58 ミーンミアSIDE(その6)
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パーーーーーーーーーーーーーン
ロフェイへの平手打ちの音。ずっと頭に鳴り響いていた。
慌てて飛びだしてきたことに、少々後悔している。ロフェイからちゃんと話を聞くべきではなかったのか? そもそもわたしに平手打ちされるような筋合いなんてなかったはずだ。
怒っているだろうか。
わたし……馬鹿みたい。
戻るべきかどうか悩んでいると、一台の馬車が城門から出てきた。乗客がわたしを見つけ、話をすることとなった。
彼女は娼婦を自称する獣人。馬車の中でロフェイに関する誤解を解いた。
ホッとした。しかし焦りが生じた。早くロフェイに謝らなくては。同時に不安にもなった。嫌われたのではないかと。
彼女からはまた別の情報をもらうことができた。ロフェイは積極的にグイグイと迫ってくる女の人に弱いそうだ。知らなかった。思いもしなかったことだ。
ふと、ある人物のことが頭に浮かんだ。
受付嬢ルーシャだ。以前、彼女がロフェイの家に入っていくのを、目撃したことがある。積極的にグイグイと……。
動揺とともに押し寄せる危機感。もし結ばれたいのだとしたら、あのくらいのことをしなければならないのだろう。だったら遠慮なんてしていたら駄目。嫌われるかもって躊躇していたら駄目。図々しいって思われるくらいじゃなければ駄目。
わたしにできるだろうか?
無理。無理。無理。無理。無理。無理。無理。
だいたい、わたしが望んだところで……。
深い溜息をついた。
四日後。軍本部施設が壊滅的被害を受けてから三日後のことだ。
マハ・コーリシャスのギルドから通知が来た。
えっ、エキシビションマッチの相手が決まった?
対戦者なんて久々だった。あまりにも彼女が強すぎるから、皆、地元ギルドの名誉がかかっていようとも、彼女との対戦だけは断固拒否するのだ。そんな中で、対戦を受け入れたということは、よほど戦闘力に自信のある相手なのかもしれない。
さて。困ったことになった。
わたしがコーリシャス城へ呼ばれる前日のことだけど、彼女は「出かけてくる」と言って宿を飛びだしていったきり、そのまま帰ってきていないのだ。本当に自由気ままな人だから……。対戦はあさって。もし戻ってこなかったらどうしよう。
対戦者はピヤレ町のギルド代表。
ピヤレ町ギルドの成績は5勝7敗のようだ。全体では負け越している。だからといって油断はできない。実は1勝1敗から6連敗したのち、ピヤレ町ギルドは代人を雇ったらしい。代人の名はアウズ。ここまで4戦4勝。
きょうもアウズの対戦があるそうだ。
わたしは偵察の意味で競技場に行ってみた。
酷い試合だった。
一方的な展開でアウズの勝利。勝負は決まっていたのに、アウズは相手にトドメを刺した。開催者側からキツく注意を受けたが、本人は平然と知らん顔。観衆の話し声によれば毎度のことだとか。ピヤレ町のギルドは、とんだ荒くれ者を雇ったものだ。
とうとう対戦日となった。
まだ彼女は来ていなかった。
わたしは一人でエキシビションマッチの競技場へ行かなければならなかった。対戦者はあのアウズ。わたしは力不足だ。戦ったら殺されてしまうだろう。
多くの冒険者が彼女との対戦を拒否したように、わたしもアウズとの対戦を拒否したらいいのではないか?
ううん、駄目に決まってる。
本来、ウルスロ町のギルドの代表者はロフェイだった。それなのに、事情があるとは言え勝手な自己判断で、わたしが代表者となって登録した。責任がある。負けることは仕方ないとしても、対戦拒否なんてできるわけがない。
もし逃げたら、わたしたちのギルドの名に傷をつけるばかりではなく、リムネや旦那様方にも迷惑がかかってしまう。それにわたしの身分は奴隷だ。自分の命欲しさで不戦を望むなら、それこそ社会的に死ぬこととなる。いずれにしたって死ぬのかもしれない。
競技場に到着。
彼女はまだ来ない……。当然だ。きょうが対戦日なんて知っているわけがない。対戦が決まったことについて、わたしはまだ彼女に伝えられていないのだ。
対戦者のアウズはすでに競技場の中央にいた。
わたしを待っているのだ。
足がすくんだ。
何を怖じ気づいているの、ミーンミア! わたしは冒険者でしょ。いままで命を賭けて、たくさんのモンスターと戦ってきたんじゃないの。町のギルドのために、町の皆のために、勇気を出して頑張らないと。
だけど正直、怖い……。
いますぐ来て、わたしの代人。
ゆっくり歩いて競技場の中央へ。
アウズと向かい合った。
「きょう死ぬのはケモノか」
すごい形相で睨んでいる。
もう駄目だ……。
コト コト コト コト
なんの音? ああ、足音ね。後ろからこっちに来る。
誰の? 彼女の? 良かった。もう、遅いんだから!
でもどうして対戦の日時を知っていたの?
振り向いた。
あっ。
瞬きを繰り返した。
ロフェイ…………。
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