37.御前試合、騎士部門
「さぁ、始まりました御前試合2日目!! 本日はルマンド王国騎士団の中でも選りすぐりの腕自慢達が集い、騎士最強が決定する日!!! いやぁ楽しみですねぇ。解説の“謎の美女”さん」
「そうですね~。舞台の修復も完璧ですし、選手達は心置きなく戦えるでしょう」
いよいよ始まる御前試合の騎士の部。私とトモコは引続き実況と解説としてロード達の後ろに隠され参加している。
すでに盛り上がりを見せる観客席は満員御礼で、皆外の屋台で購入した食べ物や飲み物を手に持ち、今か今かと舞台に注目しているのだ。
「試合の前にここで改めてルールのおさらいをしましょう! 舞台上から落ちる、降参する、気絶するなどした場合負けとなります。武器は何を使用しても構いません。魔法、素手での応戦も勿論大丈夫です。しかし、相手を死に至らしめた場合は即失格の上騎士の資格は剥奪されますのでご注意下さい」
「まさに異種格闘技戦ですね~。騎士=剣のイメージでしたが、よく考えてみれば、騎士とは国の守護者です。強くて紳士で正義感があれば問題ありませんよね~」
「その通りです!!」
私達の言葉に「その通りですじゃねぇよ」とロードがツッコむがスルーし、会場を盛り上げていく。
前日よりもボルテージの上がった会場は熱気をおび、じっとりと汗が出てくる程だ。
「では第1試合━━━……」
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リン視点
「おい、平民」
バカにしたような呼び掛けで行く手を阻まれ足を止める。
控室から舞台脇へ移動しようと部屋を出てすぐの事だ。
「お前分かってるだろうな」
「……何の事でしょうか」
ニヤニヤ笑いながら話しかけてくる男の顔には、嘲りの表情が浮かんでいる。
確かこいつは貴族派の中心にいる子爵の取り巻きの1人だと思い出す。
「何の事、だと? どうやらお前は立場を弁えていない愚か者のようだな。お前達平民はこの御前試合で貴族である俺達の引き立て役なんだよ」
こいつは何が言いたいんだ? この言い方だと、オレの試合相手はこいつか。
「自分の立場を良く考えて試合にのぞむことだな」
つまりこの男は、試合でオレに負けろと言っているのか。
「なにやってんだ?」
突然肩に重さを感じ、溜め息を吐きたくなった。
「アル……ここは関係者以外立ち入り禁止だ」
「そんな固いこと言うなって。それよりコイツ何?」
急に現れたエルフの神、アルフォンスが俺の肩に腕を回したまま不躾に目の前の男を見る。
アルフォンスの奴、転移してきたんだな。絡んできた男が口を開けたまま目を見開いてんじゃねぇか。
「な、な、なんだお前は!? ど、どこから現れた!?」
「何だはこっちの台詞だっての。お前こそ誰だよ。なめてんじゃねぇぞ」
メンチを切りはじめたアルを宥めるが、相手を睨み付ける事を止めないので前へ出て視線を遮った。
アルをこの貴族に関わらせるのはマズイ。
「オレ達は用事があるのでこれで失礼します」
「は!? お、おいッ」
アルの腕を引っ張り足早にその場を去る。
なんでこいつら神々はなんでもかんでも首を突っ込みたがるんだ!!
「━━━……なぁ、なぁって。無視すんなよ」
舞台脇のベンチに腰掛け大きく息を吐く。
問題児ばかりの神々に辟易していると、無視されていると思ったのか隣でアルが声を掛けてきた。
「何でお前ら神は問題を大きくしようとするんだ」
「は? トモコじゃねぇんだからそんな事しねぇよ」
「してるんだよ! 頼むから誰彼なしに喧嘩を売るなよ」
「リンがなめられてるようだったから牽制してやったんだろ。んだよありゃ。人をバカにしたような話し方しやがってよぉ」
コイツ、いつから見てたんだよ。
「お前アイツと試合すんだろ? 絶対ぇ勝てよな!! なめられたまま終わったら承知しねぇからな!!」
また面倒な事言い出しやがった。
「御前試合は喧嘩じゃないんだぞ」
「試合もなめられねぇように相手を叩き潰すんだから喧嘩みてぇなもんだろうが。お前はつがい神様の部下なんだから、それこそ立場をわからせてやれ!」
違う。つがい神様の部下じゃなくて第3師団長の部下だ。オレは普通の人間だ。精霊の類いに入れてくれるな。
「はぁ……アル、オレは《カバ獣人、ナスビ選手の勝利が決まったァ!!!! これは手に汗握る良い試合でした!!》」
会場に響き渡るミヤビの声に観客席は熱狂し、俺達の会話が途切れてしまった。
次はオレの試合だ。貴族派相手にどう立ち回るか……。
もしオレが勝ってしまえば、最悪騎士団に居られなくなるかもしれない。わざと負ければ騎士は続けられるが師団長には呆れられ、この先貴族派に屈する事になる。何よりもわざと負けるだなんて騎士道精神に外れるような真似はできない。
「第3試合、イーオ選手、リン選手っ 舞台へ!!」
一体どうすればいいんだ━━━……




