第44話 : 一つずつ少しずつ
<前話のあらすじ>
とうとう”OneYearWar”のコロニー3予選決勝が終結した。
RedDevilことルナの完全勝利であった。
他の対戦者から祝福を受けるルナ。
対称的に、その結果を受け、怒りに震える者がいた。
この”OneYearWar”予選を賭けの対象にしていたUnion-Roswellの長であった。
ソルに対してのロズウェルの怒りは頂点に達していた。
ルナがバロック様式の扉から家の中に入ってきた。
アンドロイドがルナを待ち構えていた。
「おかえりなさいませ。お嬢様。」
「ただいま!」
玄関から入り、広間のところでルナの父親、レイモンド小林と母親、美月小林が難しい顔で話をしていた。
ルナが二人を見て、二人に声をかけた。
「ただいま。パパ、ママ。」
父親はじっとルナを見て、母親は少し顔を背けてルナの言葉に返事をした。
「おかえり。ルナ。」
「おかえりなさい。ルナちゃん。」
ルナが二人のところに歩いていった。
「パパ、ママ。話があるの。真面目な話。二人に聞いてほしいの。」
母親がゆっくりルナの方に向いた。
それを父親が見て、その後ルナを見て、言った。
「分かった。奥の部屋で話そう。」
父親が母親の方を見て言った。
「いいね?」
母親が父親を見て、うなずいた。
「はい。」
三人だけが奥の部屋に入っていった。
部屋の壁が全て本棚になっている古めかしい部屋だった。
本棚の前にある丸いテーブルの周囲に三つの椅子が置かれていた。
父親が椅子を引いて、母親を座らせた。
父親がその横の椅子に座り、ルナに向かって言った。
「さあ、座りなさい。」
「はい。」
ルナは言葉通り椅子に座った。
ルナは椅子に座るなり、話し始めた。
「あの、二人に見てほしいものがあるの。」
そういうと、一つの記事をBCDから取り出して、二人に見えるように設定した。
ルナの大会での活躍を30秒ほどにまとめた動画だった。
それを見て、母親が涙を流していた。
父親はじっとその動画を見ていた。
動画が終わり、再びルナが話し始めた。
「これは今回私が出場したゲームの大会のものなの。
私、この大会の予選で優勝したの。
で、決勝は地球で開催される。
パパやママには伝わらないかもしれないけど、やっぱり私はこのゲームで人との繋がりをすごく感じる。
今日もそうだった。
それは会社のパーティーとかでは感じられないくらいお互いを深く知り、お互いの心をなにか繋ぎとめる、そんな感覚。
きっとこれはなにか大事なことなんだって感じるの。
。。。
このゲームをやってること、隠しててごめんなさい。
私、パパやママが期待してるような子になろうって思って、これをやってるの、言い出せなかった。
ガッカリさせたくなかった。
でも、やっぱり私はこれが好きなの。
私はパパやママが思ってるような子じゃない。
だけど、だけど、これだけは続けさせてほしい。
お願いします。
勉強も今より頑張るし、もうちょっとちゃんと大人の人とも話をするようにするし、だから、だから。。。」
ルナはそう言いながら泣き出していた。
学校に呼び出されたりして迷惑をかけたこと。話をせずに大会に出ていたこと。母親ときちんと話ができていなかったこと。
そんな思いが涙となって溢れてきた。
母親が、そのルナの姿を見て、また涙していた。
父親は母親の肩に手を置いた。
「美月、いいね?話しても。」
母親が父親の方を見た。
「はい。」
「実はね。。。」
父親がゆっくりと母親とルナを交互に見ながら話し出した。
実は母親が嫌だと思いながらもエントリーをしていたこと。
母親はルナが道を外してしまうことを恐れつつも、応援したい気持ちもあり、不安定になっていたこと。
シュレディンガーを通して、様子をずっと見ていたこと。
ルナのことを本当に愛していること。
「ルナちゃん。地球で頑張ってらっしゃい。」
「ありがとう。ママ。」
二人は泣きながら抱き合った。
シュレディンガーが本棚の隙間から出てきて、ルナの足下に擦りよった。
「シュレディンガー、お前もありがとね。」
父親が二人の肩に手を置いた。そして、ルナに言った。
「そうと決まれば、今晩からワクチン情報インストールだな。」
「えー!あの熱出るやつ?」
「ああ。しようがないよ。地球はコロニーにないウイルスがいっぱいなんだ。」
「ルナちゃん、まずはこれに打ち勝たないとよ。大丈夫。ルナちゃんならね。ふふふ。」
「もう勘弁してよ〜。。。」
三人は笑いあった。
予選決勝の翌日、朝早くにソルがアパートからタキオンコミュデバイスを大量に出荷していた。
アパートではデバイス製作用アンドロイドが梱包をしていた。
店を開く前だったので、りょーたろも手伝いに来ていた。
その時、ソルの机に置いてあったタキオンコミュデバイスに連絡が入った。
無線通信の着信が、BCDを介して、ソルの視野に表示された。
連絡はエンケラドスのブライトだった。
「もしもし、ソルです。」
「あー、もしもし。ブライトです。ブライト・ハサウェイです。」
「はい。ブライトさん。こんにちは。どうしました?」
「えーと、そちらは朝ですよね。すみません、早くから。今日はですね。」
ブライトが用件を言おうとした時に、宙に浮いているブライトのウインドウの横に新しいウインドウが出た。追加のウインドウが2つ、3つとどんどん増え、それぞれのウインドウにはブライトではない人たちが映っていた。
ソルには何となくそれが、エンケラドス側でタキオンコミュデバイスを受け取った人たちだと分かった。
りょーたろにも見せようと、ソルが視線と意識で、BCDの視野表示を壁奥のウォールディスプレイに、そして、ソルを写すカメラをタキオンコミュデバイス上のカメラからウォールディスプレイ内蔵カメラに移した。
するとみんなが手を振って挨拶していた。
「おはようございまーす!」
ソルとりょーたろも梱包している手を止めて、ウォールディスプレイに向かって手を振り、挨拶した。
「おはようございます。」
ソルが話しかけた。
「もしかしてもう受け取った方々ですか?それとも今回分?」
それに反応してエンケラドスの人たちが各々で答えた。
「もう受けとりました!ありがとうございました!!」
「今回分です!」
バラバラで答える様子を見て、ブライトが苦笑いをしながら答えた。
「えーとですね。もうすでにこちらで作った分を渡して、そちらの家族も受け取って通信始めた人もいれば、今回の出荷でこっちの人たちは受け取り完了していて、そちらの今詰めてもらっている出荷分で家族の方々が受け取る方もそれなりにいるって感じですね。」
ソルがその話を聞いて、映っている人たちの笑顔を見て、胸がいっぱいになった。
「ソルさん、本当にありがとう!これでおじいちゃんとおばあちゃんが見られるようになって、いとこにも会えるし。本当に、これ、すごいよ。」
「おれは単身赴任で来ててよ。今までメチャクチャな画像しか受け取れなかったし、動画なんか、もう何写してっか、分かんなかったんだべよ。
それなのに、こんなにキデイな絵が見れるようになって、息子の顔ば見れて。。。
もうね。。。感動以外の何者でもないっぺよ。本当に本当にありがとな!」
いろんな人がソルに感謝の言葉を伝えていた。
人々の言葉を受けて、ソルが答えた。
「皆さんが喜んでくれて、本当に良かった。
こちらこそありがとうと言いたいです。
今回、こちらの家族の方々に配る分は今日配送しますので、明日にはきっとご家族と通信ができると思います。楽しみに待っていてください!」
再びエンケラドスの人々が感謝の言葉をソルに伝えて、通信を終えた。
りょーたろがソルのところに来て、肩を叩いた。
「マジで良かったじゃん!あの人たち、本当にソルに感謝してると思うぜ!!」
「うん。本当に良かった。でさ、今回ので本当に感じたんだ。
やっぱり技術ってのは、人の持つ不条理を消し去ってこそ意味が生まれるってさ。
今回のもそうだけど、この世界は不条理だらけだけど、それを一つずつ少しずつ、無くすことができるのがやっぱり科学なんだなってさ。」
「なんか哲学じゃん!!」
「はは。そう言われるとなんか照れるな。それと、、、りょーたろさんも、、、ありがと。」
「なんだよ。かしこまっちゃって。
あっ!そういや、まだ部品供給分の金、もらってねーんだかんな!
忘れんなよ!!」
「もうせっかく良い話してんのに!
分かってるって、払うよ。」
「あー、いや。まだいいや。」
「え?なんで!?」
「やっぱりさ、お前に貸しの一つくらい残しておいた方がいいかなってさ。」
「なんだよ。それ!」
二人はしばらく下らない話をしていた。
その間もアンドロイドが箱詰め作業を続けていた。
漆黒の闇の中、深紅の機体が稲妻のような軌跡を描いて動いていた。
その回りには50機ほどの戦闘機、そして50機ほどのメタリックステラが配置されていた。
その間を虹色に光る稲妻の軌跡が通り抜ける。
そして、その軌跡に触れた15機ほどの戦闘機が爆発していた。
そして、虹の波動が周囲の戦闘機やメタリックステラに降り注ぐ。
波動を受けた戦闘機、メタリックステラが振動し始める。だが、戦闘機の振動がそれほど大きくない。
周囲の戦闘機、メタリックステラが深紅の機体に対してイオンビームを放つ。
イオンビームの射出精度はそれほど高くはないが、その代わりにそれほどディレイがない。
ミサイルが戦闘機から連続的に発射され、赤い機体がそれを避けるが、一発一発が徐々に機体の近いところを通り過ぎる。
さらに戦闘機、メタリックステラからイオンビームが深紅の機体に何発も打ち込まれる。イオンビームが徐々に深紅の機体に迫っていた。
<次回予告>
”OneYearWar”予選が終了したはずだが、どこかで深紅の機体がまだ戦っていた。
深紅の機体にミサイルやイオンビームが迫る。
AIが深紅の機体からの虹色の波動を拒絶する。その時、何かが変わっていく。
そして、時を同じくして、ルナは”OneYearWar”決勝が行われる地球に向けて出発していた。
次回、第45話 ”そう簡単には切れそうにはない”
さーて、次回もサービス、サービスぅ!!




