42 獣人探し
牢獄のあった町外れから、町の中心部に向かって歩いていく。
ミーンミアのことが心配だった。獣人族ということで、吸血魔人のように牢獄にブチ込まれてはいないだろうか。早く彼女を探し出さなければならない。
『獣人を見かけなかったか?』
『町のギルドはどこにあるのか?』
町の人々に尋ね回った。しかし獣人を見かけた者も、ギルドの場所を知る者も、なかなか現れてくれなかった。
だいたい、一人の獣人を探すには町が大きすぎる。それにギルドの場所なんて、地元の冒険者ならば話は別だが、一般人だったら知らなくても不思議はないだろう。
しかし獣人について、ある目撃情報を得た。
見かけた場所は『身元不明者の遺体収容施設』ということだった。話によればイタチ系の獣人だという。ミーンミアはイイズナ系だが、獣人に精通した人でなければ区別できまい。
オレはその情報を聞き、激しい不安に襲われた。全身から血の気が引いていくのを感じた。信じたくはなかった。何かの間違いであってほしい。『身元不明者の遺体収容施設』へ急いで向かった。
ああ、ミーンミア。オレがボートから落ちたばかりに……。
遺体収容施設に到着。一気に脱力感を覚えた。誤解があったのだ。獣人というのは、遺体ではなく施設の勤務者だった。それにアライグマ系の女じゃないか。どこがイタチ系なんだよ! その勤務者と話をした。彼女も奴隷だという。
ちょうど彼女との会話の最中、新たな遺体が運び込まれた。
首筋に小さな二つの穴傷。たぶんいまのオレにも同じ傷が残っているはずだ。ふと、嫌な予感がした。案の定、この遺体は吸血魔人に殺されたものらしい。しかも殺されてから、あまり時間が経っていないそうだ。
「ここ最近、吸血魔人による被害を聞かなくなり、喜んでいたところでした。それなのに、またこんなことが……。ガッカリです」
アライグマ系獣人はそんなことを口にした。
オレは茫然とした。
殺されたのはオレのせいかもしれない。
彼らを鉄格子から解放したのはオレなのだ。
オレは彼らを助けたことについて後悔した。
それにしてもアイツらめ……。
吸血魔人の連中に文句を言わなけりゃ!
といっても居場所は不明だし、領都は広い。しかしまったく見当がつかないわけでもない。彼らは解放されたあと、牢獄からまっすぐ北へと飛んでいったのだ。あの場所から北へ行ってみるか。運が良ければ、見つかるかもしれない。
オレはいったん牢獄の場所まで戻り、そこから北へとゆっくり向かった。
「きゃああああああああ」
女の悲鳴が聞こえた。
風魔法ウインドで急ぐ。
当たりだった。
知っている顔があった。しかし吸血魔人は一人だけ。他の連中はどこにいる? まあ、彼だけでもいい。誰もいないよりはマシだ。
彼は若い赤髪男。オレの血を吸った吸血魔人だ。目つきの悪さは相変わらずだった。彼はヒト族の女の髪を乱暴に引っぱり、いまにも首筋に牙を入れようとするところだった。
赤髪男の吸血行為は中止。オレの気配を感じたようだ。じっとこっちを睨む。
「あっ、お前は!!」
「オレはこんなことをさせるために、てめぇらを解放したんじゃない」
「そんなん知るかっ。別に解放を頼んだわけじゃねえだろ」
「魔人だというだけで牢獄にブチ込まれた、という話だったはず。だが実際にはヒト族を襲ってた。投獄にはしっかり理由があったじゃないか」
「何も知らないお前が言うな! 俺ら吸血魔人はなあ、理由なき殺戮者とは違うんだ。生きるために仕方なく殺してる。仕方なくだ。人の血を吸わなくては生きていけない。お前らに穀物や肉、野菜が必要なのと同じことだ」
生きるために仕方なく……。
返す言葉を失った。
吸血魔人も吸血魔人なりに必死に生きている。人殺しは生きるため。オレは彼らを見逃すべきなのだろうか?
オレはヒト族でも魔人族でもない。魔族――つまり部外者だ。彼らの問題にどうして首を出せるだろうか。魔族にとっちゃ、ヒト族も魔人族もいっしょ。オレには関係ない。
そうだな。何も考えず放っておけばいいのかもしれない。やりたきゃ好きにやってろと。
だが……。そう簡単に割り切れるものだろうか。リムネとヘスナートというヒト族の仲間が二人いる。当然、ヒト族の方に肩入れしたくもなる。これって間違ったことなのだろうか。
わからなくなってきた。
「グフルーゴ、こんなところにいたんだ」
空からヒラリと誰かがおりてきた。吸血魔人の少女だ。オレの血を臭いと言ったヤツだ。名はモアモアと言ったような気がする。
彼女はオレの姿を見つけた。こっちを指差す。
「あたいたちを助けてくれたヒト族!」
そしてふたたび赤髪男に視線を移す。
「グフルーゴがヒト族と語り合ってたなんて意外! どんな会話してたの?」
「うるせぇ。会話なんてしてねぇ。行くぞ」
「あっ、待って。グフルーゴ」
赤髪男が飛び立つと、少女も飛んでいった。
オレは二人を追うこともなく、ただ後ろ姿を眺めるだけだった。
そのあと、被害者の女を大通りまで送っていった。
ずいぶん道草を食ってしまった。
いまだにミーンミアの居場所もギルドの場所も不明のままだ。
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