44.神王様の弱点
“人型の魔物”
読んで字のごとく見た目は人間によく似た魔物で、魔物の中でもトップクラスの強さを誇る。
よく魔族と勘違いされるが全く違う。そもそも魔物は人間ではなく、魔素と負のエネルギーの塊であるので生物ですらないのだ。
しかし奴等の嫌な所は、生物でもないのに斬れば血のような液体が吹き出すし、臓器のようなものまである。まぁ倒してしまえばそれらも塵となって消えるのだが、これは人が嫌がりそうなものを再現しているのではないかと言われている。しかし、実際のところはよく分かっていない。
何よりも問題なのは、魔物は負のエネルギーを集めて餌にし成長する事だ。
つまり人間の悪意や怒り、焦り、嫉妬心、様々な負の感情に引き寄せられる傾向にある。
特に強い負の感情を持つ者の内部に自身の一部を入り込ませ、それらを増幅させて最後に喰らうというのが人型の魔物の特性だ。勿論負のエネルギーを喰らわれた人間は死に至る。
人型は人間に近付く為に進化したといっても過言ではないだろう。
そもそも、この魔物というのは私が生み出したものではない。人間を創造した時に出来たイレギュラーなのだ。
「ミヤビ殿が人間を創造……?」
魔物が出来た時は本当にびびった。他の創造神にも相談した位焦った。
“地球の”曰く、どうやら人間を創造した世界には“負のエネルギー”が必ず発生するらしい。そして負のエネルギーは蓄積され、“地球の”の世界では災害や犯罪が多発するようになり、私の世界では魔素と結びつき魔物となるのだとか。“ロボの”の世界には見られない現象だと言われたので、“地球の”が言う事は正しいのだろう。
つまり負のエネルギーが無くならない限り魔物がいなくなる事はないのだ。
手っ取り早く取り除く方法は人間を消す事だが、それをしてしまうと私の理想とする世界が創れないので却下である。
「ま、待って下さい!! ミヤビ殿が理想の世界を創るとは??」
唯一の救いは、奴等は物理攻撃で倒す事ができる所か。魔法も効くが、魔力を吸収、無効化する者もいるので注意が必要だ。
とにかく、そんなわけで人間から発生したものは人間に退治してもらおうと思ったのだが、人間達も死の危険がある者にわざわざ近付いたりしないもので、積極的には退治しなかった。
そうなるとどんどん魔物が増えて、最終的にとんでもないものが誕生したのである。今思い出してもおぞましい。出来るなら思い出したくもないものが。
あの時は、一度この世界をぶっ壊そうかと思うほど動揺したよね。
『あの時は神王様の暴走で世界の3分の1が消し飛びましたね』
「まさか、ミヤビ殿は神王様の御息女ではなく、御本人!!!?」
けど、神々の必死の訴えにこれでは駄目だと考え、思案した結果思い付いたのが“ドロップアイテム”だった。
魔物を倒せば価値のあるものが手に入るようにすれば、人間も積極的に奴等を倒すのではないか、と。
「もう何から突っ込めばいいのかわかりませんよ!?」
こうして“冒険者”という職業ができ、魔物は人間が倒すという暗黙のルールが出来たのである。
「出来たのである。じゃねぇだろ。つまり魔物は神王ですら歓迎できねぇ世界の害悪って事じゃねぇか。しかもヴェリウスのいう人型の魔物ってなぁ相当ヤベェんだろ。つーか、レンメイはさっきからうるせぇよ」
「いはい、いはい。ほっへひっははひゃひへ!!(訳: 痛い、痛い。ほっぺ引っ張らないで!!)」
私の話を聞きながらほっぺを引っ張るロードに抗議していると、ヴェリウスが首を横に振って言ったのだ。
『神王様が動揺されたのは人型魔物でない。虫型魔物だ』
「ぎゃああぁぁぁ!!!! ヴェリウス止めてぇッ 奴等の事は話にも聞きたくない!! 想像したくない!! 思い出したくもない!!!!」
騒ぎ出す私を見てヴェリウスが大きな溜め息を吐く。
『神々の中にもアレらが苦手だという者は大勢いるが……神王様は特に苦手でな』
「おい。神王の弱点を人間の前で曝してんじゃねぇ。ただでさえ弱点が多いんだぜ」
『ふん。人間ごときに何ができるというのだ。それに、人間がやらねばならんのは神王様にソレをお見せする前に滅する事であろう』
ヴェリウスの言葉と私の怯えように察したトモコが、真っ青な顔で「みーちゃんの苦手な虫型魔物ってまさか……」と呟く。そのまさかだ。日本では”おかん”しか立ち向かえないと言われる、黒光りしながら素早く動き、たまに飛ぶアレである。
「「ぎゃああぁぁぁぁぁ!!!!」」
お互い思い出したせいか鳥肌と共に叫び声が上がる。
「どうした!?」と悲鳴を上げた私達に慌てて寄ってくるロード達に、虫型魔物を想像して気持ち悪くなって悲鳴が上がったと説明したら呆れられた。
「ふふっ レンメイ。ミヤビ殿が何者であっても、ミヤビ殿はミヤビ殿だね」
「カルロ……そのようですね。まぁ、御息女でも御本人でも大きくは変わりませんしね」
カルロさんとレンメイさんのそんな諦め混じりの会話がなされているとは露知らず、私は虫型魔物フラグがたってしまった事に怯えていたのだ。
え? リンはどうしたって。リンは心配いらないよ。だって━━━……
「……っオレは、負けるわけにはいかないんだぁぁぁ!!!!!!」
ほらね。




