31.前門の虎 後門の狼
リン視点
少し時間を遡り、一般の部開会前の騎士達の控室での事━━━……
「次の者!!」
「はい!!」
気合いの入りまくった同僚、上司達が列をなしている。その列の先にあるのはミヤビが作ったらしい“ワシ”とかいう紙で、普段業務で使用する紙のサイズではなく、もっと大きなものが壁にはりつけてあった。
そこに細かく線が引いてあり、番号もふってある。
列の先で行われているくじ引きをし、それを事務官に渡すと番号の下に名前を書き込まれる。
事務官曰く、それは“トーナメント表”というらしい。
なるほど。各々の対戦相手がひと目でわかり、勝敗や次の対戦相手までわかるのだ。これを考えた者はかなり頭が良いのだろう。
「次!!」
俺の番が来たようだ。
「はい!!」
前列に居た先輩と同じように名前と所属を伝えてくじを引く。
5番だった。引いたくじを渡し部屋を出る。相手はまだわからないが特に興味はない。誰であろうと全力を出しきるだけだ。
退室する際、まだ列に並んでいた貴族派の騎士に笑われた気がしたが、一体なんだったのだろうか。
「リン、どうだった?」
控室から出てすぐ、廊下で待っていた先輩に声をかけられた。
「5番でした。対戦相手は名前が書かれていなかったのでまだ分からないですが」
「そうか……お前確か貴族出身じゃねぇよな?」
「はい。庶民ですけど……?」
先輩は俺の返事を聞いてしばし思案した後、真面目な顔をして口を開いた。
「気をつけろよ。庶民で後ろ楯もない下っ端のお前は、貴族派の絶好の的だ。奴ら今回の御前試合で何か企んでやがるみたいだからな……」
先輩の言葉に、先程嫌な笑い方をしていた貴族派を思い出す。
何か企んでるって、御前試合で一体何を企むっていうんだ。
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雅視点
前後左右を自撮りする若い女子とカップルに囲まれ、そのカメラに写り込まないように避け続ける事2時間、やっとのことで乗った5分のアトラクション。
長蛇の列に並ぶこと30分。思い出すのは遊園地で人気アトラクションに並んだ果てしない列である。
「スマホなんて無いからさすがに自撮りしてる人は居ないけど、どの世界でも美味しいものには並ぶんだね」
「異世界でも変わらないって面白いよね~」
私がぼそり呟いた言葉を拾い上げ、アハハと笑いながら返事をするトモコは、目を細めて行列を見る。
「自撮りってさ、2~3時間延々と撮り続けるものなんだって、アトラクションの行列に並んで初めて知ったよ……」などと遠い目をするトモコに笑ってしまった。
「こ、これはミヤビ様!!!? ど、どうしてこちらに!? いえ、それよりまさかこの列にお並びに!?」
「ちょっ 土下座は止めて下さい!!」
30分以上並んでやっと買えると思った矢先の出来事だった。
仰天しながら土下座をしようとした屋台の店主を止め、店主の態度にざわつき出した周りを気にしつつ話しかける。
「何で土下座なんてしようと……って、あれ? もしかしてロードの実家の……?」
顔を上げた店主を見て気付く。
この人、ロードの実家に居た料理人だと。
「!? 覚えていてくださり光栄です!!」
「何でここで屋台を出してるんですか??」
もしかしてあの後クビにされたとか!?
「勿論、ミヤビさまが仰った“ピロシキ”なるものを完成させる為に旅に出たのです!! 今は旅費を稼ぐ為に屋台を出させていただいております!」
ピロシキ作る為に旅ィィィ!!!?
「みーちゃん……」
トモコよ、そんな顔をしないでほしい。私だってわざとじゃないんだ。まさか旅に出るとは思わないだろう。
ピロシキをロードの実家で作ってもらう事によって料理人の技術が上がり、また行った時に美味しいものが食べれるかもしれない。そんな軽い気持ちで言った事がまさか、義兄の料理人を奪う結果になろうとは……。
ここはもう話をそらすしかない!
「わ、私達はここで美味しいものが食べられると聞いてやって来たんです。良かったらその食べ物を売ってもらえますか?」
後ろの行列の圧もすごいし、早く売ってもらってここから去りたい。
「とんでもない!! まだ中途半端なものしか作れてはおりませんので、ミヤビ様に召し上がっていただくことなどとてもできません!!」
拒否されたーーー!!!!
トモコを見ると、自業自得だよという表情をされた。
「そ、そこをなんとか!!」
「それは……我等の過ちを許さぬという事でしょうか」
店主はこの世の終わりといった風に項垂れる。その様子に思い出したのだ。
“次に私達が訪れるまでに、それを作れるようになっていて下さい。それで今回の事は水に流しますので”
そう言った覚えあるぅぅ!!
「違っ 許さないとかではなく、これだけ評判だし、食べてみたいってだけで! そもそもあなた方が悪いことなんて一つもないわけですし!?」
「ミヤビ様……なんと慈悲深い……ッ」
どうしよう。前方に涙を流す店主、後方にイライラし始めているお客さん……まさに前門の虎後門の狼。
「それで、売ってくれるのでしょうか?」
「本当にこのようなものでよろしいのですか!?」
「勿論、今売ってるものが食べたいんです!」
私の必死の頼みにやっと店主も折れてくれ、評判となっているジャンクフードを揚げ始めたのだ。
後ろのお客さんとは目を合わせることもできないが、これでやっと食べれる……と思った私が悪かったのか。
「ミヤビ様からお金をいただくわけにはまいりません!!」
ちょっともう勘弁してください。




