していた。
開戦のカウントダウンが始まる。
「開戦10秒前、8、7、6、5、、、」
ルナもすでにスタイバイ済みでコックピットに座り、コックピットの両サイドにある操縦桿を握りしめていた。
キャスバルも白いメタリックステラをカタパルトにセットして、一度サングラスを取り、青い瞳を光らせ、もう一度サングラスを着けた。
ブラック・ロズウェルが思考でアンドロイドに指示を送っていた。
(10秒後に一斉射撃しろ!ただし、殺すなよ。動けなくするだけだ。)
門から何体もアンドロイドが出てきた。
そのアンドロイドたちの中でカウントダウンが進んでいた。
(8、7、6、5、、、)
「4、3、2、1、Mark!」
カタパルトから各機が射出された。
ルナのオル・アティードも緑のランプを勢い良く通過し、宇宙空間に投げ出された。
哨戒機が射出されるや、早速、遠距離型重力子レーダーに敵機の反応が映った。
「やばいぞ!5000km圏内だ。」
「イオン中和フィールド展開、急げ!!」
勢い良くイオン中和フィールド用のミサイルが前方に打ち出された。
ルナも咄嗟にJAM-UnitをONにした。
すると機体本体やアサルトユニットに付いているビットの発光部が虹色に発色しはじめた。
深紅の機体の機体表面から虹色の波動出力され、全方位に伝わっていった。
Roswell邸の前で、ソル、りょーたろの前に立つアンドロイド内でカウントダウンが行われていた。
(4、3、2、1、、、)
次の瞬間、アンドロイドが大腿部からレーザーガンを取り出した。
その直前、ソル、りょーたろは思考で強化超筋繊維ウエアの制御レベルを変更した。
(Gear03)
二人のシャツとレギンスに描かれた黒い帯が赤色になり、すぐに虹色に発光しはじめた。
<次回予告>
宇宙空間に飛び出したRedDevil。
そこはすでに遠距離重力子レーダーの範囲内。
一気に戦闘状態に突入する。
Roswell邸前ではアンドロイド達がソル、りょーたろに攻撃を始める。
ソル、りょーたろが反撃を開始する。
これはルナの、そしてソル、りょーたろの全面戦争の開始だった。
次回、第48話 ”SF映画じゃ・・・”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




