91.一方○○では
「───……グレイス、精霊様の件はどうなっている」
「勿論順調です。精霊様は私の手作りの帽子をとても気に入って下さってます。そろそろお食事にお誘いしようかと思っているところです」
「うむ。その調子で精霊様との仲を深めるのだぞ」
「はい、お父様。ご期待に添えるよう尽力致します」
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ロード視点
「ロード第3師団長!! あのようなおかしな宣言はつがい神である貴殿が止めねばならんというのに、貴殿は何をしていたのだね!!!!」
「そうですよロード!! よりにもよって神王様の御子様を人間として育てるなどと……っ」
パーティーの翌日、早速宰相の執務室に呼び出された俺を待ってやがったのは、宰相、レンメイのダブル説教だった。
カルロも居るようだが説教には混ざらず静かに茶を飲んでいる。
なんで宰相の部屋にコイツらが集まってんだ。
「ルーテル卿、レンメイ、ロードにも考えがあってミヤビ殿の発言を看過していたのだろうし、落ち着いて彼の話を聞こうじゃあないか」
笑みを浮かべ、有無を言わさず俺に話を促すカルロに舌打ちがもれた。どうもコイツだけ楽しんでいる節がある。
「あの場での宣言は俺だって予想外だったが、ガキ共を人間として育てる事ぁ前々から話し合ってたからな。悪くねぇタイミングだったんで止めなかっただけだ」
幾分か乱暴にとソファへと腰掛け、仕方ねぇと話し出せば大きく目を開かれる。
「ロード……君は正気か?」
「正気に決まってんだろ」
珍しくカルロが感情を表に出してやがる。
「いくら君が元人族とはいえ、神王様の御子様を人間として育てるのは無理があるんじゃないのかい」
「確かにガキ共にゃ神力が備わってるし、神王の血が今後どう影響するのかも分からねぇ。だがある程度成長するまで深淵の森から出す予定はねぇし、浮島の学校に通わす予定だから問題ねぇだろ」
「問題しかないでしょう!! 成長した御子様方が自身を人間だと思い込んだまま人間の国でその御力をふるってごらんなさい!! 人間など簡単に死んでしまいますよ!?」
「そんな事ぁ分かってる。だからこそ浮島の学校……あ~、この国でいやぁ学園か。に通わすんだ。あそこは浮島にあっても、人間が通う所だから丁度良いんだよ」
「成る程。そこで人間としての常識と力の使い方を学ばせる気でいるんだね」
「ああ。神王の子だと学園なんて通えねぇからな」
「待ちなさい! 御子様を学園へ通わせる気なんですか!?」
信じられないものを見るように愕然とした表情を浮かべるレンメイから目をそらし、なんとなしに机上にあったティーカップを眺める。
こりゃあミヤビが創ったティーセットじゃねぇか。
そういやぁ宰相へ何かの詫びにやったって言ってたな。今更ながらに、神王がなに人間に詫びいれてんだか……。
「ロード、よく考えなさい! 一見浮島の学園であれば良いように見えますが、もし御子様方が通うようになれば必然的に神族の子供達も通うようになるのですよ!! 結局は常識など学べず、人間の国……いえ、我が国が被害を被る想像しか出来ません!!」
「レンメイ・シュー第1師団長の言うとおりだ。たとえ人間として接せよと言われても、神王様の御子様に変わりはない。御子様とお近づきになれる学園に我が子を入れるのは当然だろう。神族と人間が同席する学園などというものを人間が受け入れられるかは知らんがね」
レンメイや宰相が言う事はもっともだが、ミヤビがつがいとなった日から、つがいが望む事ぁ出来る限り叶えてやると決めたんだ。ガキ共を人間として育ててぇならそれを叶えてやるのがつがいとしての務めだろ。
「話に水をさして申し訳ないんだが、そもそも浮島に住む者達は人間なんだろうか?」
「どういう事ですか? カルロ」
「神王様の御側に侍る者は相応の力を得るのだと、ロードが言っていたじゃないか。だとしたら浮島は神王様のお膝元。浮島に住む者達は皆神王様の加護を受けていると推測する。つまり、「つまり最低でも精霊様と同等の存在というわけですか……」」
そういやぁそうだったな。
ん? 待てよ。ミヤビはガキ共を人間の通う学園に通わせたいんだよな? 人間として育てるって言ってたもんな。なら浮島の学園はダメって事か??
さすがに王都の学園にゃあ通わせられねぇぞ!?
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ヌードル(コリー父)視点
「ヌードルさんの薬は良く効くと大評判でね! 今日はいつもより少し大めに仕入れたいと張り切って来ましたよ!!」
「はぁ……嬉しい事ですが、なにぶん薬草にも限りがあるのでそんなに数はご用意できないかと……」
「薬草ならば私が用意しますので、そこを何とか仕入れさせてもらえませんかね? あ、勿論無理にとは言いません! ヌードルさんにご負担をかけるわけにはいきませんからねっ」
最近、王都に出入りする商人の数が増えてきた。特に聖女様が現れ、各国を集めての会議がこの王都で行われたからか、その頃から増えていったように思う。
僕の薬屋は大通りから一本奥に入った所にあるから、今までは近所の人達が買いにくる程度の小さなものだった。それでも家族3人食べていける程度には収入はあったし、贅沢はそんなに出来ないけれど幸せに暮らしている。
そんな僕の店に、マロンドールという、王都から馬車で15日程かかる街の商人が訪れたのは、王都に湖が出来た数日後の事だった。
彼は御前試合目当てにやって来た商人の一人だったが、巨大虫の襲撃で中止になってしまった為に商売どころではなくなり、仕方ないので帰る前に王都を見て回る事にしたそうだ。
その際フラッと訪れた僕の薬屋でなんとなしにいくつか薬を購入し、試したのがきっかけだったとか。
「妻にお土産で渡した“手荒れに効く軟膏”。使ってみたらあっという間に治ったと喜ばれましてね!!」
と、そのひと月後にやってきた商人はいささか興奮気味に話してくれた。その時にまた同じ軟膏をいくつかと、他にも色々購入してくれた。
そこからは定期的に仕入れに来るようになったんだ。
近所の人が買う事を考えて仕入れの量も抑えてくれるし、悪い人じゃないみたいだから特に気にしてはいなかったんだけど……。
「どの位ご用意したらいいのでしょうか?」
「出来ればいつもの3倍、お願いできないでしょうか」
「3倍!?」
「いえ、無理なら倍でも!! 勿論今日中にという事ではなく、私も1週間はこちらに滞在しますので、是非それまでにお願い出来ればと!!」
それにしてもいつもの3倍って……、僕は騙されてるんだろうか?
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グレイス・セイブ・マガレー(16)
雅とトモコから“グレさん”と呼ばれている雅達の服屋の常連。
双子に手作りニット帽をプレゼントした。
マガレー子爵家の令嬢。マガレー子爵家は上下水道整備反対派のキュフリー侯爵の派閥に属している。
ヌードル(30代前半)
コリーの父。
雅に精神力2アップされた妻フルートと、娘コリーを溺愛している薬師。神王様関連に巻き込まれ、毎回緊張で吐きそうになっている。実は神王の加護を家族ごともらっているが気付いてない。




