31 リムネSIDE
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たったいま、ロフェイがとんでもないことをやりのけた。目の前の出来事が、嘘みたい。まさか優勝だなんて。しかも超難関の熟練者戦。わたしは歓喜した。自分のことのように嬉しかった。
観客席から大声をあげる。
「おめでとう! ロフェイーーーーーーーー」
大観衆の大騒ぎに打ち消され、ロフェイの耳には届かなかったことだろう。
ミーンミアとヘスナートとともに控え室へと向かう。
入室するとそこにロフェイがいた。優勝者の顔が眩しく見えた。全身の毛が立った。自分の仲間にこんな偉人がいるなんて。
魔法なんてまだ覚えたばかりなのに。あなたって人は、どうして優勝なんてできちゃうの?
「きゃっ、きゃっ、ロフェイーーーー」
あらためて『おめでとう』を言うつもりだったけど、言葉にならなかった。
なんだろう、この感覚……。
いま大きな違和感がある。いつものあたしらしくない。まさか緊張している? なんで心臓がドキドキしてるの? きょうのあたし、体調でも悪いのかな。
その帰り道。
ミーンミアが鼻歌を歌っている。いかにも上機嫌そうだ。理由は明白だ。あたしと同じに決まっている。仲間のロフェイがとんでもないことをやってしまったからだ。
翌日。
リムネが庭で花を摘んでいる。彼女が手塩にかけて育てた花だ。世にも珍しい品種の花で三年草。特に三年目にやっと咲いた花の香りが極上だとされている。
香水作り――。それがリムネの趣味だ。あたしもたくさんプレゼントしてもらってきた。ただ今回の香水作りは、いままでとちょっと違う。このハーブを使用するのは初めての挑戦であり、三年もかけて育てたものなのだ。枯れやすくて育てるのが難しい品種のため、非常に手のかかるハーブとされている。それでも最高級の香水の原料となる。
ところがどうしたことか……。
厨房のミーンミアに近づいていった。何をやっているのだろうと、背中越しに覗きみる。彼女は花びらを茶葉の瓶に入れ、かき混ぜ始めたではないか。
「えっ、それハーブ茶に使っちゃうの?」
その花びら、香水に使うはずでしょ? ああ、もったいない。せっかくここまで育ててきた香水用の花なのに! ミーンミアには呆れてしまった。
そりゃ、高級なハーブ茶にはなるだろうけど……。わたしとしては残念だ。ずっと彼女の香水を楽しみにしていたのに。でもまあ仕方ない。彼女の育てた花なんだから自由に使ってほしい。
それにしても……。
ミーンミアの決意の変化が気になった。
なんで香水ではなくハーブ茶なんかに。
「だけどミーンミアって、ハーブ茶、好きだっけ?」
「いいえ、そういうわけではありませんが、ロフェイにあげたいと思いまして。ささやかな優勝祝いのつもりです」
ロフェイに?
ハッとした。このときわたしは気づいてしまった。ミーンミアの彼に対する気持ちに。
それから六日後――。
きょう珍しくロフェイが家に来ている。しかしミーンミアの部屋の中だ。あたしに会うためではなかった。二人はいつからこんなに仲が良くなったのだろう?
今回の訪問はハーブ茶とは無関係のはず。だってまだ完成していないのだから。花の香り付けが終わるのは明日以降だと聞いている。
コーヒーか紅茶でも持っててあげようかしら。
それからあたしも含めて三人で……。
ミーンミアの部屋の前に立った。
二人だけの笑い声。
不思議と胸の辺りがモヤモヤしてきた。
何故か、わたしは思わず耳を塞いだ。
ドアも開けずに自分の部屋まで戻ってしまった。
あたし、何やってるのだろう。
再度、ミーンミアの部屋に向かった。
ドア越しに彼女に言う。
「ねえ、ミーンミア。お願いがあるんだけど。レミラリー社製のマニキュア、買いにいってきてくれないかしら。ほら、いつもあたしが塗ってるやつ。もう使い切っちゃったんだけど、いまちょっと手が離せないの」
彼女一人に買い物を頼むのは、これが初めてだったかもしれない。いつもは買い物を頼むことなどしない。同行はよく頼むけど。
ちなみにマニキュアを切らしているのは嘘ではない。しかしすぐに必要というわけではなかった。
ノックのあと、ドアを開けた。
そしてたったいまロフェイに気づいたフリをする。
目を丸くして見せた。もちろん演技だ。
「あっ、ロフェイ。来てたのね。ミーンミア、ごめんなさい。来客中だったなんて知らなかったの。お買い物はあたしが後で行ってくるから気にしないで。それからロフェイ、ゆっくりしてってね」
二人に背を向けた。
「お邪魔してるぜ。リムネのところには、あとで挨拶に行くつもりだったんだ」
「そんなお気遣い不要よ。二人にコーヒー持ってくるね。お茶菓子も」
「いや、お構いなく」
ミーンミアがわたしを呼び止める。
「あの。わたしマニキュア買ってきます。ピンク色のやつですね? ロフェイ、ごめんなさい。すぐ戻ってきますので」
するとロフェイが立ちあがった。
「買い物だったらオレもいっしょに行くぜ」
えっ、どうしてよ。どうしてロフェイまで……。
あなたは客でしょ。しばらくここで待っていればいいじゃない。
買い物にいく二人の背中を、ただ茫然と眺めた。
自分の部屋に戻った。さっきの行動をを考えてみる。
どうしてあんなことをしてしまったのだろう。あれじゃ、ミーンミアへの意地悪じゃないのよ。ミーンミアは一番の親友でしょ? それなのにあたしって。
つくづく自分の心の醜さが嫌になった。
二人の顔を思いだしながら溜息をついた。
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