89.神王様、決意する8
神々の美しいダンス、子供達の可愛らしいダンス、どれも素敵だったが、中でも注目なのがルーベンスさんの耐久ダンスだ。
奥さん達皆ときっちりダンスをする体力と気力に感心した程だ。
「ルーベンスさんすごいね」
「そんな事より俺ぁ酒が飲みてぇ」
「私がご飯食べに行けないのにロードがお酒を飲みに行けるとでも?」
「あ~、んじゃ俺が飯取ってきてやるよ」
「立ち上がった瞬間ヴェリウスに攻撃されマスヨ」
階段下でじっとこちらを見ているヴェリウスにチラリと目をやる。パーティーを楽しめば良いのに、護衛騎士のように美しい姿勢を保ったまま微動だにしない。
「ぅ゛……」
「ロードは騎士なんだから慣れてるでしょ?」
「護衛として突っ立ってんのは仕事として慣れてるが、こうやって椅子にふんぞり返ってじっとしてんのはまたちげぇだろ」
「へぇ。そんなものかぁ」
「そんなもんなんだよ」
言われてみれば、仕事として頭を切り替えれば我慢も出来る。
「ならこれも仕事だと思って我慢かなぁ」
「……俺ぁ思うんだが、二人揃って酒飲みに行きゃあ誰も文句言わねぇんじゃねぇか?」
「え、何で??」
「一人で行動しようとすっから体裁がどうとかで怒られんだろ。ならつがいで行動すりゃ、挨拶回りしてるみてぇで仕事してる風じゃねぇか?」
「成る程。皆とコミュニケーションをとってる風を装ってご飯を食べるのか……」
ぐぅと鳴るお腹を押さえてロードを見る。
「行こうぜ。ミヤビ」
「行く。ご飯食べたい」
頷けば手を差し出してくるのでこちらの手をのせると、ニヤリと笑って握り込まれぐいっと引っ張り上げられた。
が、立ち上がった際に足元がひんやりしたと思ったら、刹那、ロードが「ぅぐっ」と呻き声を上げて椅子へと沈んだのだ。手を繋いでるこっちもその衝撃で椅子に尻餅をつく。
『ミヤビ様、今はまだお立ちになるお時間では御座いません』
スミマセン。
「くそっ ヴェリウスの奴、マジで攻撃しやがった! 」
お腹を押さえながらヴェリウスを睨むロードに対し、そしらぬ顔で直立不動なヴェリウス。
ロードの足元には氷の塊が転がっていた。
残念だがご飯は諦めよう。
◇◇◇
一通りダンスを楽しんだ後はいよいよ双子達の御披露目だ。パーティー会場の外で遊んでいるお子様達には申し訳ないが、一旦戻ってきてもらうようになる。何しろこれがメインのパーティーなのだから。
転移で戻ってきた子供達に神々はいよいよかとこちらを見つめ、人間達は親子共々驚いて戸惑っている。音楽の神が演奏を止め、先程までの喧騒が嘘のように会場は静けさに包まれた。
ヴェリウスが難しい言い回しで双子を御披露目する事を皆に伝えれば、皆が目を輝かせてこちらに注目する。
「皆、此度は我が子らの披露目によう来てくれた。久しく見れなんだ顔を見る事が出来たのも僥倖じゃ」
御披露目前の私の挨拶に神々のテンションが上がっている。まるでアイドルのような扱いだ。
「わしが子を授かるなど今だかつて無かった事。戸惑う者も多いとは思うが、我が血を継ぐ神が誕生した。祝ってくれれば幸いじゃ」
皆が歓声を上げ、今か今かと双子の登場を待っている。
サンショー兄さんが大事そうに双子を抱え、ティラー姉さんを伴いそばへとやってきた。頷くと、私とロードへ双子をたくし後方へと下がる。
「我が子、“ディーク”と“ロビン”じゃ」
そのくりくりとした瞳を大きく見開き、割れんばかりの歓声を上げる皆を不思議そうに見つめる双子に笑みがもれた。
「皆、静まれ」
暫く後、会場を見渡し言った一言に静寂が訪れる。
「我が子らの事で皆に言うておく事がある」
「ミヤビ?」
『ミヤビ様?』
ロードやヴェリウス達が一歩前へと出た私に戸惑っている。
「わしは我が子らを、“人間の子”として育てる事に決めた」




