29.人はそれを八百長と呼ぶ
人類の強さの域超えてるんですけどォォ!!!?
心の中で絶叫しながら盛大に引きつった顔をトモコに向ければ、コテンと首を傾げてヘラリと笑う美女に言葉を無くす。
ロードよ。私よりもトモコの方が問題を起こしているじゃないか。
文句を言いたいが、言ったら言ったで私が槍玉に上げられそうなので口をつぐむ。
「他とはレベルの異なる試合ですね……」
眼鏡をくいっと上げながら呟くレンメイさんの横で、カルロさんが睨むように舞台上を見つめていた。
「さっきの試合よりゃ楽しめそうだな」
足を組み、ふんぞり返るように座っているロードは何様だと言わんばかりに上から目線だ。
「確か一般の部で優勝したら、四天王の一人と試合出来るんだっけ」
街で聞いた噂を思い出し、目の前の3人を見る。
「おう。好きな相手を優勝者が指名して殺り合うんだ。俺を指名してくれりゃあ良いんだがなぁ」
ウキウキした声で応えるロードに「へぇ」と相槌をうちながら、舞台が跡形もなく消えたらどうしようかと変な汗が滲み出てきた。
「みーちゃん、舞台よりも観客に被害が出るかも~?」
私の思考を読んだトモコがヘラヘラ笑って言った一言に血の気が引く。
確かに、バードさんとガットが剣を交えただけで風が舞うのだ。鬼神と精霊、もしくはSSランクの冒険者が戦ったらどうなるか……。
そんな恐ろしい想像をしている間にも、観客が茫然、騒然とするような試合は続いていた。
「ここまではほぼ互角に見えるバード選手とガット選手ですが、四天王の皆様はどう見ますか?」
「確かに一見力は拮抗しているように見えますが……」
「ああ。息をきらすバード選手に対し、ガット選手はほとんど最初と変わりないようだね」
頑張って実況を続け四天王に振ってみれば、レンメイさんとカルロさんが真剣な表情で応えてくれる。
カルロさんは先程から舞台上に目線を固定させ、一度もそらさない程の熱心さだ。
「なんか、カルロさんがあんなに熱心に試合を見るなんて意外だね」
実況の合間にこそっとトモコに囁く。
「カルロは穏やかそうに見えて武闘派だぜ。強ぇ奴の戦いなら興味も尽きねぇだろ」
何故か地獄耳のロードから答えが返ってきたが、カルロさんがまさかの武闘派脳筋部族だったとは……人は見かけによらないものだ。
ドォォォン!!!!
何かが爆発したかのような轟音に驚き、慌てて発生源の舞台を見る。
もくもくと土煙があがる中、その中心では二つの影が微かに見える程度で、皆が必死に目を凝らす。
「これは一体何事でしょうか!? 突然の爆発? と共に土煙があがり舞台上が見えません!!」
「爆発の直前にバード選手の剣が光ったように見えましたが、何が起きたのでしょうか~?」
私が一瞬余所見している間、トモコ曰くバードさんの剣が光ったらしい。
「もしかすると、剣に魔法を纏わせ攻撃したのかもしれませんね……とはいえ魔素が尽き、人類が魔法を使用できなくなって久しいですから、いくら魔素が満ちたとはいえ魔族でもない者が魔法を使用するなど有り得ない事です」
レンメイさんの解説に観客達がどよめく。
そうこうしている内に土煙が晴れていき、舞台上の二人の姿が現れた。
「バード選手、ガット選手の姿が現れましたーーー!!」
そこには、中心にぽっかりと大きな穴が空き、石の残骸がゴロゴロと転がった無惨な舞台と、穴の端に立って肩で息をするバードさん、そして倒れているガットの姿があった。
そう。あの精霊であるガットが倒れているのだ。
いくら人間に強力な魔法を放たれたとはいえ、精霊があんな風に倒れるのはおかしいだろう。
舞台に穴が空くほどの威力だったとしても、精霊の力と人間の力の差は歴然である。
「いや、あれわざと倒れてない?」
「一応精霊には優勝したらだめだよって言い聞かせてるからね。ウチの精霊の演技力すごいでしょ~」
やはりトモコの仕業だったのか。
あんなに力が拮抗していたのも、魔法で負けたふりをするのも、確かにすごい演技力だが……
トモコよ、人はそれを八百長と呼ぶのだ。
見てみろ。バードさんのあの顔を。
ものすごく胡散臭げにガットを見てるじゃないか。
「……ガット選手、バード選手の攻撃に敗れたーーー!!!!」
しかし私は実況。どんなに胡散臭くても観客を盛り上げねばならないのだ!!
実際、私の言葉を聞いた観客は大興奮でバードさんを称えている。ガットに駆け寄る審判員の判定を待ち、バードさんの勝ちが決まった瞬間のあの拍手と称賛の嵐は、比倫を絶するものであった。
その後、リプレイで光る剣での攻撃をスローで紹介した所、バードさんの魔法が風魔法でありそれを剣に纏わせた事で舞台が抉れる程の攻撃力を発揮した事実が発覚。さらに会場は沸いた。
勿論敗れたガットを称賛する声も少なくはなかった。
しかし人族で魔力をここまでコントロールするバードさんは、今回の試合で伝説となったのである。
そして、一般の部で優勝をかっさらっていったのは他でもないバードさんであった。




