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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ2  作者: トール
第1章

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70/101

70.記憶の改竄


『本来ならば、神王様に対し願い事などと無礼な真似は許せぬが、元はアーディンが引き起こした事。今回ばかりは私も口を挟まぬ』


だが調子には乗るなよ、と釘を刺すことも忘れないヴェリウスは、そのままふかふかの絨毯に寝そべると目を閉じた。アナスタシアさん(※アナシスタです)の事にあまり関心がないようだ。


ロードはルーベンスさんの言葉に黙って耳を傾けているが、とても納得している表情ではないように思う。

いつもは話を聞いているのかいないのか分からない不真面目な態度なのに、今回はふざけた様子もなく険しさが増して話しかけにくいのだ。


「記憶の改ざん……」

「ミヤビ殿ならば可能ではないかね」

「勿論できますけど……」


あまりオススメはしない。

なぜなら、改ざんした方……ここでいうルーベンスさんの事だが、後々の罪悪感が半端ない事になるからだ。何しろ法治国家に住む者の倫理観は侮れない。私はまぁ良いが、ルーベンスさんは一生もやもやを抱えたまま生きる事になるだろう。


「安心したまえ。ミヤビ殿が思っているほど大きく改竄してほしいわけではないのだよ」

「へ?」

「大筋は変えなくとも良い。一部の記憶を変えて欲しいのだがね」


一部とな? でも大筋を変えないとアナスタシアさんは犯罪者のままだし……。


「主に改竄してもらいたいのは、刑罰の内容なのだよ」

「それは、罰を軽くするって事ですか?」

「その通りだ。公爵の謀反が神の影響下にあったとはさすがに明かせないのでな。今回のような負のエネルギーの影響下にあり、アナシスタはつがいを人質に取られていた。その為一番軽い謹慎とし、しかし本人の責任感の強さ故に王都の地を離れていたとする。その他にも細々とした辻褄合わせは必要だがね。改竄とは聞こえは悪いが、どうかね」

「アーディンの事以外は真実ですよね? それなら記憶の改ざんではなく、真実を公にしてしまえばいいんじゃ……」


私の言葉にルーベンスさんは首を横に振る。


「ミヤビ殿は、彼が貴族だということを既に承知していると理解しているがね」


今のいままで知りませんでした。


「貴族とは一度埃がつくと少々厄介な事になる。いくら有能な人物であろうと、“犯罪者”として帰還させるわけにはいかないのだよ」


成る程。と頷いていると、「待ってくれ」と今まで黙りだったロードが口を開いた。


「記憶の改竄はアナシスタ本人には必要ない」

「ふむ。責任感の強い青年だと貴殿も言っていたはずだがね。“犯罪者”として罰せられた記憶を残すとなると、それこそ苦しむ事になりそうだが ……本当に良いのかね」

「ああ。記憶の改竄っつーのはあまり良い事とは思わねぇが、今回は神族側の落ち度だから仕方ねぇってのは理解できる。だが、当事者の記憶まで改竄しちまうのは、きっとアイツも望まねぇだろう」

「貴殿がそこまでいうのなら、私には特に異論は無い。好きにしたまえ」


ロードとルーベンスさんの会話に口を挟めないでいると、ヴェリウスがくぁ~と可愛いあくびをしたので少しだけホッとした。

真面目な話についていけないのでヴェリウスを撫でていたいが、それはロードが許してくれそうもない。がっちりホールドされているからね。


「ではミヤビ殿、お願いできるかね」

「あ、はい。準備が出来たら教えてください。私はいつでも大丈夫なので」

「ふむ。私の方は多少修正する程度で終わるのでな。後は……第3師団長、貴殿の準備が整い次第声をかけてくれたまえ」


さすがルーベンスさん。すでに準備万端で話をふってきていたようだ。


「わかった。アナシスタに話を通す必要があるんでな。少し時間をくれ」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




アナシスタ視点



ルマンド王国南方の港町“ジーメイク”



「旦那さま! お帰りなさいませ!!」


花のような笑顔で出迎えてくれたのは、俺の愛しいつがい。

お仕えする主に反旗を翻すという大罪を犯した俺に、こんな幸せがあっていいのかと心苦しく思うが、彼女の居ない日々など考えられないというのも本音だ。

裏切り者のこんな俺の為に、奔走してくれた師団長には感謝してもし足りない。


「ヤナ、ただいま。俺の愛しい人」


片膝をつき、つがいの手を取りその甲に口付ける。

ヤナは頬を薔薇色に染め、潤んだ瞳を向けてくるので、あまりの可愛らしさについ腕の中へ閉じ込めてしまう。


「ふふっ 旦那さま、ロヴィンゴッドウェル様からお手紙が届いておりますよ」


その透き通るように白い指でそっと俺の頬を撫で、精霊様にも勝る美貌の微笑みを浮かべたつがいは、そう言って飾り気のない白封筒を差し出してきた。

あまりの簡素さに師団長らしいと笑いがこぼれる。


「師団長はお元気だろうか」


あの厳めしい顔を思い出しながら、妻から受け取った封筒を開く。


「ロヴィンゴッドウェル様は精霊様とご結婚されたんですよね! 最近お子様もお生まれになったとかっ 奥様とお子さまの近況が書かれているのでしょうか!」

「そうだね。……おや、これは」


瞳を輝かせ俺の返事を待つつがいに、一体どう答えて良いのか戸惑う内容の手紙を、俺は唖然と見つめていた。



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