47.タイミングで危機に陥る世界
「レンメイさん、それはリンが決める事なんですか?」
すでに存在自体は獣王となっているリンだが、王になるかならないかはその国の民の意見も不可欠だろうし、なんならリンが王様になりますと言って国王になれるわけではないだろう。
「勿論リンの意志は必要ですが、それだけで国王になれるものでもないんですよね?」
「オレは国王になんてならねぇよ!!」
そう言えばレンメイさんは瞳を瞬く。
リンが何か喚いているが、それはこの際無視しよう。
「くくっ ミヤビの言うとおりだな」
クツクツと笑い私の頭を雑に撫でてきたロードは、レンメイさんに「まぁそんなに焦っても仕方ねぇよな」と前置きしてここに集まった一同を見る。
「リンが“獣王”となった事ぁ事実だ。十中八九フォルプローム側にも知られちまってるだろうしな」
『会場に居た獣人の中にも、薄々勘づいた者はいるだろう。獣人は強者に従う性質。遅かれ早かれリンに惹かれ集まってくる者もあるだろう』
ロードとヴェリウスの話にリン本人は当惑している様子だ。
「ま、そん時ぁそん時の話だな。それより問題なのは、「“人型の魔物”かね」」
ルーベンスさんが被せ気味にはいた言葉に若干嫌な顔を隠せないロード。
そこは隠そうよ。この世界で一番私達をお世話してくれてるの、ルーベンスさんだよ。
『そうだ。魔素の枯渇、十神二枠の交代、そして神王様の出産と続いた事で世界の正負のバランスが崩れてしまった……』
深刻な声で話すヴェリウスに緊張感が増す室内。誰かが息を飲む音すら大きく聞こえる。
「神獣様、十神二枠の交代とは一体……っ」
困惑気味のレンメイさんに、『ふむ。そこからか』と呟くとウチの優秀犬ヴェリウスは淡々と説明し始めたのだ。
内部事情に詳しいルーベンスさんはここぞとばかりに食後のお茶を用意しだしゆったりくつろいでいるので、この人大分神々の問題事に慣れたなと目を逸らす。
『十神の事は知っているな』
「はい。創世の神々はルマンド国民であれば必ず学ぶものですから」
『うむ。その十神の内二枠がここ数年の間に代替わりをしたのだ』
「「な…ッ!!!?」」
『正負の均衡を保つ事は十神の力も無関係ではないのでな。代替わりによってバランスが多少崩れた事は確かだ。しかし、神王様がいらっしゃる今、そのよう事は歯牙にかけるようなものでもなかった。しかし……』
タイミングが悪かったのだ。
代替わりをしたのは魔素が満ちたばかりの安定しない時期。それだけならば“人型の魔物”もさほど脅威ではなかったはずだ。人間だけで対処可能な程には。
問題なのは、私が出産したあの瞬間の“力のブレ”だろう。
今まで創造主が自身で直接的に出産する事など例を見ない。長い創造主生の中でも私が初めてだと思われる。
生命を産み落とし、双子に分裂したあの瞬間。私の力が一瞬ブレたのだ。
その一瞬が、奴等の強化に繋がったのである。
「そういえば、ミヤビ殿が先程王宮の人々の様子が【ずっとおかしいと思っていた】と仰っていましたが、あれはどういう事なのでしょうか?」
レンメイさんの言葉にああ…と頷く。
「最初から王宮の人達って私に対して懐疑的でしたよね」
「……確かに、精霊様には失礼のないようにと何度か注意した事はあります」
「レンメイ、それはおかしいよ。ミヤビ殿が精霊様だと思われていた時も、神獣様が大切にされていたのは端から見ても理解できた。王宮内の者達がそんな御方を邪険に扱うなどあり得ないんじゃないかな」
「それは私もおかしいとは思っていましたが、失礼な態度を取るものは一纏めに処分しましたので解決したものだと……成る程、そういう事ですか。つまりミヤビ殿は、彼らの不可解な態度は正負の均衡が崩れた影響だと、そう思われているのですね」
そうです。と頷き、今どれだけ危機的な状況なのかを知ってもらう。
「とはいえ、処分された人達皆が人型の魔物に喰われ始めているわけではありません。世界の負のエネルギーが強くなっている為、その影響を受けているのではないかと思います」
リンと対戦したあの貴族は喰われ始めていたけどね。
「あいつ……さっきの奴の黒い沼も、負のエネルギーの影響なのか?」
その言葉に首を横に振ると、予測がついていたのか「そうか」と呟くリン。
「あの人はまだ初期段階だから、適切な処置をすれば死ぬ事はないよ」
人間には正のエネルギーも負のエネルギーも必要なのだ。どちらが欠けても生きていけない繊細な生物である。
「処置って、どんな事するんだよ」
「あの貴族の人の体内には今、魔物の一部が入ってるんだけど、それを取り除くの」
「そんな事どうやって……」
喰いつくしてない人間から魔物を引き剥がす方法はただ一つ。
「勿論、好物で誘き出すんだよ」




