63.アナシスタ・ベルノ・レブーク
ミヤビ視点
魔物事件から1週間。王宮はバタバタしているらしいと聞いて近づかなかったが、そろそろ良いんじゃないかとやって来た私の目に飛び込んできたもの。
「うわぁ~!! 王都に海が出来てる!!」
そう、“海”だ。
『ミヤビ様、あれは海ではなく湖です。地下水がマカロンのブレスによって地上に湧き出たものなので塩分は含まれておりません』
「湖!? マカロンのブレス!? ツッコミどころが多過ぎて何から聞いたら良いの!?」
珍しく一緒に行くと言い出したヴェリウスを連れ、王宮内を散策していたのだが、初耳のことに脳内が混乱中である。
『人型魔物との戦闘で発生したドロップ品の中に、例の召還アイテムがあったようで、それを偶々使用した人間が、マカロンを召還しこのような事になったのだとか』
あのレアアイテム出ちゃったの!? しかもよりにもよってマカロンを召還って!!
「な、何でマカロンはブレス攻撃したのかな……?」
恐る恐るヴェリウスに訪ねれば、彼女は溜め息を吐く。
『どうやら人間にお湯を出せと言われたらしく、地面を掘ればお湯が出てくるとミヤビ様から教えてもらったのを思い出し行動を起こしたのだとか』
元凶私だったーーーーー!!!? てかなんでお湯!?
何より、
「ルーベンスさんキレてなかった?」
『ミヤビ様、貴女様はこの世で最も尊い御方。人間ごときの顔色など窺う必要はありません』
ヴェリウスよ。例え神や創造主であっても、顔色を窺わないといけない時はあるのだよ。
「謝りに行こう。手土産を持って」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ロード視点
「“アナシスタ・ベルノ・レブーク”を第3師団師団長の補佐官として召還する」
「ぁ゛あ゛?!」
宰相に呼び出され告げられた言葉に顎が外れそうになった。
“アナシスタ・ベルノ・レブーク”。元第3師団の副師団長で俺の親友の息子であり、俺が最も信頼していた優秀な部下……だった。
つがいが病にかかり、陛下に反旗を翻したダンジョー元公爵の片棒を担がされるまでは。
現在は王都を追放され、冒険者として活動している。
「アイツは王都を追われ、平民に身を落とし冒険者として活動している。それを呼び戻すだと?」
「そうだ。第3師団の副師団長候補として獣人達に圧倒的な支持をされているリンは、元王族とはいえ今は平民。しかも経験不足は周知の事実。今のままでは副師団長として認められるとも思えん。師団長は事務処理が苦手で役に立たんしな」
「ほっとけ!!」
「馬鹿者が。貴殿の師団の仕事が滞っているおかげでこちらの仕事も滞ると言っているのだ」
宰相の正論に目をそらす。
「そこでアナシスタに目をつけたわけか。でもアイツは犯罪者だぜ。それも王族に反旗を翻した大罪だ。あんたが許したとしても周りは許さねぇだろ」
「確かに、アナシスタ・ベルノ・レブークとして戻ってくる事は難しいだろう」
「なら、」
やっぱり無理じゃねぇかと続けようとしたのだが、
「アナシスタ・ベルノ・レブークには別人として戻ってきてもらうほかないだろう」
「はぁ?!」
「レブークの能力は冒険者としておいておくにはあまりにも惜しい」
「いや、そりゃあ俺だって……「すんませんでしたーーーー!!!!」あ゛?」
バンッと豪快に扉が開き、この真剣な雰囲気をぶち破って執務室に入ってきたのは俺の可愛いつがいだった。
「ウチのペットが大変な事をやらかしまして、誠にっ 誠に申し訳ありませんでした!! お詫びといってはなんですが、こちらをお納めいただきたく……っ」
『ミヤビ様!! そのような事を貴女様がなさる必要はないのです!!』
「いやいや。人間はね、礼儀を重んじる生き物だから! 全面的にこっちが悪いんだから誠心誠意謝罪しないと!!」
誠心誠意の謝罪に賄賂はどうかと思うぞ。そんな所が可愛いんだけどな。
「……神獣様、何かございましたでしょうか」
ミヤビをスルーし片膝をつき挨拶すると、何事かと伺いをたてる宰相。神王に対してかなり失礼だが、神王が平謝りしながら入室してくるのだから目をそらしたくもなるだろう。
「おめぇは何やってんだ」
正座をし、賄賂を持った手をピンと伸ばしてプルプルさせているミヤビを抱き上げる。
「ロードっ マカロンが王都に湖作ったの!! 大変な事しちゃって、もう謝るしかないと思って!! ロードも一緒に謝ってくれる?!」
「オメェの為ならなんだってしてやる」
可愛すぎるつがいのお願いに相好が崩れる。
「ミヤビ殿、謝罪というのであれば一つ要望があるのだが良いかね?」
「はい!! 何でしょうか!?」
ミヤビ……おめぇもう少し神王っていう自覚を持ってくれ。




