59.いつからここは港町になったのかね
ロード視点
ウチのマカロン(バカ)がやりやがった。
最近は浮島に仲間のドラゴンが加わったもんだから、そっちに居る事が多かったせいか大人しく感じていたが、やっぱりマカロン(バカ)はマカロン(バカ)だった。
ドラゴンのブレスはただでさえ威力の強いもんだが、まさかそれを神王の近くに侍るドラゴンが吐くなんて……!!
本当ならブレスの衝撃波(余波)で王都が消滅する所を、結界を張ってやり過ごしたがこりゃ後で説教だな。
何が起きたんだって顔して口をパクパクさせている部下も、何で“湯を出せ”なんて願ったのか。
どっちの行動も予想外すぎて頭が痛ぇ。
膨大な熱エネルギーが局地的に解放された為か、キノコのような形の雲が空を覆いその後直ぐに噴き出した水が雨のように降り注ぎ地を満たしていく。
確実にルマンド王都周辺の地形が変わった。
西門前に、まるで海のような巨大湖が現れて目眩がする。
「いつからここは港町になったのかね」と宰相の嫌味が聞こえてくるようだ。
「いやこれお湯じゃなくて水ゥゥゥ!!!!」
俺の周りにまともな奴はいねぇのか!
部下のツッコミが耳に届き、今すぐミヤビに癒されたくなった。
《あれ~? おかしいなぁ。地面を掘ったらお湯が出てくるってミヤビ様が言ってたのに~??》
「お前本当何やってくれてんのォォ!!!!?」
《ぅう~っ なんでぇ? ミヤビ様が僕に嘘ついた~》
「師団長ぉ!? このドラゴン泣き出したんですけどぉ!?」
おい。聞き捨てならねぇ事をバカが口にしやがったぞ……
《ぅえ~~ッ ミヤビざまがうぞづいだ~~!!》
「くっそドラゴン!!!! てめぇ俺のミヤビが嘘なんぞ吐くわけねぇだろ!!!! ぶっ殺すぞ!!!!」
《ぅ゛あ゛~~~ん!!!!》
「ちょ、師団長。なにもそこまで怒鳴らなくても……」
「ぁ゛あ゛!!? 俺のつがいを嘘つき呼ばわりされて許せってのかぁ!?」
「ヒィィィィ!!! す、すんませんーーーー!!」
このくそドラゴン絶対ぇ許さねぇ!!
《地面掘ればお湯が出るって言ったのに~!!》
「もうお前帰れ!! な!? でないと殺される!! 師団長に殺される!! 見ろあの顔を!!!!」
《ぅう……かえってもいいの~?》
「良いよ!! お湯は出なかったけど、虫共は殲滅されたし、ありがとうな!! だから帰って下さいお願いします!!!」
《うん。僕かえる~~》
「意外とあっさり!?」
一発ぶん殴ってやろうと拳に力を入れた刹那、マカロンが光だしそして消えやがったのだ!
あの野郎逃げやがったな!! 今すぐ後を追ってぶん殴ってやる!!!!
「師団長!! 何だかんだで虫もいなくなりましたし、ここは抑えていただけないですかね!!!? はた迷惑なドラゴンも消えましたし、あっほら!! 他の門の虫も退治しにいかねぇと!!!!」
クソッ 後で絶対ぇ殴るからな!! 逃げられると思うなよ!!
「あー勿体ねぇ……あの水の底にお宝が沈んだって事だよなぁ」
「あの凶悪なドラゴンが倒した虫の数、相当だしな」
「俺ぁあのドラゴンにいつ攻撃されるかと、おっかなびっくりでそれどころじゃなかったぜ。オメェらよくそんな事言ってられるな」
冒険者がぼやいているが、んな事より早く終わらせてあのバカドラゴンをボコりに行く!!
顔を洗って待ってろよ!! マカロン!!!!
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雅視点
澄み渡る青い空。髪を揺らす優しい風。眼下に見えるのはファンタジー感溢れる街並み。
この緩やかな時間の流れに身を任せていると、睡魔が襲ってきて抗う事などできない。
重い瞼を数回開閉しつつ、夢の世界へと旅立とうとしていたその時である。
「あれ? 何か上空に光の塊が……」
トモコの訝しげな声がはっきり届き、ハッとして目を開いた。
『雅様のお昼寝の邪魔をするとは……許せぬ』
ヴェリウスがくわぁと欠伸をしつつ呟いた。私のお昼寝の邪魔だと言ってはいるが、多分自分のお昼寝の邪魔をされた事に怒っている。
空を見上げると、確かに光の塊が……ん?
《ミヤビ様~!! どうして僕に嘘ついたの~~??》
徐々に収まっていく光の中から現れたのは、ずびずびと鼻をすすりながら文句を言っているマカロンだった。
「え? なに?? 嘘??」
《地面ほったらお湯がでてくるって言ったのに、水がでてきた~~》
バサバサ羽ばたいてやってくるマカロンに首を傾げる。
「水?? なんの話かな?」
《僕ね~、お湯だしてって言われてね、ミヤビ様が地面ほったらお湯でるって教えてくれたでしょ~。だから地面にブレスしたの。そしたら水がでたの~~。なんで嘘ついたの~?》
半泣きで訴えられるが、一体この子は何をしてきたのか。
「ブレスで地面ほって水だしたの??」
《うん……お湯じゃなかった~》
「一体どこの地面掘ったの?」
『マカロン。貴様ミヤビ様に嘘吐きだと!? なんという無礼なッ』
鼻水を垂らし、涙目になっているマカロンに威嚇するヴェリウス。マカロンはそれを見てとうとう泣き出してしまった。
「こらこら。ヴェリウスはそんなに怒らないの。マカロンは泣いてないでちゃんと話を聞かせて」
『しかしミヤビ様……っ』
「まぁまぁ。マカロンなんだし、いつもの事だよ」
『ミヤビ様はマカロンに甘過ぎます!!』
そうは言ってもね。マカロンはまだ子供だしおバカだから仕方がないのだ。
《うわ~ん!! ずびっ ぅう……》
「ほらマカロン。おやつあげるから泣き止んで」
《お゛や゛づ~~》
マカロンは巨大化させたホットケーキを泣きながら食べ、やっと涙を引っ込めた。
「それで、どこにブレス吐いて穴開けたの?」
この時の私は、どうせドラゴンの浮島で遊んでいたんだろうと軽く考えていたのだ。
まさかマカロンがルマンド王都の地形を変えているなど思いもしなかったのである━━━……




