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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ2  作者: トール
第1章

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97/101

97.変なオジサン達に絡まれたんですけど



ルーベンス視点




まだ午前中だというのにミヤビ殿が執務室へとやって来た。いつもは昼時かお茶の時間にしか来ぬというのに。

しかも私の仕事の邪魔をしないようにか、隅で静かにお茶を飲んでいる。何かあったのだろうか。


半刻を報せる鐘が鳴って暫く後、ミヤビ殿は突如私の使用する羽ペンについて訪ねてきた。

書きづらくはないかと問われたが、ペンとはこういうものだろう。ミヤビ殿は一体何が言いたいのか。


すると何やら思惑した後おもむろに何かを取り出すと、それを寄越してくるではないか。


黒い小さな棒……? 蓋のようなものが付いているが。


何かと尋ねれば、“マンネンヒツ”だと言う。

インクを付けずとも文字を書く事が出来るペンなのだと。


そんな便利な物が存在するのか!?


何度も何度もペン先にインクを付ける日々に正直うんざりしていたのだが、ミヤビ殿の言うことが本当ならばこの行為から解放されるというもの。

さっそく試してみるかと蓋らしき部分を取り外せば、まるで剣先のような金属部が現れ戸惑う。


これがペンなのか。


羽ペンと比べ、余計なものをそぎおとした洗練された形だ。胴軸はにぎりやすく、邪魔な羽も無いので書類が見易い。

インクを付けずとも書けると言っていたな。とメモ用の紙を取り出しさっそく試し書きをしてみる事にした。



なんという素晴らしい道具だ!!



本当にインクを付けずとも書けるではないか!! この“マンネンヒツ”とかいうペン、なんとしても分解して構造を見てみたい!!


ミヤビ殿に茶葉と交換で貰えないかと頼めば、これはサンプルだからもっと凝ったデザインの物を渡すと言われたのでお願いした。

サンプルのペンは分解させてもらえまいかと言えば、快く了承を貰えたのでミヤビ殿がデザインを考えている間にでもと思っていたのだが……、紙を簡易に製本したものと“マンネンヒツ”と似た形の、しかしペン先部分が異なるものを取り出したではないか!


何だそれは!?


ペンの上部を何度か押すとペン先から細い棒状の何かが出てくる。それを紙に当て動かすと黒い線が引かれた。“マンネンヒツ”のそれよりも薄い色だ。ミヤビ殿は何度か線を引くが、途中白い塊を取り出すと線を引いた部分にあてがい擦った。よく見ると擦った部分の線が消えているではないかね!!


まさか書いたものを消す事が出来るのか!?



「ミヤビ殿……君の持っている、この“マンネンヒツ”とはまた違うように見えるペンらしき物はなんなのかね?」

「あ、これもれっきとしたペンで、万年筆とは違って書いた文字をこの消しゴムを使って消せるタイプのペンなんですよ」


やはりか。


「……最近、隣国から珍しい果物が手に入ったのだが」

「あ、これも要りますか?」

「うむ。果物は明日にでも第3師団長に渡しておこう」


欲求に勝てず、図々しくも譲ってもらう事になったが、彼女は果物によほど興味があったのかとても嬉しそうに顔を綻ばしている。


“マンネンヒツ”といい“シャーペン”といい、これらにどれ程の価値があるのかミヤビ殿は分かっていない。

たかが茶葉や果物で交換するような品ではないというのに。



それに“ガラスペン”だと? インクをこの模様が吸い上げ、羽ペンよりも長く書き続ける事ができるうえ、書き心地も悪くない。

“マンネンヒツ”は原価が高くなる事は目に見えているが、ガラスペンならば少し裕福な庶民であれば手に入れる事は難しくないだろう。

“マンネンヒツ”の登場でインク壺の売り上げは多少下がるかもしれんが、その分“ガラスペン”を作らせれば反発は少ないはずだ。


ミヤビ殿がもたらしたペンと紙は世界を大きく変える。勿論良い方向にだ。


神王様が帰って来て下さり動き出した世界は、ただ死に行くだけだった私達に光を与え、ミヤビ殿の突拍子もない行動は私に楽しみを与えてくれた。

息子達を失い、死んだように生きてきた私に。


「ミヤビ殿。もし我々人間の技術でこちらと同様の物を作る事が出来るなら、この“マンネンヒツ”という新たなペンを広めても良いだろうか」


希望を与えてくれた貴女の為に、私は貴女の望む世界を作っていこう。

それが私の生きる意味となるのだから。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




雅視点



ルーベンスさんが尋常ではないスピードで机上の書類の山を片付けてから、やっと構ってもらえると思っていたのだが、冷めきったお茶を前にさっきからずっと万年筆サンプルを分解している姿を見て苦笑う。

まるで買ってもらったばかりのオモチャに夢中になる子供のようだと見ていれば、「ふむ……」と何か合点がいったように頷きティーカップを手にするので、お茶を美味しい状態(火傷しない位)に温め直すよう心の中で願っておいた。


しかしこの様子では私が居ても邪魔にしかならないだろう。


一向に万年筆から顔を上げないルーベンスさんに、今日は構ってもらえない事を悟り腰をあげた。


「ルーベンスさん、茶葉と果物忘れないで下さいね」

「ん、ああ。第3師団長へ必ず渡しておこう」

「お願いします。あ、私は王宮散策して帰りますね」


そう言い残し執務室を出たのだ。





「おや、これはこれは精霊様。御機嫌いかがでしょうか」


部屋を出てすぐ、知らないオジサンから声をかけられた。


「??」


ルーベンスさんには劣るがなかなかに渋めな声をしたオジサンは、周りにぞろぞろとオジサンを引き連れている。

服の豪華さから皆、それなりの位に就く貴族なのだろう事が分かる。


「おや、出てこられたのは確かルーテル宰相の執務室では?」

「? そうですけど……」


声をかけてきたオジサンは私の後ろにある扉を見て眉をしかめる。ルーベンスさんと仲が悪い貴族なんだろうか?


「……もしや精霊様御一人でルーテル宰相の部屋に入られて居たのでしょうか?」


オジサンの言葉に周りに居るオジサン達がザワつきだす。


一体何なんだろうか……。


場の雰囲気に戸惑っていれば、オジサン達が何やら口々に言い始めた。


「いくら精霊様とはいえ、ご婦人御一人を男性の部屋に入れるなど、ルーテル宰相は何を考えておられるのか!」

「あり得ぬ事だ! 精霊様に対してなんたる無礼!!」

「第3師団長はご存知なのか!?」


うわっ これアレだ!! 貴族の女性は夫以外の男性に一人で会ってはならない的なやつ!!


「あのっ ルーベンスさんは私の父親のような存在なので!! ロードだってそれを知ってるからお茶をする位なら文句も言わないです!!」


父親なら娘が一人で会いに行ったって文句ないでしょう!? と、ルーベンスさんに迷惑かけない為にもフォローのつもりで言ったこの言葉があんな事になるなんて、この時の私は思ってもみなかったのだ。



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