93.鬼人族どうするの
鬼人族とは、頭の上に角が生え人族と同じ“つがい”のみを愛する本能と、魔族の魔力、そして獣人以上の筋力を持ち合わせた人類最強の種族である。
「君のつがいはそんなモンスターを世に解き放った挙げ句、今までそれを放置していたのかね」
「モンスターじゃなくて人間ですよ?」
いつものようにルーベンスさんの執務室でティータイム中。今日のお茶菓子であるロードのお手製バスクチーズケーキと軽食のパニーニを食しながら話すのは鬼人族の事だ。
ルーベンスさんはパニーニが気に入ったのか2つ目に突入している。
「人族のつがいへの執着と魔族の魔力、獣人の力を持った人間など厄介事の匂いしかしないがね」
「そんな事言わずにルマンド王国で受け入れてもらえませんかねぇ」
「私に言われても困惑するだけだ」
「全く困惑してないように見えますけど」
実はロードが放置していた鬼人族、行方を追ってみれば森の中で原始人のような生活をしていた。
誕生したばかりだしそんなものかとは思うが、他の人間は国を作り、ある程度の文明をもって生活している。
蜜月で浮かれていた旦那の不始末であるだけに罪悪感が半端ないわけで。
「そのようなモンスターこそ浮島に連れて行くべきではないのかね」
それは考えた。私もそれが一番良いとは思っているが、一応人間だし、人間の国に一度は受け入れを打診すべきかなと思っているのだ。
「つまり、この応答は形だけだと」
「まぁ、そんな感じです」
「その様子では鬼人族の代表に話しはしていないのだろう」
さすがルーベンスさん。私の底の浅さをよく知っていらっしゃる!
「はぁ……。無いとは思うが、もし鬼人族がルマンド王国に移住する事を希望した場合はもう一度話し合いの場を持とう」
深い溜め息を吐いて眉間を揉むと、疲労回復に効果のあるトリミーさんのお茶を飲み込む。その姿に、今度は精神疲労に効果があるお茶を持って来ようとと思ったが口には出さなかった。
絶対怒られるから。
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「鬼人族の代表と話し合い~? みーちゃんが?」
“ミヤビとトモコの服屋”で陳列している服を畳み直しながら、レジでお金を数えている私を見てくるトモコ。その顔には訝しげな色が浮かんでいる。
「うん。浮島に移住してもらおうと思って」
「それは良いと思うけど……みーちゃんが直接話すのはどうかと思うよ~?」
「え、何で?」
「何でって、みーちゃん神王様でしょ~」
「うん??」
「だから直接話したらダメなんだよ~」
何でダメ? 浮島を創ったのも移住させようとしてるのも私だし、それなら直接話すべきじゃないのだろうか?
「私もさ、新神研修で色々習って成長しちゃって、この世界における神王様の存在がどんなものかっていうのをきちんと理解したわけよ」
首を傾げた私に対し、えっへんと無い胸を張り語りだすトモコに今度はこちらが訝しげな視線を送る。
「神王様は何があっても自分で動いたらダメなの。みーちゃんはこうしたいっていう望みを部下に伝えて、後は部下に任せるのがお仕事なんだよ~」
「部下って……」
神々は私の創りだした子供のような存在であって部下ではない。
お世話をしてくれる珍獣達はいるが、部下という存在は私にはいないのだ。
なんなら神々には精霊という眷属が存在するのでトモコが言っている事は神々にこそ当てはまるのではないだろうか。
「つまり、みーちゃんは私に望みを言って私が色々手配するんだよ!」
とサムズアップからのウィンクという小技を出しながら、よーしやるぞ~と気合いを入れだすので頭の中がハテナで埋る。
「トモコは部下じゃなくて心友だよね? それに何でトモコが手配する流れになったの??」
「心友兼部下だよ!!」
新神研修でマインドコントロールされた可能性大!!
「トモコ、「みーちゃん、お客さん来たっぽい~」」
話を続けようとしたが、どうやらお客さんのようだ。
閉店作業に入っていたが、今日はもうひと仕事頑張る日らしい。
「ミヤビさん、トモコさん、まだ開いてるかな?」
「あ、グレちゃんいらっしゃいませ~」
店に入ってきたのは貴族のお嬢様、グレさんだった。
「ごめんなさい。もうすぐ店じまいの時間よね。ちょっと二人にお話があって寄ったんだけど……大丈夫かな?」
おずおずと上目遣いで話すグレさんに可愛いなと思いながら頷けば、ホッとしたように微笑む。
やはり貴族だけあって微笑みにも品があるな。
「どうしたの~?」
トモコが話を促すと、頬を赤く染め口を開いた。
「あのね、こんな時間に急に来てこんな事言うのも憚れるんだけど、大通りに明日オープンするスイーツカフェの席が確保できたの。一緒に行かない?」




