38.制御できない力
リン視点
「第3試合!! イーオ選手、リン選手!!!! 前へッ」
舞台上から審判員が声を張り上げる。
舞台脇のベンチで待機していたオレは、その声に立ち上がると舞台へ向かって歩き出す。
昔なら緊張で震えていたかもしれないが、ミヤビというとんでもない問題児に色々と巻き込まれ続けたせいか、恐ろしい程冷静な自分に自分が驚いている位だ。
「絶対ぇ勝てよ!! なめられんじゃねーぞ!!」
後ろからの友人(神)の声援に、もう仕事場の上下関係を気にしているのもバカらしくなってきた。
どうせ勝っても負けても騎士団に居辛くなるなら、全力で勝つしかないだろう。
大きく息を吸い込み吐き出すと、心を決めて舞台へと上がったのだ。
「覚悟はいいか?」
舞台上で対面した相手は、やはりさっき絡んできたあの貴族だった。
ニヤニヤと笑いながら話し掛けてくる男は、オレが負けると信じて疑わないのだろう。
《第3試合はイーオ選手VSリン選手です!!》
《共に第3師団に所属しており、互いに手札をよく知る相手ではないかと思われます。リン選手は期待のルーキーと言われる程の腕前と評判です。一方2年先輩であるイーオ選手は槍の達人で、槍術の名門ボルケード流派の免許皆伝なのだそうです~!!》
《狭き門を潜り抜けてきた期待のルーキーと槍術の名手対決ですね!! どちらも頑張ってほしいですねぇ》
ミヤビとトモコの声が会場中に響くが、残念ながら同じ第3師団の割に、今まであまり関わりがなかったから手札なんて知らないし、槍術の名手とか初耳だ。
オレはいたって普通の剣しか使えないから、槍のように間合いが広い武器だとやりにくいかもしれないな……。開始直後に間合いを詰めて懐に入るか、それとも様子を見るべきか……。
などと考えていた時もありマシタ。
「━━━……しょ、勝者っ リン選手!!!!」
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ミヤビ視点
開始の声がかかった瞬間だった。
リンの姿が消えたのだ。
「え、消え……」
と唖然としていたら、今まで余裕綽々に槍を鷹揚に構えようとしていたイーオ選手が場外に吹っ飛んだのだ。
構えようとした槍はその手から離れ、宙を舞い、主の背中が場外の地面についた2秒後にガシャンという音をたてて落ちた。
観客は一瞬何があったのか理解できておらず、会場中が静まり返るという前代未聞の事態である。
舞台上では、先程姿を消したリンが一人佇み、場外に落ちたイーオ選手を呆然と見ていた。
「しょ、勝者っ リン選手!!!!」
一足早くに気を取り直した審判員が声を張り上げる。
それに観客達もハッとしてどよめいたのだが、当人であるリンは自分の手と場外のイーオ選手を見比べて顔色を悪くしているではないか。
一体何があったのか……。
「自分の実力を把握していなかったようだな」
「え? なんて??」
前の席に座るロードがボソッと呟いたので聞き返す。
「恐らく、トモコの解説で槍の名手だっつぅ情報を鵜呑みにしたリンが全力で仕掛けた結果がアレだ。まぁ慌てて直前に止まろうとしたみてぇだがな」
「はぁ? つまり相手が弱すぎたって事??」
「そういうこった」
ならリンは、自分の強さにびっくりして呆然と佇んでいたと?
トモコを見ればニヤニヤと笑っているので恐る恐る声を掛けてみる。
「と、トモコ? なんでそんないやらしい笑い方してるのカナ?」
「だってみーちゃん。あの余裕綽々でゆっくり槍を構えてる間に吹っ飛ばされるって、ちょっとツボに入ったよ」
ああ、吹き出しそうになってるのを我慢してニヤニヤになったのね。
「槍の名手という割に油断しすぎですね」
「確かに油断もあったけど、そもそも実力が違いすぎたね。最初の油断がなくても試合になってなかったと思うよ。あんな人材が第3に居るなんて、どうして教えてくれなかったんだい?」
レンメイさんは眼鏡のずれを直しながら冷たい目をイーオ選手に向け、カルロさんはどうしてリンを紹介してくれなかったんだとロードに詰め寄っている。
「みーちゃん、実況忘れてるよ!」
「あ!! …ゴホンッ リン選手が消えたと思ったらイーオ選手が場外に吹っ飛んだァァァ!!! あっという間の出来事でしたが、一体何があったのでしょうか!? カルロさんの解説と共にスローモーションで映像を見てみましょう!!」
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リン視点
何だ、今の……っ
最近身体が軽いと思っていたけど、跳躍する際に足に力を入れた時、自分で思うよりも力が入った上に、飛び出したスピードも制御できないほどだった。慌ててスピードを緩めようと相手の槍に剣の刃をあてて反動で止まろうとしたら何故か相手は飛んでいくし、スピードは落ちないもんだから風魔法を使ったら槍は宙を舞うしで意味が分からない。
気付けば試合相手は場外に倒れて気を失っていた。
《リン選手が消えたと思ったらイーオ選手が場外に吹っ飛んだァァァ!!! あっという間の出来事でしたが、一体何があったのでしょうか!? カルロさんの解説と共にスローモーションで映像を見てみましょう!!》
ミヤビの声と共にさっきの映像がモニターに映る。何度みても不思議だが、それどころじゃない。
制御不能な自分の力に震えが走った。
マジかよ……っ




