88.神王様、決意する7
ジュリアス視点
ダンスホール全体に広がるように、神王様の纏われたドレスの裾が舞いキラキラと輝く。
音楽に合わせて出来るドレープはまるで羽根のように揺れ、皆うっとりとお二人のダンスに見惚れていた。
正直、あのつがい神にまともなダンスが出来るだなんて思ってもみなかったが、オレの神王様が選んだだけあるようだ。
それにしても、今回は特に神王様の御力を強く感じる。前に人間達へ姿を見せた時と同等の存在感を出しているからか、神族以外の者にも神王様の素晴らしさが理解できているようだ。
おかしい。神王様は普段から目立つ事は好まれないはずだ。
このパーティーも嫌がっていた位だ。
それが、あの御力とダンスまでとなると何か理由があるんだろうか?
ヴェリウス達からは何も聞いてないが。
周囲を見渡し、玉座側の階段下でヴェリウスとランタンを見つける。念話しようかと思ったが、何やら二人で真剣な顔をして話していたので断念した。
仕方ない。トモコにでも念話してみるか。
【……おいトモコ、神王様がダンスなんてオレ聞いてないけど、これから何かあるのか?】
【あ、ジュリさん! それがさ~、ロードさんがみーちゃんとどうしても夫婦のダンスがしたいって言うから、みーちゃんには内緒でファーストダンスの時間をとったんだ~。みーちゃん踊れないって言ってたけど、ちゃんと踊れてるみたい。良かったよ~。みーちゃんはやれば出来る子なんだよ!】
【へぇ。ダンスは分かったけど、なんで神王様の御力が人間にも分かる程強く感じられるんだよ】
【え~? ドレスのせい~?】
それもあるだろうが、そうじゃない。ドレスじゃなく神王様自身から普段抑えられてる御力を感じるんだ。
【なんだ。やっぱりお前も知らないのか】
【え? 何、どういうこと~??】
【オレにもよく分からないが、神王様がわざわざ自分の力を誇示するって何か理由があるんじゃないか?】
【パーティーだからじゃなくて??】
トモコも知らないとなると、やはりヴェリウスに聞いた方が早いか。
オレはさっそく両手に持っていた料理を宙に浮かせ、ついでに目に入った肉の皿を手に取って、ヴェリウスの元へ足を運んだ。
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雅視点
言うとおりに身体を宙に浮かべたままでいれば、私の手と腰を取ってステップを踏み始めた旦那に愕然とする。
この男、ステップは多分完璧だがデカすぎるせいか一つ一つの動作がとにかく大きい。
つまりステップがデカすぎてものすごいスピードでぶん回されているのだ!! 分かりやすく言えば人間ジェットコースターである。
「……っ ロード、ちょ、まって!?」
「な? 踊れてんだろ」
「踊れてねぇよ!! これダンスじゃなくてただ振り回してるだけ!!」
コイツ、さては女性と踊った事ないな!?
「っかしいなぁ。ステップは合ってるだろ?」
「多分ね!! でもこんなに女性をブンブン振り回すダンスなんて見たことないよ!! 本当に女性と踊った事あるの!?」
「あ゛? つがい以外と踊るわけねぇだろ」
やっぱりねーーー!!
「でもダンスが娯楽って言ってたよね?」
「あ~……こういうダンスは貴族の娯楽な。俺ら騎士は基本パーティー中は護衛や警備で踊る事ぁほぼねぇが、一応騎士になる際に一通り教育されんだよ。さすがに久々すぎて、パーティー直前までアナシスタに指導してもらったけどな」
どうりで。ガタイの良い男同士で踊ればこうなるわな。
あれ? ロード×アナさんだと!? ダンスの練習してる所見たかった!!
「……待て待て。何で練習してまでここでダンスを披露してんの? 私なんて知らされてもなかったから全く踊れないし」
「そりゃあオメェ、ファーストダンスはその場で一番位の高いつがい同士が踊るもんだろ? 俺とミヤビはつがいなんだから当然踊らねぇとおかしいじゃねぇか。オメェに知らせなかったのは、逃げ出すからに決まってんだろ」
「そりゃ逃げるよね! ただでさえパーティーもしたくないのに、ダンスを皆の前で、とかどんな罰ゲームなの!?」
このファーストダンス、てっきりトモコの計画かと思ってたけど、ロードの希望だったようだ。
「ダンスの出来ない私と、振り回すだけのロードって……これファーストダンスとしてダメダメなんじゃ」
「んなもん気にする事じゃねぇだろ。俺ぁこんな綺麗なオメェとつがいのダンスが出来て幸せだぜ」
気にしなくていいの? 後々、あの時のお父さんとお母さんのダンス面白かったよってトモコから双子に伝わったりしない?
ルーベンスさんからは、神々の集うパーティーであの恥ずかしいダンスは一体何のつもりだねって言われるよね?
嬉しそうに人をぶん回すロードを見てそんな事を思っていたら、いつの間にかダンスは終わっていた。
皆の気遣いの拍手を聞きながら階段を上がると、「主様!! と~っても素敵でした!!」とショコラからも気遣いの言葉がかかる。3人娘やティラー姉さん、サンショー兄さんも拍手ととびっきりの笑顔で頷いていていたたまれない。
そんな中、皆がダンスホールへ移動し、素晴らしいダンスを披露しだしたではないか。ますます恥ずかしくてもう顔を上げられなくなった。
この後、ちゃんとアレを発表できるのだろうか……。
恥ずか死にそうな中、皆がファーストダンスの事をはやく忘れてくれるよう望みながら、死んだ目でダンスホールを見つめていたのだった。
皆のダンスが終わるまで。




