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タキオンの矢  作者: 友枝 哲
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第34話 : 電子の海に還るがいい!!

<前話のあらすじ>

いよいよ”OneYearWar”というゲームの世界大会が開始された。

ルナは訳あってコロニー内の貧困層E地区にある遊技場でエントリーをした。

以前知り合った貧困層の少年が予選1回戦を見事勝ち上がった。

そして、予選1回戦第2試合。ルナの出番が回ってきた。

ルナは少年の奮闘に力をもらい、張り切ってコックピットブースに座ったのだった。


 

「それでは、第二戦目を開始します。メッセージを受け取った十名の方はお好きな台にお座りください。」


「じゃあ、行ってくるね!」


「おう、頑張れよ!」


 ルナがキリッとした顔になり、意気揚々と歩いていった。


 ほどなくして十人全員が席についた。


「戦闘宙域は火木星間メインベルト小惑星群エリアです。

 それではただいまから五分間のセッティングタイムになります。

 五分終了後、ただちに開戦となります。戦闘時間は四十五分です。

 それでは始めます。スタート!!」


 セッティング時間が開始されると突然、周囲がざわめきだした。


 各台の上に表示された機体の中の一つが原因だった。


 ルナの台の上に表示された機体。


 真っ赤なカラーリング。


 中央のコックピットボールの前方に電磁ワイヤで繋がれた槍型アサルトユニット4門。同じく後部に繋がれたグライダー型ブースターユニット4門。


挿絵(By みてみん)


 機体に乗り込む茶色のモジャモジャ頭の少年パイロット。


 そして、機体の下に書かれたユーザー名=LittleForest。


 ”OneWarYear”プレイヤーなら見たことのある機体、少年パイロット。


 そして聞いたことのあるユーザー名。


 まぎれもなく”RedDevil”だった。


「おい!マジかよ。RedDevilだ。RedDevilがエントリーしてたんだ。」


「っていうか、男じゃないのか?しかも、あんな女の子だったなんて。。。」


「やっぱりこのコロニーだったんだ!!」


 周囲がどよめく。


 そして歓声があがる。


 多くのものが動画を撮り始めた。


 りょーたろはこのどよめきを当然のように感じていたが、ソルは驚きを隠せなかった。


「お、お、おい!りょーたろさん、なんだよ、このザワザワした感じ。」


「だから言ってるだろ!ルナちゃんは世界一有名な”RedDevil”っていうプレイヤーなんだって。」


 りょーたろはなんだか嬉しかった。逆にソルはソワソワしていた。





 他のプレイヤーは小惑星群と聞き、怪訝な顔をして慌ててセッティングを変えていた。


 多くのものが小惑星を迂回するため、燃料を多めに、その分武器を少なめに積んでいた。


 だが、ルナは得意そうな顔で、元のセッティングのまま、リニアカタパルトに機体をセットした。


 その時、ソルとりょーたろがルナの声を聞いた。


(最初から、、、全開で行くっ!!)


「おい、聞こえたか!?」


「うん。やっぱりあのデバイスって。。。」


「ああ、そうみたいだな。」


 セッティングが完了したプレイヤーたちは周囲のどよめきに気がついた。


 そして、周囲のオーディエンスが一人のプレイヤーをじっと見ていることにも気がついた。


 各プレイヤーがそのプレイヤーを見て、今戦闘に参加しているプレイヤーリストに目を配った。


 ”LittleForest”


 プレイヤーたちは驚きを隠せなかった。


 その名を見て、落胆する者もいれば、逆に討ち取って名を上げようといきり立っている者もいた。


(開戦まであと 0:10:00)


 アンドロイドが残り十秒のカウントダウンを始めた。


 再び音楽が盛り上がりを見せた。


 周囲の人たちまでカウントダウンをしている。


(5、、、4、、、3、、、2、、、1、、、Mark!)


 歓声と共に、全機、異なる母艦のリニアカタパルトから加速され、一戦目と同様に、リニアカタパルトの緑ランプを勢いよく通過して、宇宙空間に投げ出された。


 すぐに通信が入る。


「各機に告ぐ。本ミッションは宇宙座標系とする。


 太陽原点、太陽方向正対、惑星周回方向水平、ポラリスサイドを上面とする。座標、合わせ!」


「ラジャー!」


 ルナは返事をしながら、深紅の機体オル・アティードを即座に変形させる。


 アサルトユニット、そしてブースターユニットをボールコックピットに接近させ、最大加速モードに入った。


 だが、母艦前方約100kmには数mから数十m、大きいものでは数kmサイズの小惑星、岩石群が無数に宙を漂っていた。


 ついて来ているのは哨戒機くらいなものであった。


 他の機体は衝突を避け、小惑星群の中をゆっくり前進するか、上下に迂回するかの行動を取っていた。


 だが、深紅の1機だけは違っていた。


 小惑星群をもろともせず、最大加速していた。


 加速しつつ、アサルトユニット側面やブースターユニット側面の小型ブースターからもイオンを吐き出しながら、急激なシフト移動で小惑星群を見事に躱しつつ、高速前進していた。


 りょーたろを含め、見ている者達はルナの機体の動きに見とれ、感嘆の声を上げるものまでいた。


 だが、ソルだけは、回りの驚きが少しはかり不思議だった。


(あのくらいなら避けられるような気がしなくもないな。。。)


 ソルがゲーム台の上部に示されている3Dマップを見た。


 幅高さとも約1万kmの小惑星群を挟んで、E国、Z国お互いが中型戦艦、母艦、そして、その奥に大型戦艦、さらにその奥に旗艦が置かれていた。


 ソルがりょーたろに聞いた。


「このマップって結構単純だし、相手がどこにいるか、それなりに分かるから、いきなりビームでぶち抜いたらダメなの?」


「いいけど、それは当たり前のように見越されてて、もうすでに両軍ともイオン中和フィールドが最大濃度で展開されてるんだよ。」


「あー、なるほどね。しかも、ミサイルだと岩に阻まれるし。。。相手は見えてても攻撃できそうでできない。結構いやらしいマップだね。」


「ここは本当に難しいマップだよ。」


 そう言っている間に赤い機体はどんどん進行し、すでに小惑星群内を3000kmほど進んでいた。


(そろそろか!)


 ソルとりょーたろが再びルナの声を聞いた。


 ルナがキッと目を開くと、若干目が赤みがかった。それと同時に、赤い機体の光彩部分が虹色に発光し始めた。


 そして、何か空間を僅かに歪めるような波動が機体から全方位に拡がっていった。


 敵側の哨戒機がちょうど小惑星群の2000kmほど進行してきていた。


 索敵能力5000kmを誇る哨戒機の重力子レーダーに反応が走った。


 その情報はすぐさま敵陣に伝達された。


挿絵(By みてみん)


 その情報を見て、小惑星群内を進んでいたRedDevilと相対(あいたい)するE国の戦闘機部隊、メタリックステラ部隊が恐れおののいていた。


「なんて速さだ!」


 それも、E国の部隊はようやく1000kmほど進んだ位置であったからだ。


 索敵と進行だけを目的に作られた哨戒機ですら2000kmであった。


 それに対して、深紅の機体はすでに3000kmも進行していた。


 ルナの機体の速さには理由があった。


 機体の側面にスラスターではなく、ブースターが付いており、それにより機体の角度を変えることなく、機体をスライドさせる航法を行っていたからだった。


 そして、哨戒機が圧倒的速度で進行してくる機体の周囲に新たな敵機を発見する。


「敵機増加!!5機だ!!」


「そんなバカな!?単機だったはずだ。よく確認しろ。」


「間違いない。5機だ。」


「支援ビットを分離させた可能性あり!」


「そんなわけはない!あんな岩石だらけの場所で、あの速度で、人間が同時に5機を操れるわけは。。。ない。。。はずだ。。。」


 AIですらも何が起こっているのか判断がついていなかった。





 キッと見開いたルナの目がより赤く滲んでいた。


 ルナは4本のアサルトユニットに付いている支援ビット8体中、4体だけ切り離して、同時に操っていた。


 本体から切り離した4体を同時に、しかも常人では追従することさえできない程の速度で小惑星内を進行させていた。


 支援ビット自体は、それほど長距離を走らせられるほどエネルギーがないため、1体が戻っては他の1体が飛び立つようにして、常に4体が本体から離れたところを飛び回っているように操っていた。





 RedDevilの機影を長距離重力子レーダーが捉えて、20秒ほど経った時、ついに小惑星群を進んでいた敵機が遥か前方で一閃の光を確認した。


 それは小惑星群に侵入した敵機が2000km、哨戒機が4000km、内部へ進行をした位置。


 一閃の光が爆発を引き起こした。それと同時に、レーダーから5体の反応が消えた。


「反応がなくなった。どこだ!?」





 RedDevilはすでに哨戒機に近いところまで迫っていた。


 哨戒機が虹色の軌跡を見た。


 次の瞬間、僅かに虹色に光る小さい機体からレールガン砲弾が放たれた。しかも哨戒機を囲むように複数方向から。


 展開していたイオン中和フィールドは何の役に立たず、哨戒機が次々に爆発した。





 ”RedDevil”を前にしたAI機が速度を落とし、全周囲カメラを必死に画像解析し、機影を探している。


 小惑星群の隙間からいろんな角度に時おり、虹色の軌跡が見える。


 AI機全機が小刻みに震えだした。


 1体のAI機が判断を下した。


「周囲の岩石を爆破しろ!」


 すると、周囲のAI機が岩石をミサイルで破壊し始めた。


 次々と破壊される岩石。


 数mから数十mの岩石が飛び散った。


 霧がかかったように前方は何も見えなくなった。


 AI機の震えがますます大きくなった。


「これで簡単には移動できないはずだ。」


 その時、自機に装着されているレーダーに反応が走った。


 そこに向けて再びミサイルを撃ち込む。


 だが、すでにそこにはレーダーの反応がなくなっていた。


 ゼロコンマ数秒の遅延。


 RedDevilから放たれた虹色の波動により、AI機は全ての行動の決定に遅延が生じていた。


 次の瞬間、前方で大きな爆発が生じた。


 AI機がレーダーの反応に放ったミサイルに、どこからか放たれたミサイルが衝突したのだった。


 爆風は岩石を押し退けた。


 その爆風の中から赤い機体が飛び出してきた。


 虹色の軌跡が美しく光っていた。


「ミサイルを狙ってやったというのか!?」


 赤い機体と同時に小型ミサイルが飛んできた。


 AI機は即座に判断した。”回避”。


 だが、その判断に生じたゼロコンマ数秒の遅延。


 秒速50kmを悠に越えるミサイルの速度。


 行動を開始した時、それはすでにミサイルの先端が機体に着弾した時だった。


 ゼロコンマ数秒後の爆発。


 その時、すでに赤い機体は別のAI機に対して、ミサイルを放っていた。





「なんだ!何が起こってるんだ?」


 ソルがルナの台の上の映像を見て、驚嘆の声を上げた。


 りょーたろも驚きを隠せずにいた。口が開いたまま、汗が頬を伝った。


 メーカーがまとめたRedDevilのダイジェスト動画は観てはいたが、動かしているものを実際に生で見ると、その感じ方は別物であった。


 ルナの赤い機体が、そしてビットが過ぎていくところにひっきりなしに爆発が生じていた。

 敵機の反撃も激しかった。


 イオンビームが次々に赤い機体に向けて放たれていた。


 だが、それは全て虹色の軌跡の上を通過していた。


 敵AI機も分別なく近接信管ミサイル、そして、小型分裂型ミサイルを放ってきた。


 それはこの小惑星群内では自軍を間接的に破壊する行為でもあった。


 ただRedDevilを生かしておくことは周囲にいる自軍の機体数以上に損害が出るという判断であった。


 小型分裂型ミサイルが文字通り、内部から無数の小型追跡ミサイルを放った。


 小型ミサイルは誤って周囲の戦闘機、メタリックステラを巻き込んだ。


 ルナは瞬時にそれらのミサイルを捉えた。


「遅い!当ててこそ価値が生まれるというのに。」


 そういうと、アサルトユニット、ブースターユニットの側面ブースターを使って、ユニット全てを90度回転させた。


 すると、機体が信じられないほど鋭角に曲がっていった。


 ボールコックピット内の操縦席もぐるんと回転した。


 そして、赤い機体は角度を変えた方向に急加速した。


 その機体めがけて、近接信管ミサイル、そして小型追跡ミサイルが追いかけてきた。


 だが、まだ近接信管が作動するほど接近はできてはいなかった。


 赤い機体は逃げつつも、即座にアサルトユニットに付いている残りのビットをミサイルに向けた。


 そして、ビットは正確にミサイルに対してイオンビームを放った。


 近接信管ミサイルが爆発する。それに巻き込まれ、小型追跡ミサイルも爆発した。

 その爆発にまぎれ、再びアサルトユニット、ブースターユニットが90度角度を変えた。


 そして、再び加速。小惑星群を避けつつ、虹色の軌跡が爆発を産み出していった。


 その映像に周囲が今までにないほど盛り上がりを見せた。


 その時、ようやく小惑星群の外、両軍の旗艦からちょうど中間あたりで爆発が起こりだし、戦闘が開始されたようだった。


 だが、もう誰もそれらを見るものはいなかった。


 小惑星群の前、AIが操る中型戦艦が旗艦の前方に構え、旗艦を守るように待機していた。

 次々と小惑星群内で自軍の戦闘機、メタリックステラが姿を消していた。


 そして、とうとう前方の小惑星群の隙間から爆発の光が見え始めた。


 中型戦艦のイオンビーム砲筒が小刻みに揺れ始めた。


「距離500、撃ち方、構え!」


「第一、第二旅団 12、12(ひとふた、ひとふた)1機 狙え!」


「第三、第四旅団 11、01(ひとひと、まるひと)1機 狙え!」、、、


 それぞれの部隊に接近中の各機が割り当てられ、レーダーの反応に合わせ、砲筒を動かしていた。


 小惑星群に入ってすぐのところにいたメタリックステラがイオンビームで貫かれた。


 そのメタリックステラを貫いたイオンビームは中型戦艦の前で霧散した。と同時にメタリックステラが爆発。


 イオンビーム砲筒、そしてレールガン砲筒が激しく揺れだした。


 すると小惑星群の隙間から5本の虹色の軌跡が鮮やかに飛び出した。


「撃ち方、始め!」


 周囲の戦闘機とメタリックステラがその軌跡に向かって、一斉に砲撃を開始した。


 無数の弾丸とイオンビームがレーダーの反応位置目掛けて撃ち込まれた。


「これでそう簡単には入り込めまい!!」


「圧し通る!!」


 おびただしい数のイオンビームとレールガン、そしてミサイルが放たれていた。


 だが、五つの機体はまるで稲妻のような動きで、敵機の隙間を、レールガン砲弾の隙間を、イオンビームの隙間を縫い、移動した。


 そして、その虹色をした稲妻の軌跡に触れられた敵機は次々に爆発していった。


 稲妻の軌跡は無作為に、恐ろしい勢いで、且つ確実に中型戦艦に近づいていった。


 虹色の光彩を纏った赤い機体はついに戦艦が作っていたイオン中和フィールド領域を越えた。


「何故だ?画像解析は完璧のはずだ!!何故当たらんのだ!?」


 赤い機体が戦艦に対して、10kmを切った。


「El fin!さあ、電子の海に還るがいい!!」


 赤い機体は虹色のオーラを纏い、ブリッジが戦艦の上部に配置されている旧タイプの戦艦にはイオンビームを、そして、戦艦内部にブリッジが設置されているタイプにはバンカーバスターミサイルを発射した。


<次回予告>

”OneYearWar”第1次予選にて快進撃を続けるルナ。

誰もルナを止められるものはいなかった。

そして、旗艦に攻め込む!その時、何かが起こるのだった。

次回 35話 ”おれたちの希望を潰しに来たのか!?”

さーて、次回もサービス、サービスぅ!!


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