62.課題が山積みで押し潰されそうです
ロード視点
━━━……かくして、騎士団に冒険者、エルフの神、そしてバカドラゴンの活躍により虫の脅威からルマンド王都は守られた。めでたしめでたし。
で、話が終わりゃあよかったんだけどな。
「貴殿がいながらみすみす人型の魔物を逃すとはどういう事なのだね」
「仕方ねぇだろ。いつの間にか姿を消してたんだからよぉ」
『ふんっ お主の場合久々の戦いに浮かれて、途中から人型の魔物の存在を忘れていただけなのだろう』
「ぐっ わ、忘れちゃいねぇよ!」
『まぁ良い。過ぎてしまったものは仕方があるまい。奴等の好む物は把握しているのだ。こちらに利がある事は変わらぬ』
避難している人々や陛下、貴族達への説明等を済ませ、落ち着いた頃にヴェリウス、宰相、師団長達と、内情を理解している奴等を集めての話し合いが行われているのだが、ヴェリウスに痛い所をつかれ何も言えなくなる。
「ミヤビ殿が作った負のエネルギーの塊はすでに処理しているんだったよね」
「ああ。粉砕して消し去った」
あれは危険物だったからな。早めに処理しとかねぇと。
カルロの問いに答えれば、「なら当面ルマンド王都に現れる事はないだろうね……」と呟く。それに頷きヴェリウスを見れば、溜め息を吐き口を開いた。
『だからこそ何処に現れるかわからぬのが面倒なのだ。昔のように各国の冒険者が狩るというのならまだしも、今やその役割さえも忘れさられ、力も足りぬ』
「特にルマンド王国では神獣様の影響は大きいですからね。魔物を魔獣と混同し、狩ってはならないものだと考える者が大半を占めています。国からギルドへ魔物退治の要請というのも現状厳しいかと……」
レンメイが行き詰まったような顔をして俯く。
『魔物に対抗する力がなくてはままならぬ。仕方あるまい……暫くはこちら(神族)で対処する事にしよう』
ヴェリウスの一言でその場に安堵したような空気が広がる。とはいえ、このまま神に頼りっぱなしのままにもできねぇだろう。
魔物騒動の話し合いは人型の魔物という大きな課題を残し、重い空気のまま幕を閉じたのだった。
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「お帰りなさーい」
クソ可愛い笑みで迎えてくれた(※実際はリビングのソファでぐうたらしていた)最愛のつがいを腕の中に閉じ込める。
「ミヤビ~。俺を癒してくれ!」
「はぃ??」
「俺ぁ今日メチャクチャ頑張ったんだ。だから褒めてくれ!」
「あ、例の人型の魔物? 面倒な事任せっきりにしてごめんね」
よしよし、と腕を伸ばし頭を撫でてくれるミヤビを抱き締め頬擦りをする。
あ~良い匂いだ。スベスベで柔らかで癒される……いや、興奮する。
「人型の魔物はどうなったの? ってどこ触って……ッ」
「魔物の事ぁオメェが気にする程じゃねぇさ。それより早く癒してくれよ」
可愛い尻を撫でながら寝室へと足を動かす。今の俺にゃミヤビが不足してるんでな。補充しねぇと。
「おィィィ!! これR18じゃないから!! 止まれエロオヤジ!! ちょ、ほうれんそうは大事デスヨ!? 魔物の報告聞きたいな~……ちょっとロードさん!?」
ペチペチと肩をはたいてくるが、痛くも痒くもねぇ。んだこの仔猫のパンチは。可愛すぎんだろ。
「仕方ねぇなぁ。報告はベッドの中でついでにしてやっから」
「そんな報告方法は望んでませんから!!!」
俺だってベッドで報告なんぞしたくねぇよ。でも聞きてぇっつーつがいの願いは叶えてやらねぇと男じゃねぇだろ。
「そんなお願いしてませんーーーーー!!!!」
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ロリーオ視点
「カルロ!! ルーベンス!! 王都が港町になってるんだけどォォォ!!!!??」
巨大虫の大群に取り囲まれたかと思えば、なんでか西門側の景色が海に一変したルマンドの王都。
話には聞いていたけど、実際目にしてあまりの驚きに腰を抜かしてしまった僕は、苦笑いしているカルロと、相変わらず無表情のルーベンスを前にパニック状態だ。
「あれは海ではなく湖です。陛下」
僕が求めていた答えはそういうのじゃない。
「豊富な水源と思わぬ財源を手に入れましたので、難航しておりました上下水道計画もスムーズに進みそうです」
ルーベンスご機嫌だね!!? 無表情だけど。
「ざ、財源って、虫を倒した時に出てきた“ドロップ品”とかいう……?」
“ドロップ品”とは、先程の緊急会議で貴族達が目の色を変えた鉱石類の数々だ。
ロードがいくつか拾ってきたようだけど、一つだけでもかなりの価値がありそうなものだった。
各門に騎士団を派遣し集めたドロップ品は相当な数になるようで、財務大臣が大喜びしていた。上下水道だけでなく、今回の被害補償にもあてたいと爛々とした目を向けられ乾いた笑いしか出てこなかった。
しかし、門周辺の畑の被害はあったものの、人的被害はなく、補償もドロップ品で何とかなりそうだし、結果良かったのか……な??
「忙しさは増しましたがね」
「人手不足が当面の課題ですね」
うん。二人とも現実を直視させないで。僕もう倒れそうだから。
「陛下、このクソ……ゴホンッ 大変忙しい時に遊ばせておく人材は無いと思いませんかな」
「え、うん。そうだね」
ルーベンスの言葉に頷けば、「提案があります」と不吉な笑みを浮かべるので、顔が引きつり嫌な汗がこめかみをつたって絨毯に消えていった。
誰でもいいから今すぐ僕を助けて下さい。




