85.神王様、決意する4
「ミヤビ……。いつも綺麗だが、着飾ったおめぇは一段と綺麗だ。今すぐ食っちまいてぇ」
熱に浮かされたような顔をして見つめてくる旦那に胡乱な目を向ける。
何故なら、その言葉は押し倒しながら言う台詞ではない。
「ロードさん、一応髪もセットしてもらってるんだから乱すような事は止めていただきたい」
「んな冷てぇ事言うなよ。つがいが綺麗になった姿を見て我慢できる男はいねぇ」
「そこは我慢しようよ。もうパーティー始まるよ?」
顔中にキスを降らせる私のつがいは相変わらずである。
離れようとしないロードに困っていると、障子の外からパタパタと足音が近づいてき、私達の居る部屋の前で止まったので助かったと息を吐く。
ここは天空神殿の奥、日本建築ゾーンの一室。本日のパーティーの為、朝早くからこちらへ来て着替えやら化粧やら準備していたのだ。
「主様~。ショコラが来ました~」
障子を挟んだ向こう側から可愛らしい声が聞こえてきた。
「ロード、迎えが来たみたいだよ」
「ちっ しゃーねぇ。行くか」
渋々といった風に押し倒していた私を抱き上げると、足で障子を開けたロード。両手が空いてないのは分かるが、足で開けるのは良くない。将来子供達が真似をしたらどうするんだ。
「あっ ロード様。主様を抱き上げるのは止めて下さい~。御衣装にシワがよってしまいます~」
「あ゛? ミヤビの服にシワなんぞできるか。俺ぁ絶対ぇ離さねぇぞ」
「困ります~! ああ!? 御髪も乱れているじゃありませんか~っ ロード様! いくらつがい神様でも許されませんよ! ショコラは断固抗議します~!!」
「んだとコラァっ いくらおめぇがミヤビの護衛でも、俺達を離す事ぁそれこそ許さねぇぞ!」
「ダメです~!! 御髪と御衣装の乱れを直さなくてはいけません~。今すぐ主様をおろして下さい~。譲歩して手を繋ぐ位なら許可します~」
「ちっ 仕方ねぇ。ただし手は離さねぇからな」
ショコたん……ロードにここまで言えるショコたんは最強だよ。
大人しくショコラの言う事に従うロードに驚きつつ、ショコラの後ろから出てきたいつもの珍獣3人娘に髪や服を整えられる。その間隣で手を離さない旦那の姿を改めて眺める。
今日の衣装は前回の和風とは違い、中世ヨーロッパ貴族のパーティー衣装をベースにしている。勿論ロードも前回の暗黒騎士ではない。
前の衣装……あれは見た目の印象がラスボス感半端なかったので、今回は慶事と言う事もあり、色を入れてみる事にしたのだ。
で、トモコが考えたのが双子のイメージカラーである。
“風神”と“雷神”という事なので、かの有名な風神雷神図屏風画のイメージから、緑と白とゴールド、真朱(黒みがかった鈍い朱)を使って衣装を作ろうという事で衣装作りがスタートしたわけだ。
ロードが着ているのは、ゴールドの装飾があるモスグリーンの裾の長いコート。中はやはりゴールドの装飾がある白ベースのすっきりとしたパンツを、コートと同じような色合いのロングブーツにインしている。腰には真朱の革ベルト(ゴールドの装飾あり)を二本巻いている。パンツと同じ白ベースのインナーには所々に真朱が差し色として使われておりお洒落さと格好良さを醸し出している。そしてダメ押しのように、表はモスグリーン、裏は真朱のゴールドの刺繍が全体に入ったゴージャスマントを羽織り、覇王のような雰囲気を漂わせている。
確かに格好良い。凄く格好良い。それは認めよう。しかし、どうも前回のイメージを払拭できていない気がする。やっぱり顔が怖いからだろうか。
ちなみに私は、ロードと同じ色合いのプリンセスラインのドレスだ。ロードよりは白率とゴールド率が高く、引きずっている部分が前回よりも大幅アップしている。さらにマントは定番の王様マントのようなモフモフがついたアレで、片方の肩に引っ掛けるタイプである。色はモスグリーンベース。ドレスと同じ位裾は長めだ。白ベースのドレスはウェディングドレスのようで、何だか照れる。
そして本日の主役である双子達は、ロビンが白、ディークがモスグリーンのゴールドの装飾が施されたお姫様と王子様のような衣装である。やはり差し色には真朱。
めちゃくちゃ可愛くて写真を撮りまくっていたら3人娘に「神王様の御支度ができません」と怒られたのは記憶に新しい。
「ああ……またもや神々の至宝が生まれたのですね」
「前回の御衣装といい、今回のパーティーが終わったら宝物庫での管理を強化しなくては」
「神王様、お美しいですわ~」
髪と服を整え終え、ロードにエスコートされながらゴシック建築ゾーンへと向かう。
ベールガールもどきの3人娘の他に、双子を連れたお世話係兼護衛の珍獣、お馴染みティラー姉さんとサンショー兄さんも一緒に移動している。
いやぁ双子がね、サンショー兄さんの獣化姿が大好きでさぁ。いつの間にかお世話係になってたんだ。ティラー姉さんは護衛ね。強いから。
「あれ? マカロンは?」
いつもロードかショコラと一緒にいるのに、今日は姿の見えないウチのペットに首を傾げる。
「マカロンは先に控えの間で待機してます~」
当然のようにショコラが返事をしてくれるが、あいつ一人残して大丈夫か? 問題起こしてないだろうな。
「主様のお部屋に行く前に様子を見てきましたが、眠っていたので大丈夫です~」
「あ、それなら大丈夫だね」
「わかんねぇぞ。何しろマカロンだしな」
ロードの発言に不安が過る。前回は竜王と勘違いされてたし。
あの子おバカな性格に反して見た目が禍々しいから。
何事も起きませんようにと願いながら、控えの間に移動したのであった。




