36.呪術
「逮捕って……ヤコウ鳥をギルドに買い取ってもらおうとして通報されたっていうあの前代未聞の?」
その通りだけど、トモコよ。なんでそんなにニヤニヤしながら話してるのかな。思い出し笑いしないで。
「ゴホンッ ……その騒動の時にギルドに張り切って現れたのがあそこにいる人なんだけど、」
何やら悪そうな顔をして舞台へ上がり、床を見ながら喋っている男達を見る。
「あの真ん中の偉そうな人?」
「うん。他の騎士が私を見て子供じゃないかって戸惑ってた時にも、大声で「連行しろ!!」って叫んでたよ。お役目に忠実な真面目な人だなぁって思ってたけど」
トモコと話していれば、何やら“札”のようなものを床に張り出したのだ。その札は床に張った途端溶けるように消えてしまった。一体何なのだろう?
「何か怪しい事してるねぇ~」
トモコの呟きに頷きながら男達の動向をうかがう。
その後男達は一言二言交わし、そそくさとその場を立ち去ったのだ。
「みーちゃん、あれってさ……“呪術”、だよね」
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ロード視点
『ロードよ。ミヤビ様が珍しく剣術の真似事をされているぞ』
御前試合の会議が終わり、引続き警備関係の会議を宰相と師団長のみで行っていれば、突然室内に現れたヴェリウスが来て早々そんな事をのたまった。
「あ゛? どういうこった」
ヴェリウスに跪いている宰相やカルロ達を横目に問えば、上機嫌に続ける。
『前々からおぬしの剣技に興味を持たれていた様子であったが、今日の試合で触発されたらしい。あの舞台上で戯れに木の棒を振り回されているのだ』
母親のような優しげな瞳で語るヴェリウスに、いてもたってもいられなくなった俺は席を立った。
俺のつがい嫁が可愛すぎる!!!!
「ロード、会議中ですよっ どこに行く気ですか!!」
レンメイがハッとしたように叫ぶが今はミヤビだ。
俺の剣技に興味を持ってたとか、棒を振り回してるとかアイツはどんだけ可愛いんだ! 今すぐこの目にその光景を焼きつけてぇ!!
「俺ぁつがいの様子を見てくっから、オメェらは会議続けててくれや」
「何を勝手な……ッ「話はほぼ終わっているからね。後で書類を確認しておいてくれ」」
レンメイを遮ってカルロがそう微笑むので、「わりぃ」とこたえて転移した。
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雅視点
男達が去って暫く後、コロッセオにバチバチと派手な雷が発生してロードが現れた。
「あ、ロード」
「ミヤビ! ……あ゛? もう終わっちまったのか……」
急に落ち込んでしまったロードに首を傾げていると、こちらへ走ってきたロードに抱き上げられる。
「ロード?? どうしたの」
「ヴェリウスからお前が棒を振り回してるって聞いてな。そんな可愛い光景、見ずにはいられねぇだろ」
「え!? なんでヴェリウスがその事を!?」
キョロキョロ辺りを見回すが私達以外見当たらない。
『ミヤビ様と御子様方には私の眷属を護衛につけておりますので、私が知らぬ事などありません』
いつの間にか転移してきていたヴェリウスの声にビクッとする。
ていうか、監視されてたのね……。
『あの事は黙っておきますのでご安心ください』
バレてるゥゥ!!!!
前髪ぱっつん事件を知られていたとは……犬だから表情が読みにくいけど、怒ってはいないようなので良かった……のだろうか?
「?? しっかしオメェ、俺の剣技に憧れてたんだってなぁ」
「はい?」
「早く言ってくれりゃあいくらでも近くで見せてやったのによぉ」
「?? 何? ロードに憧れ??」
このゴリラは一体何を言っているんだとトモコとヴェリウスを見れば、ヴェリウスが呆れたように溜め息を吐く。
『私はミヤビ様がロードの剣技に興味をお持ちだと言っただけです。憧れていると言った覚えはありません』
ああ。そういう……。
「しっかしオメェが棒を振り回してる姿、見たかったぜ」
「本職に見られるのはちょっと……」
「可愛かったんだろうなぁ。ミヤビだもんな」
もしかして棒を振り回してる姿を見る為だけにここへ駆け付けたのだろうか。
「みーちゃん、あの事言わなくていいの?」
「トモコ君。ぱっつん事件は忘れようか」
余計な事を言うでない!! とトモコを睨めば、そっちじゃないと首を横に振られた。
「怪しい男達の話だよ」
「あ゛? 怪しい男だぁ?」
トモコの言葉に耳敏く反応するロードはさすが師団長様だ。
「あ、それね」
「何の事だ。また問題起こしたんじゃねぇだろうなぁ」
さっきのデレッとした顔から一変、ヤクザになったロードに凄まれる。
「いつも問題起こしてるみたいな言い方は止めてくださーい」
「いつも問題起こしてんだろ」
言い返せない事こそ最大の問題だ。
「もう。イチャイチャしてないで話を進めようよ!」
どの辺りがイチャイチャなんだとトモコに訴えるが無視された。それでも心友なのか。
「さっきロードさん達が来る前に数人の騎士がやって来てね、舞台上の床に“呪術”を仕掛けていったんだよ~」
結局さっさとトモコが説明してしまった。
「“呪術”だぁ?」
訝しげに舞台上を見るロードは、多分鑑定しているのだろう。そして遠い目をして言ったのだ。
「放っとけ」




