77.浮かれた後の惨事
散々説教された後ロードの執務室に移動したのだが、いつの間にかついてきていた皆はいなくなっており、ロードと二人だけになっていた。
アナさんの件は、つがいに聞いてから返事がしたいというので了承した。
せっかく格好付けて願い事を言えっていったのに、何か旅行行くからお土産買ってくるよ。何が良いか奥さんに聞いといて。みたいな規模の話になっている気がする。
「アナシスタの奥方も物を望むような人間じゃねぇから、その認識で正しいかもな」
と笑うロードは、険しい表情も和らいでいるみたいでホッとした。
「今日は良い気分だ」
「やっぱりアナさんが帰ってきたから上機嫌なんだねぇ」
「阿保。“私の大切なつがい”って、オメェの口から何度も言われりゃ機嫌も良くなんだろ」
ニヤニヤ笑って頬擦りしてくるので好きにさせておく。
無精髭がじょりじょりして痛い。
「ありがとな」
「ん?」
頬擦りされながら急にお礼を言われたんだけど、私何かしたっけ??
「アイツの事も、俺の事も考えてくれたんだろ」
「私はただ、恩人にお礼をしたかっただけだよ?」
「ああ……やっぱりオメェは最高のつがいだな」
ぎゅっと抱き締められ、固い胸に押し付けられる。
褒められているらしいが、もうちょっと力を緩めてくれたらもっと嬉しい。
「そういえば、ロードはアナさんを側役にするの?」
「あ? 側役って、今もそうだろ? 副師団長なんだしよぉ」
「ん?」
「それより、今夜は天空神殿で月見酒でもしながらイチャイチャしようぜ? あの浴衣っつー服を着たオメェを堪能してぇしよ」
「んん??」
「ありゃ色っぽさも増すよなぁ。露出度は低い割にうなじや、裾から覗く足首がエロくてよぉ」
あれ? もしかして、つがい神としての側役って必要ないと思ってる?? まぁトモコのような神殿に住んでるわけではないけど……。そういえばロードの精霊って今天空神殿の厨房で働いてるよね? んん?? よく考えたら、つがい神の精霊って厨房で働くものなの?
「想像するだけでたまんねぇ」
「ロードサン。ちょっと聞いてみるんですケド、何で自分の精霊を側役におかないの、かな?」
「あ゛? プライベートで側役なんていらねぇだろ。大体あの狭ぇ家のどこに住まわせんだよ。むしろなんで俺とオメェの場所に他人をおかねぇとならねぇ」
狭い家で悪かったな。
ベースは日本の実家だけど、一応ロードにあわせて天井も高くしてるし、一つ一つの部屋も拡げてるからね。それにトモコもヴェリウスもショコラも住んでるんだから狭くも感じるでしょうよ。定員オーバーだしね!!
……あれ? でもそれって、つがい神の聖域と神殿創った方が良いって事?
「んな事より、今夜の事を話そうぜ」
「ロード! ロードの精霊の為に聖域と神殿創った方が良いのかも!!」
「あ゛ぁ゛? 何の話をしてんだ?」
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『まさか、つがい神であるおぬしが側役を置かぬ理由が、そんな事だったとは……っ この、愚か者が!!!!』
ガウッと、怒り心頭といったように吼えたヴェリウスからは、空気まで震えるような威圧と、周りが凍りつく現象が現在進行形で起こっている。
「いくらつがい神っつっても、勝手に生まれた精霊を住まわせる場所なんて持ってねぇし、奴らも天空神殿で好きにしてるんだしよぉ。それで良いんじゃねぇか?」
だからロードの神殿を創った方が良いのかなぁってヴェリウスに聞きに家に帰ってきたのに、今、怒られてるんじゃないか。
何で私巻き込まれてるの!?
『まったく。あの心ここに在らずな浮かれまくっていた時の貴様に伝えた私がバカだった』
ダンッと前足で床を踏み、畳を凍らせたヴェリウスは私達を見て吼えた。
『ミヤビ様、神に至った者であれば聖域や神殿は自身の力で創造できます。しかもこやつは神王様のつがい神。他の神よりよほど力があるのです。なので神王様が聖域や神殿を創ってやる必要は一切ありません!!』
「は、はい!!」
『私はこやつが神となってすぐ、その話をしたのです!! しかしこのバカは、あろうことかミヤビ様との交わりに浮かれ、私の話を全く聞いていなかったようですね!!』
ま、ま、ま、交わりって!!
「いや~あん時ぁミヤビの事しか考えられなかったしなぁ。今も勿論ミヤビの事しか考えてねぇけど」
『本っっ当に、貴様は……っ』
もう言葉もないわ!! と激怒しているヴェリウスに小さくなる事しか出来なかった。
『天空神殿でこのバカの精霊を見かけるのはおかしいと思っていたのです。しかし、本人達も嬉しそうにしていたので放置していたのですが……』
ヴェリウス曰く、私と私に近しい者以外で天空神殿に自由に出入り出来るのは、珍獣達とロードの精霊だけだという。
表向きは一応天空神殿が私のメイン住居となっている為、出入りできるだけですごい事なのだとか。
なので自分たちの神域がなくても特に不満も出なかった(むしろ天空神殿に住めてラッキー的な)のだが、どうやらそれではダメだったらしい。
『ミヤビ様、御子様方の正式な御披露目パーティー前にやらねばならぬ事が出来ました』
ギンッと目を光らせロードを睨む今のヴェリウスは、物語にでてくる魔王さながらの恐ろしさがあった。
こうして、アナさんの願い事を叶えるというミッション前に、見守らねばならない課題が追加されたのである。




