32 リムネSIDE(その2)
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ミーンミアとロフェイが帰ってきた。買ってきたマニキュアをあたしに渡す。二人はミーンミアの部屋に戻っていった。
しばらくしてロフェイは帰っていった。
もちろん彼は帰る前に、あたしの部屋まで挨拶にきてくれた。でも本当に挨拶だけだった。交わした言葉はほとんどなかった。あたしは愛想笑いで見送った。
そして翌日のこと。
「まあ、このハーブ茶おいしい。香りが最高!」
読書中のあたしにミーンミアが淹れてくれたのだ。
「喜んでもらって嬉しいです」
ふと思った。
「まさか、このハーブ茶って……」
ロフェイの優勝のお祝いにするんでしょ?
「苦手なのだと聞きました」
「ええと。ロフェイはハーブが苦手だったってこと?」
ミーンミアは表情を変えずに首肯した。
「はい。ですので優勝のお祝いにはなりません」
「まあ、そうなの? 残念だわ。こんなに香りがいいのに」
あたしは自分が笑顔になっていたことに気づいた。慌てて表情を殺した。俯いているミーンミアには、たぶんさっきの顔を見られていないとは思うけど……。なんだか、ますます自分のことが嫌いになりそうだ。
彼女の背中に回って抱き締めた。
その日の午後。
ミーンミアは一人で出かけた。また買い物へ行くのだとか。もしやロフェイのところ? あたしの心は穏やかではなかった。
ロフェイのところだったらどうしよう
ロフェイのところだったらどうしよう
ロフェイのところだったらどうしよう
胸のあたりがズキズキと痛い。ふと気がつくと、彼女を尾行しているあたしがいた。ああ、最低。なんて格好悪いんだろ。やっぱり自分のことが嫌いだ。
でも驚いた。
目の前のこと――これが現実なのかと。
ミーンミアが獣人だからと毒づく人々。
ミーンミアに小石を投げつける人々。
ミーンミアの前で鼻を摘まんで見せる人々。
まったく知らなかった。これまでの自分の無知に呆れてしまった。あたしが同行しないときって、いつもこうなのか……。
もう、なんなのよっ!!
あたしのミーンミアに!
怒りが湧いてきた。あたしが文句言ってやろうか。しかしミーンミアはどんどん先へと進んでいくのだった。途中、走り出しもした。
そして買い物を終えた彼女の向かった先は……。嫌な予感らしきものが的中したようだ。ロフェイのアパートが見えてきた。
ん? 嫌な予感……って。これ、あたしにとって嫌な予感だったかぁ。
雲のかかった空を見あげた。
ゴメン、ミーンミア。こんなところまでついてきちゃって。あなたは妹みたいなものよね。素直に応援してやらなくてはならないのに。それがあたしの役目。
この場から引き返そうとした。
ところが……。
もう一人、ロフェイのアパートへと歩いていく者がいたのだ。
えっ、嘘? あたしの知っている人だった。
彼女はギルド受付嬢。何故、ルーシャが!?
受付嬢ルーシャは、あたしにもミーンミアにも気づいていない。ミーンミアは唖然としたようすだ。
ルーシャはアパートの前に立ち、玄関から中へと入っていった。ミーンミアは足を止め、踵を返して去っていく。
どういうこと? どういうこと? どういうこと?
あたしは確かめなければならない。
ミーンミアのために。
あたしもアパートのドアをノックした。
ドアがゆっくりと開く。
「こんにちは。ちょうどルーシャが見えたもので、あたしも来ちゃった」
「「リムネ?」」
「あっ、ごめんなさい。あたし、もしかしてお邪魔だった?」
「いいや、まったくそんなことはない」
部屋に入れてもらうや否や、やぶからぼうに尋ねてみた。ルーシャとの関係のことだ。実は付き合っていたの?
ロフェイは驚愕しながら否定した。嘘をついているような感じでもなかった。ではルーシャはなんの用でロフェイの家に来たのか。
「友人だから、ごく自然なことでしょ?」とルーシャ。
普段からそうなのだけど、この人の考えていることがまったく読めない。それは表情からも仕草からも。実のところ、受付嬢としての職場スマイルには、いつも違和感を覚えていた。
ただ、まあ、ロフェイとは付き合っていないのだろう。それだけは確信した。
「お茶、淹れてくるわね」
ルーシャがキッチンへと向かう。
まるで女房気取りだ。
あっ。
驚いたことに、彼女が盆に載せてきたものはハーブ茶だった。そんな馬鹿な! だってロフェイは……。
なんと、ロフェイはそれを美味しそうに飲むのだった。
ちょっと待って。ハーブ茶、苦手だったんじゃ?
ロフェイに尋ねてみると、ルーシャが笑う。
「ああ、確かにね。あたしんちでお茶を飲んだとき、死にそうになってたわ。ミーンミアにはその話をしたけど、リムネは彼女から聞いたのかしら」
「ええ、その話はミーンミアから聞いたの」
「あれはねぇ……。ハーブ茶といっても、かなり特殊なものだったから。あの種類はとってもクセが強いし、香りも独特だし。しかもね、ロフェイがお茶を飲むの、そのときが初めてだったことも大きいわね」
そういうことだったとは……。
さらに茶名を聞いて納得した。父もその茶が大の苦手なのだ。まるで胃薬を飲んでいるようだとか。
ミーンミアの三年間の苦労、報われるかもしれない。
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