78.犬とゴリラの対決
リン視点
「第3師団のみ副師団長が不在という中で、君達には不便をかけてきたと思う。同時に、そんな中でよく辛抱してくれた。皆の努力のおかげか、2年ぶりに目にした王都は活気付き、私が居た頃とは見違える発展を遂げていた。私は、君たちを誇らしく思う!!」
この人が……っ 第3師団の頂点に立つ“英雄”を長年支え、貴賎なく慕われる人格者と評判の副師団長、アナシスタ・ベルノ・レブーク。
訓練中の騎士達が突如集合をかけられ、集まった中現れた美しい青年は、まるでどこかの王族のように堂々とした姿で気品に溢れ、この場に会する騎士達の熱い視線を集めている。
副師団長が2年も王都を離れなくてはならなかった理由は、自身の責任感の強さからだと噂されているが、ミヤビから聞いた話からもそれは嘘ではないと分かっている。
陛下と師団長、そして自身のつがいを人質に取られながら、それを救おうと敵の懐に飛び込んだ高潔な人は、それでも敵に協力した自分を許せなかったのだとか。
ミヤビが記憶を改竄したから復帰できたとはいえ、当時の罰は爵位の返上と王都追放という過剰な罪状だったらしい。
それを反論する事なく受け入れたというのだから、潔さと誠実さは推して然るべきだろう。
この人が戻ってくると聞いた時から、第3師団の雰囲気が変わったのは気のせいではないはずだ。
庶民と貴族を明らかに差別していた先輩達は鳴りを潜め、気持ち悪い程分け隔てなく訓練するようになったし、なんなら今まで悪かったと謝罪までされた位だ。
他の先輩曰く、憧れの副師団長に落ちぶれた自分は見せたくないと心を入れ替えたのだとか。
影響はそれだけにはとどまらず、他の師団の上層部もいつ帰ってくるのかと聞きにこちらの居住区を頻繁に出入りしていたらしい。
オレは師団長に憧れて、ルマンド王国の騎士団についてはかなり調べていたから、会った事はないけど噂は聞いた事がある。
「“水刃の騎士”、“高潔の貴公子”で名高い第3副師団長か……」
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雅視点
『貴様、本気でここに神域を創る気か』
「おう。本当は深淵の森に創りてぇが、精霊の事も考えるとここが一番良いだろ。土地もいくらでも拡げられるしよぉ」
ロードの神域を創る為、さっそくやって来たのは…………天空神殿だった。
どうやらロードは、この神殿に併設するように神域を展開するらしい。しかしヴェリウスはものすごく嫌そうな顔をしている。
『この神殿は、ミヤビ様と私が考察に考察を重ねて創りだした、デザイン、バランス、全ての面においても計算し尽くされた完璧な神殿なのだ!! それを異物を建てる事で壊すことは許さぬ!!!!』
「あ゛ぁ゛!? まだ創ってもねぇのに壊すたぁどういう事だコラァ!!」
『どうせ貴様の建築物などデザイン性の欠片もない無骨なものなのだろう!! せっかく、この世のものとは思えぬ程美しく気品溢れるこの神殿を、ミヤビ様と共に創りあげたというのに、横にそんな物を創ろうというのか!!』
「だからまだ創ってもねぇのに決めつけてんじゃねぇよ!!!!」
ゴリラと犬の喧嘩が勃発した。
まぁ、ヴェリウスがいう事も一理あるけどさ。
どう考えてもロードにはデザイン性のある神殿は創れないだろうし、なんなら神殿っていうか岩の城とか、有刺鉄線が張り巡らされた廃墟みたいな城とか、つまり北斗の○に出てくる敵の住むようなアレが出来る可能性が高い。
「まぁまぁ二人共。それなら皆でどういう神殿を創るかデザイン案を出してから創ったら良いんじゃないかな?」
◇◇◇
「では早速、“ロードの神域&神殿のデザインを考えよう!”第1回会議を始めたいと思います。まずは自己紹介からお願いします!!」
天空神殿のだだっ広い会議室に集められたメンバーは、私を含め全員で12人。
まず中立派からの紹介である。
言わずと知れた私、雅。主にこの世界と地球の建築物の資料提供、議長を担当します。
「はいはーい! 人族の神トモコで~す。内部の精密機械の開発、デザインと監修を担当しま~す」
「ルーベンスと申します。全く理解できておりませんが、意見を聞かせてほしいとの事で連れて来られた為、担当が何かはわかりかねます」
「主様のドラゴン、ショコラです~。“癒し”というのを担当します~」
以上が中立派だ。続いてヴェリウス派の紹介に移る。
『神獣ヴェリウスだ。今回はそこの愚か者がこともあろうに、この完璧な美しさをもつ天空神殿の横に、自身の神殿を創ろうと戯けた事をぬかすのでな。バランスの悪い建物を創られてはかなわぬと皆からデザイン案なる物を募集する事にした。もし、ふざけた意見を出そうものなら即凍らせるのでそのつもりでいるように』
と机の一部を凍らせたヴェリウスは本気だ。
「んもぉ~ヴェリちゃんってば落ち着きなさいよ。初対面の子達も驚いちゃってるじゃな~い。あ、アタクシは竜神のランタンですわ。天空神殿のデザインにはアタクシも関わっているのよ。なのでいくらつがい神様でも今回はヴェリちゃんの意見に賛成。だ・か・ら、真面目に考えないとこのおっぱいで息の根止めるわよ~」
おい。ウチの旦那に何する気だ。その水風船握りつぶすぞ。
「魔神のジュリアスだ! 人族の神と同じ部門を担当するぜ!! 新しい神殿内は男のロマンが詰まったデザインが良いと思ってる!!」
『ジュリアス貴様……っ ヴェリウス派として招いたにもかかわらず、まさか早々に裏切られるとはな! 貴様なぞもういらん!! ルーベンス!! おぬしがこやつのかわりに我がチームに入れ!!』
おおっと、ここでジュリアスがロード派に鞍替えし、ルーベンスさんが中立派からヴェリウス派へ入ったぁぁ!!
はい。席替えも終わったので、次はロード派。自己紹介いってみよう。
「俺ぁロード。神王のつがいで鬼神だ。今回は俺の神域と神殿を創る為に集まってもらい感謝する。正直デザインなんぞどうでも良いんだが、どうせ創るならジュリアスも言ってたような男のロマンが詰まったもんってのも面白そうだ」
うわぁ。ヴェリーちゃんを挑発してる。後で大変な事になっても知らないよ。
「リンに誘われたから遊びに来た。エルフ神のアルフォンスっス。エルフなめられねぇように頑張るっス」
「私はトモコ様を連れ戻す為に来たのですが、何故かロード様派に入れられました。人族の精霊、オリバーと申します。御初にお目にかかる方もいらっしゃいますが、今後ともお見知りおき下さい」
「あの、何が起こっているのか全くわからないんですが……「コイツはアナシスタだ。俺の部下で人族だな」」
「オレもミヤビに突然連れて来られてよくわからないんですけど……ロード様の部下で獣人族のリンです」
アナシスタさんはこのメンバーを前に本気であたふたしているが、リンは慣れたもので、途中アル君も巻き込むほどの余裕があった。
『神王様、ロード派の人数に異議を申し立てます』
ヴェリウスが片手を上げたので、その可愛さに負けた。
「じゃあ一人ロード派から持っていく事を許します」
「おい!?」
ロードがぎょっとしてこちらに何か言おうとしているがペットに甘くなるのは仕方ないのだ。許してくれ。
『ならばオリバーをこちらに』
うん。ロード派圧倒的不利の人選!!




