閑話 ~音楽革命1~
「みーちゃん!! ドラムとベースとギター出して!!!!」
「はい?」
トモコの突然の言葉に、人をダメにするあのソファでだらけきっていた私の口から、非常に間の抜けた声が発せられた。
「━━━……で、なんでそんな話になったのか、一から順序だてて話していただけますかね。トモコさんよ」
姿勢を正して座り直し、机の上にあった急須からトモコの湯呑みにお茶を注げば、ふわりと香り立つ緑茶に少し冷静になる。
目の前のトモコはニコニコと微笑み入れたばかりのお茶をずずっとすするとぷはぁと息を吐き口を開いた。
「私はこの世界の音楽に革命を起こすのだ!!」
全く順序だてて話せてないですが?
娯楽の少ないこの世界で、貴族から庶民まで身分問わずに最も愛されているものは何か。
それは“音楽”である。
まもなく終わりを向かえそうだった世界で人々の荒んだ心に癒しを与えた音楽は、この世界になくてはならないものだといえよう。
しかし残念な事に、楽器の種類が地球と比べ極端に少ない事、そしてTVやSNSなど世界中に拡散する術が無い事でジャンルもクラシックをベースに留まり、爆発的に増える事はなかった。
華やかで壮大なクラシックは貴族のパーティーでは欠かせないものなので、地球よりの曲も多くあるが、ポップスやロック、レゲエなどといったノリの良い曲は皆無といっても良い。
近しいものは庶民の間で流行っているようだが、それもバイオリンをメインに机や椅子を叩いたり手拍子したりで作り出す感じのもので、つまりはトモコの好きなゲーム音楽やアニメソング、激しいロックには程遠いのである。
「それでドラムとベースとギターってわけか……」
「そうなの!! クラシックも悪くないんだけどさ、ずっとそれだとつまらないでしょ~!! だから私は革命を起こすのだ!!」
うん。アホの子だ。
「あのね、トモコはドラムもベースもギターも弾けないでしょ。トモコが楽器で演奏できるのは、縦笛と鍵盤ハーモニカとピアノだよね」
「失礼な!! カスタネットとタンバリンも得意だよ!!」
そんなどうでも良い補足はいらない。
「トモコ君や。ドラムとベースとギターを出したとしても、演奏できなきゃ革命とやらは起こせないのだよ」
「!!!? そ、そんな……っ そんな事ないよ!! ドラムとかギターとかロードさんなら演奏出来そうじゃん!! そんな顔してるしッ」
いや出来そうだけどさ。出来そうなだけで実際出来るかといったら、多分壊して終わりだよ。
「そもそも、クラシックをベースにした音楽しか聞いたことない人達に、突然ロックだアニソンだのを聞かせても受け入れ難いんじゃないかなぁ」
演歌大好きなおじいちゃんおばあちゃんが若者のノリのポップスに首を傾げるあの現象が起きるに決まっている。
「そこは私にも考えがあってね! まずはクラシックをベースにノリの良い曲を披露して、そこから徐々にポップスに移行していけば無理もないと思うんだよね!!」
ああ。それなら大丈夫そうだけど……って違う。そもそも楽器を演奏出来る者がいない事が問題なのだ。
『それならば、“音楽の神”に演奏してもらえば良いのではないでしょうか?』
私の横で眠っていたヴェリウスが、くぁぁと大きなあくびをしながら話に入ってきた。トモコが騒いだ為に起きたのだろう。
「“音楽の神”?? そんな神がいるの??」
トモコが首をかしげ私を見てくるので頷く。
トモコは十神は知っているが、メジャーでない神には会った事がないので知らないのだ。
私が創った神は地球の神と同じように相当数存在する。
光や水、地に火などの有名どころも居るわけだが、創った順番が十神が早かったためにそれらがメジャーになってしまったのだ。
『トモコよ。神々の事は一通り教えたはずだぞ。何故覚えておらぬのだ』
鼻の頭にシワを寄せてチラリと牙を覗かせるヴェリウスに、トモコが目を泳がせる。
「“音楽の神”なら確かにどんな楽器も演奏出来そうだね……うん。なら、トモコの言う音楽革命のお披露目会は、天空神殿で盛大に行おう!!」
『まずは神々にミヤビ様の新音楽をお披露目という事ですね。そういう事であればすぐ準備に取りかかります』
すくっと立ち上がり、尻尾を振るとヴェリウスは氷の結晶を撒き散らして姿を消した。
ヴェリウスってパーティーとかお祭り好きだよね。
「え? み、みーちゃん??」
「さ。トモコ。“音楽の神”に会いに行くよ」
「へ?」




