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50/61

50 手持ち無沙汰


「……………………」(無言)

「……………………」(無言)


「……………………」(気まずさ)

「……………………」(気まずさ)


「……………………」(無言)

「…………何かイライラされているようですが」



 金ピカな部屋の中、オレとルルロコとで二人きり。

 この長く続いた静寂を、とうとう彼女が破ってくれた。


「イライラなんてことはない。オレは至って平静だ」

「お客様の鼓動の鳴り方、ストレスを受けているような感じでした」


「ストレスまでわかるのか? しかしそれはアンタの気のせいだ」

「気のせいでしょうか。失礼いたしました」


 やっぱり獣人族は耳がいいようだ。



「……………………」

「……………………」


「……………………」

「……………………」



 ルルロコの目が瞬きを繰り返す。

 イライラしていたのは、彼女も同じだったのかもしれない。


「ルルロコ嬢、客と会話が続かないときってどうしてる?」

「その場合、すぐに行為に及んでおります」


 訊いたオレが馬鹿だった。


 面白い話題を探さなくては。

 いいや、この際、面白くなくてもいい。

 話題、何かないだろうか。



「……………………」

「……………………」


「……………………」

「……………………」


「……………………」

「お客様、もし手持ち無沙汰でしたら……」



 何かいい話題でも思いついたか?


「おう、なんだ」

「せっかくですので行為に及びませんか? 時間が潰せます」


 そりゃ時間は潰せるだろう。


「いや、いい。そういうの気が乗らないんでな」

「やはり面倒なお客様ですね」


 ルルロコが小さく笑った。

 でもなんだか空気がよくなった気もする。


「ルルロコ嬢、きょうは悪い客に当たったな」

「はい、まったくです」


 笑い方に無邪気さが加わった。


 ふと、ミーンミアのことを考えた。


 もし彼女がリムネの屋敷に買われていなかったら?

 もしルルロコ嬢の店のようなところに買われていたら?

 嫌な客とも、楽しそうに会話していたのだろうか……。

 性欲の塊の連中にも、笑顔を向けていたのだろうか……。

 オレは胸が絞めつけられるような感覚に見舞われた。


「どうされました? 小さな溜息が聞こえましたが」

「ううん。ちょっとつまらない考えごとをしただけだ」


 かしげた顔を寄せてくる。


「ずいぶん退屈されているようですね。そのようなとき、お客様のような面倒なご性分ですと、あれこれと余計なことを考えてしまわれるのでしょう。少し肩の力を抜いてはいかがですか?」


「肩の力を抜くってどうやるんだよ」


「すでにたくさんの金貨を、ディーフィー様が支払われております。ご面倒なお客様だとは存じあげておりますが、もし気が変わられましたら、いつでもわたくしを自由にお使いくださいませ」


 またそっちの話にいったか。


「さっきから面倒面倒……って。オレのこと、嫌なヤツだと思ってるだろ」


 ルルロコは細長い指を、そっと唇に置いた。


「口が裂けてもそのようなことは申せません」

「遠慮すんなって。正直に言っても平気だぜ」


 しばらくオレに顔を向け続けたのち、答えた。


「では大変恐れ入りますが、正直に申します。はい、ご名答です。最低最悪、最も苦手なタイプです……………………お客様としましては」


「なんだそりゃ。客としてはって」


「お客様の大切なご友人様、わたくしと同じ獣人族とのお話ですが、心底羨ましく感じます」


 ベッドに腰をかけていたルルロコは、そのまま横たわった。


「暇疲れいたしました。この苦痛を癒やすため、誠に勝手ながら眠らせていただきます。もしご用などできましたら、お気軽に起こしてくださいませ。誠心誠意ご対応いたします」


「わかった。夕飯の時間になったら起こしてやる」


 彼女は服のボタンを緩め、布団の中に潜った。

 やがてスゥスゥという寝息が聞こえてきた。


 本当に眠りやがった。


 オレにも睡魔が襲ってきた。

 そして知らず知らずのうちにウトウトし始めていた。



 コン コン



 ノックがあった。

 おや? ディーフィーが戻ってきたのか。


 ドアが開かれる。そこに紳士が立っていた。彼はディーフィーの使いでやってきたのだとか。そして簡単な伝言を口にし、すぐに去っていった。


「わたくしたち、せっかくいいムードになってきましたのに、いまのお方が台無しにされていきました」


 一人でベッドに寝そべったまま彼女が言った。


「なんだ、もう起きたのか。けど、いまのどこがいいムードなんだよ」


「まあ、でしたらわたくしの勘違いだったのでしょうか。寝ぼけていたのかもしれませんね。もう一度眠ることにします」



 さて、さきほどの紳士の残した伝言内容を思い返す。


 ここマハ・コーリシャスにおいて、吸血魔人による襲撃があったそうだ。この話を聞き、すぐ頭に浮かんだのは赤髪のグフルーゴだった。しかし襲撃者は一人だけではないのだという。集団らしい。


 アイツら、とうとうやりやがったか。


 鉄格子から逃がしてやったことを、あらためて悔いる。アイツらにも言い分はあるだろうが、この町でヒト族が死んだらオレの責任だ。


 何が正しいのかなんてわからない。もしかするとアイツらの方が正しいのかもしれない。たとえそうだとしても、いまはどうにか阻止したい。このことでオレに何かできないものだろうか。


 ディーフィーからの伝言のことだが、さきほどの紳士は最後にこう言っていた。襲撃を受けたことについて、いまから相談したいと。



 コン コン



 二度目のノックがあった。

 早速、ディーフィーが相談にきたようだ。

 ドアが開く。



 あっ!!!!!!!!



 思わず自分の目を疑った。

 そこに立っているのは、間違いなくディーフィーだ。


 ただもう一人いる。


 どうして……どうして……どうして……。

 どうしてここに?


 ディーフィーがオレに一礼する。


「せっかく寛いでいるところを、突然すまない。吸血魔人の襲撃について相談がある。ぜひともロフェイに協力してほしいんだ。まずはこちらの方を紹介しよう。この件の協力者になってもらうつもりだ。彼女は……」


 言い終わらないうちに、オレは彼女の名を呼んだ。


「ミーンミア」


 彼女も酷く驚いていた。目を見開いている。


「ロフェイ! 無事でいてくれまして、ホッとしました。どれほど、どれほど、どれほど心配しましたことか」


 彼女の頬に涙が伝わった。


「ごめんな、ミーンミア。一人で領都に行かせてしまって」


 彼女は首を横に強く振った。


「きっと来てくれるとずっと信じていました。だから頑張れました」

「そういえばオレたちのギルドのために、大活躍してるそうじゃないか」


「わたしの活躍じゃないんですけどね。ロフェイに紹介したいと思っています。ですが、あの人は本当に自由奔放な人で……いまどこへ行ってしまったのでしょう。でも必ず会ってもらいます」


 ディーフィーが驚愕している。


「えっ、キミたちは知り合いだったのか!? なんという偶然。俺はロフェイの実力を知っている。それに彼女は冒険者ギルド主催のエキシビションマッチで大活躍中だ」


「ですから何度も説明しておりますとおり、活躍していますのはわたしの立てた代人です」


「あら? 新しいお客様でしょうか」


 ルルロコがベッドからむっくりと上体を起こした。

 いままで本当にまた眠っていたのか。


 ミーンミアは視線を彼女の方へと流した。


「あなたも冒険者ですか」

「いいえ、冒険者ではなく娼婦です」


 何度も瞬きを繰り返すミーンミア。


「ご、ご冗談を。では娼婦が何故ここにいるのでしょう?」

「金貨のお支払いで、お店からのお連れ出しが可能です」



 パーーーーーーーーーーーーーン



 ミーンミアの平手がオレの頬に。



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