40.四天王伝説1
「あ゛ーー 俺もそろそろ体動かしてぇ……」
御前試合も午前の部を終え、食事休憩に入った頃。
屋台飯を堪能し戻ってきた私達の前で、貧乏揺すりをしながらボソリ呟くロードに、カルロさんが苦笑して「もう少しの我慢だよ」と宥めている図が展開されていた。それはまるでイラつくゴリラを宥める調教師のようである。
「師団長は試合に出ないんだっけ?」
父親ロードのイライラが移ったのか、ご機嫌ななめになってきた我が子達を抱っこしながら聞けば、レンメイさんから答えが返ってくる。
「我々師団長が予選から出れば、試合参加者枠が3つも減る事になりますからね」
すごい自信だ。
ロードはまだしも、レンメイさんとカルロさんはそんなに強いのだろうか?
「俺のつがいの質問に俺より早く答えてんじゃねぇよ」とわけのわからない事を言いながらレンメイさんに絡むロードに呆れつつ考える。
カルロさんを筆頭に、師団長達は国民にかなりの人気がある。カルロさんやレンメイさんは文句なくイケメンなのでわかるが、圧倒的に人気なのは強面で貴族のお嬢様からは盗賊の頭とまで言われているロードなのだ。
3人しかいないのに、何故か四天王と言われている事も気になっていたが、このゴリラ……ロードの人気の高さには疑問しかない。
少し前、トリミーさんからロードが凄い人だという事は教えてもらったが、それにしてもそこまで人気がある理由がわからないのだ。
「やっぱりロード様が一番格好良いな!!」
「男から見てもあの筋肉にゃ惚れ惚れするぜぇ!!」
「あのデケェ双剣を操る姿には感服するよ!」
などと圧倒的、野郎たちからの支持率の高さ。しかし女性のファンもいるところが侮れないのである。
「あんな分厚い胸板に抱かれたい!!」だとか、「強面もまたロード様の魅力よね」だとか、玄人っぽいナイスバディーのお姉さま方が言っているのを聞いた時には顎が外れるかと思った。
隣に居たトモコが「みーちゃんヤキモチやいちゃう~?」とニヤニヤしていたのには腹がたったが、考えてみればロードは玄人受けしそうな地位と容姿と性格な気がしなくもない。
人族でなければきっと美女を取っ替え引っ替えしていたに違いないのだ。
美女の腰に手を回すロード……何か絵になる所がムカつく。
「みーちゃ~ん……お~い。何か妄想して怒ってない~?」
トモコの声にハッとして現実に戻る。
目の前には未だ、レンメイさんに絡んでいるゴリラと宥めているカルロさんという光景が続いている事で冷静になる。
「ロードってなんで国民に支持されてるの?」
「ミヤビよぉ、その心底不思議って面ぁめちゃくちゃ可愛いけど、俺に対して失礼じゃねぇか」
「さすがミヤビ殿。我々が常日頃思っていた事をストレートに本人に投げ掛けるとは、腹がよじれそうですよ」
私が言うのもなんだが、レンメイさんが至極真面目な顔をして結構酷い事を言っている。
「もしかしてミヤビ殿は、ロードの昔の話はあまり聞かされてないのかな?」
カルロさんの言葉に、義父母からはロードの子供の頃の話を聞かされてはいるが本人からは聞いてないと答えると、ニコニコ笑って「ならどうしてロードがこんなに国民から支持されているのかも含めて、昔話をしてあげるよ」と言われたのだ。
ロードはそれに対してぎゃーぎゃー言っていたけど、何だか面白そうだったので頷いて姿勢を正したのである。
「あれは私達師団長になる前の頃━━━……」
◆◆◆
ロードの人気を語るには、彼の親友である男の話を聞いてもらわないと始まらないんだ。
ロードの親友の名前はトーイ・ヒューバート・レブーク。“第4師団長”だった男だよ。
そう、私達が四天王と呼ばれているのは、師団長が4人いたからなんだ。
残念ながら彼は若くして亡くなってしまったけれどね。
ロードが民に知られた切欠は、この御前試合だって事は知ってるよね?
当時、貴族の養子になったとはいえ庶民出身の騎士というのは珍しくてね。そんな中でロードは、庶民で唯一御前試合に出場し、大出世を果たした。いわばルマンドドリームを掴んだ庶民の憧れさ。そう。国民に圧倒的に支持されている根本は彼の出自にある。
もっともそれは、ロードの名が広まる切欠にすぎなかった。
彼が伝説とまで言われ、国民に絶大な人気を誇るようになったのは、トーイが“相棒”として存在したからなんだよ。




