36 奇妙な集落
奇妙な若い女に連れられてきたところは、これまた珍しい感じの集落だった。
共有の広い中庭を囲むように家々があるのだが、石や木材でできた建物はない。家々は崖をくり抜いて作られたものだった。
集落に入った途端、若い女はギュッと腕を組んできた。まるで集落民にオレを見せびらかしているかのようだった。
中庭のような広場にいた集落民がこっちを見ている。
崖の窓から顔を出した集落民がこっちを見ている。
皆、目つきの悪い者たちばかりだった。
ウェーブのかかった長い髪の女が歩いてきた。
「デジルが、オス連れて歩いてる?」
デジルというのは、オレを集落に案内した女の名前だろう。それはそうと、オレをオス呼ばわりかよ。初対面だぞ。
デジルと呼ばれた若い女が、オレと組んだ手にぎゅっと力を入れる。さらに体を密着させてきた。
すると、ウェーブのかかった長い髪の女は、まるで不審物でも見るように目を細めた。そのままオレに顔を近づけてくる。まず右足。そして左足。股間、腹部、胸部、そして顔。オレはじっくり観察されている。
おい、顔、近すぎるぞ。息がかかりそうだ。わっ、かかった。
オレは思わず顔を引いた。しかし彼女の顔がオレの顔を追う。今度は耳の穴まで覗き込まれた。しばらくして彼女はようやく顔を離してくれた。そして言う。
「臭ぁ~」
なんと失礼なヤツ。てか、オレ、臭いか?
「イージュ、あっち行って」
「はい、はーい」
イージュと呼ばれた長い髪の女は去っていった。
アイツはなんだったんだ。
しかし四方八方からの集落民の視線は、ますます強いものとなった。
そんなにヨソ者が珍しいのか。
また、こんなことを口にしている集落民もいる。
「なんだ、ありゃ」
「デジルが変なの拾ってきたぞ」
「まったく何を考えてるのやら」
崖をくり抜いた玄関から中に入っていった。
「ここがあたしのおウチ」
デジルの家は、壁も床も天井もまっすぐに掘られた四角い部屋だった。小さな椅子とテーブルがある。それからあれは……小さな簡易ベッドか。うずくまらなければ寝られないだろう。他にはほとんど何もなかった。
デジルが出してくれたのは、茶でもコーヒーでもなく水だった。まあいいけど。ちょっと土臭かったが、一応ありがたくいただいた。ほとんど会話はなかった。ただ座っているだけだ。
てか、オレ、こんなことをしている場合じゃなかった。オレは一刻も早くマハ・コーリシャスへ行かなければならないのだ。ここに来たのは、その情報を得るためだった。
そのことをデジルに伝えた。
「じゃあ訊いてくる」
彼女はそう言い残し、家から出ていった。
一人残され待っていると、小さな窓からまたもや視線を感じた。集落民たちがオレを覗き見ていたのだ。まるで監視でもされているような気分だ。
窓の向こうの人々がサッと逃げていった。デジルが戻ってきたのだ。彼女は家に入ってきて早々、首を大きく左右させた。
「マハ・コーリシャス、誰も知らなかった」
「そっか……。仕方ないな。だが感謝する」
領都だというのに、誰も知らないとは。
まあ、オレも知らなかったが。
情報を得られないとなると、もうこの集落に用はない。さっさと出発だ。
立ちあがろうとしたときだった――。
デジルが笑みを浮かべながら言う。
「ねえ、決闘しよっ♡」
はあ? 耳を疑った。
「決闘って、誰と誰が?」
「あたしとあんただよ」
デジルとオレ?
「何故そんなんしなきゃならないんだ」
「いいから」
「オレ、何か悪いことでもしたか。あるいは悪いこと言ったか」
「ううん、ぜんぜん。いいから、いいから」
何がいいからだ。
デジルがオレの腕を引っ張る。家を出て、広い中庭へ。
集落民が寄ってくる。
「デジル、どうした?」
「うん、この人と決闘するの」
「デジル、何を始めるんだ?」
「この人と決闘だよ」
「デジルが決闘って本当か」
「うん、ホント」
「まあ、頑張れや」
止めようとする集落民はいなかった。
さっきのイージュも姿を見せた。
「きゃっ、デジルが決闘♡」
いったい何がそんなに嬉しいんだ。
まったく意味がわからない。
中庭でオレとデジルは向き合った。本当に決闘しなくてはならないのか。せめて理由くらい教えてほしかった。
科を作るように小首をかしげるデジル。
「じゃあ始めるね」
不可解な決闘が開始された。
さて、デジルはどんな攻撃をしかけてくるのだろうか。もしや魔法でも使えるのか。それともやはり素手か。
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